第2話 ガチャ

文字数 1,080文字

 とある私鉄駅。ビル一階には鉄道会社系列のスーパーが入っている。その横にはかなりのスペースが有り、ブランド品買い取り業者などが入ったりはするのだが、何れも長続きはせず、しょっちゅう替わったり、空きスペースとなっていたりする。
 ついこの間まで、健康器具の出張販売の業者が、壁寄りの1/3ほどのスペースを借りて、無料体験コーナーをやっていた。時間を決めて説明会をし、足や腰に電気をあてる機械を無料で体験させているのだ。
 もちろん、最終的には販売が目的なのだが、まさかこんな場所で、昔の『ハイハイ商法』のような露骨な押し売をやっている訳では無いだろう。
 それはともかく、当然、対象は年寄りと言うことになる。無料で治療出来れば儲けと思う年寄が集まって来る。
 囲われた体験スペースの反対側には、大きなガラス窓に向かって、パイプ椅子とテーブルがセットになって、間を空けて並んでいる。

 毎日有る体験会の時間前には、年寄り達が椅子とテーブルを占拠して、開始を今や遅しと待つことになる。皆、我儘な上に喋り好きだから、窓に向かって大人しく離れて座っている訳も無いのだ。椅子とテーブルを一箇所に集めて井戸端会議を始めてしまう。
 当然、壁には注意書きが貼ってある。飲酒、喫煙を禁じるのは当然として、
『多くの方にご利用頂けるよう、長時間のご利用はご遠慮下さい。また、椅子やテーブルの移動はしないで下さい』
と書いてある。しかしそんなことはどこ吹く風。老人たちは全く気にしていない。
 利用料を取って業者に貸している以上、余り煩い事も言えないので、店側も見ぬ振りをしていたに違いない。

 問題は。契約期間が終わって、業者が引き上げた後に起きた。
 時折、爺さんが混じっていたりもするのだが、ほぼ婆さんばかり十数人が、毎日、椅子とテーブルを一箇所に集めて井戸端会議を開くようになってしまった。開店から夕方四時頃まで毎日喋り続けている。
 何故女が男より長生きなのかと言う理由の一つに、良く喋ることも必ず入っているに違いない。

 それはともかく、参ったのは店の方だ。一応常連客なのだから、余り強く言う事も出来ない。
 かと言って、この猛暑に買い物のついでに少しの間涼んで行って貰おうと言う意図で提供しているスペースを、毎日長時間同じメンバーに占領されたのでは困る。
 翌日、スペースを仕切るように、十台ほどのガチャがスペース中央に並べられた。だが、ガチャを回す子供の姿は無い。
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