第7話 猥雑

文字数 1,018文字

猥雑

 トーヨコと呼ばれる辺りは昔から猥雑なところだったなと男は思う。
 映画館やボーリング場、コマに囲まれた広場だった。すぐそこがホテル街だから、あの頃も家出少女は居たし、札びら見せ付けて淫行をしようとするエロオヤジも居た。
 クスリ、喧嘩、不良外国人、昔と何も変わっちゃいない、ホストなんて奴らの出現を除けば。

 トランプが “移民がペットを食っている” と発言した。この男を支持する国民が半数も居るなんて、アメリカも民度の低い国だと男は思う。

『ハンバーガーでも食うか?』 
と聞くと、その頃付き合っていた女は
『あたし、ハンバーガーなんて食べない。だって猫の肉使っているって言うじゃない』
 いつの時代にも、怪しげな噂話と言うものは流れる。確かに、この頃、そんなデマが一部で囁かれていた。
『この女、大量の猫を捕まえてミンチにすることがどんなに大変なことなのかと言う発想が全く無いのか?』と男は思った。
「もしそうなら、日本中のバンドのギターが三味線に変わるぞ」
 そう言ってみたが、女には、通じるはずも無い。
「何? それ」
 メイクとファッションと長い髪。それで本人はイケてる女のつもりでいるんだろうが、頭の中は、スッカスカだと露呈してしまっている。
「お前、帰れ、もう」
「なんでよう!」
「なんか、急にやる気無くなった。おウチ帰って寝な」
「なんなのよう、こんなところで放り出して。アタシ、他の男にナンパされてもいいの?」
「ナンパされて、付いて行くも行かないも、そりゃお前の自由だ」
「何よ! バカ男。こっちから別れてやるわ」
 男は女に向かって”じゃあな“ と手を挙げ、コマの角を曲がって、花園神社の方に向かった。

 一見、喫茶店かスナックのような外見の店に入ると、ゲーム機が並んでいて、その殆どに客が座っている。左の席では婆さんが一人ポーカー・ゲームに興じていて、Wアップボタンをバタバタ叩いている。
 男が財布から札を一枚出して振ると、店員のアンドレアが来て札を受け取り、ゲーム機にキーを突っ込んで何回かひねるとその分だけ持ち点が表示される。
 アンドレアはシチリアの出身。“伯父さんはマフィアのボスだ” と言うのが触れ込みだが、誰も信じちゃいない。右側で打っているのは、隣のビルの三階に有る飲み屋のオヤジなのだが、ボッタクリで捕まってつい最近まで留置場に入っていた。

 猥雑さと怪しげなデマが飛び交う街・歌舞伎町。男は、ここが自分の居るべき場所なのだと思う。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み