ミンストレル・ショーって何だったんだろう?

文字数 1,335文字

はい。ここまでステレオタイプの話でしたけど、それとブラックフェイスにはどんな関係があるんでしょうか?
そのことを考えるには、アメリカの歴史を振り返る必要があるの。
えー……世界史苦手です……。
年号までわからなくても、流れがつかめていればいいのよ。

まず、アフリカ人の子孫がアメリカ大陸に住んでいる現状があるわけだけど、これはなぜ?

奴隷として……売られて来たから?
ね。彼らの先祖の中に、奴隷としてアフリカ大陸から売られて来た人々が多くいたからよね。そうでない人もいるけど。

奴隷の人々の暮らしは、どんなものだったのかしら。

暮らしって……奴隷って自由がないんですよね? お金で売り買いされて、働かされて……。
そうね。ところで久恵里ちゃん、フォスターの「主人は冷たい土の中に」という曲は知ってる?
主人は冷たい……あ、中学の音楽の教科書に出てきました。小学校のときは「静かにねむれ」ってタイトルで載ってたような。
あの曲は、優しかった主人の死を悲しむ奴隷たちを描いたものよね。
それは、いろんな人がいるわけだし、中には優しい主人もいたかもしれないけど……。
同じフォスターの「故郷の人々」も、奴隷の視点から書かれた曲なんだけど、「昔過ごしたあのプランテーションが今も恋しい」という意味の歌詞があるのよ。
それは、中にはそういう人も……。

これ、奴隷の人々が実際にそうだった、っていうより、奴隷でない人たちが、そうであってほしいと思ってたことの表れじゃないかしら。

あっ……。
実は、「故郷の人々」や「主人は冷たい土の中に」は、元々はミンストレル・ショーのために書かれた曲なのよ。
ミンストレル・ショー……それは何度か話題に出てるのを見ました。アメリカで流行したショーで、肌に色を塗って舞台に出たっていう……。
そうね。ミンストレル・ショーでは、奴隷の人々を表すために、役者の顔を黒く、唇を大きく塗って、舞台に上げたの。そうして滑稽な歌やお芝居を観客に見せていた。
それで奴隷の人々を侮辱していた?
そういう面はあるけれど、もうすこし細かく捉えたほうがいいわ。

ミンストレル・ショーでの奴隷の描かれ方を大まかにまとめると、「歌や踊りが得意で陽気だけど頭は悪い。酷い目に遭っている人もいるけどあくまで一部で、その他大勢は幸せに暮らしている。自由になった元奴隷も、主人のもとに帰りたがっている」って感じね。まあもっと酷い内容もあったみたいだけど。

それは……奴隷の人々は本当にそうだったんでしょうか?
まあ、ないでしょうね。さっき言ったとおり、これは「奴隷でない人が、そうであってほしいと思っていたことの表れ」よ。つまり、都合の良いイメージを押し付けていたのね。
それが、ステレオタイプってことですか?
そうね。奴隷だった人たちも、一人一人違うはずなのに、そこに都合の良いイメージをまとめて押し付けるのは、ステレオタイプと言っていいでしょう。

そのステレオタイプは、奴隷として売り買いされ働かされ、時に理不尽に家族を殺されていた人々の苦しみや悩みから、目をそらさせるよう働いていた。

痛みや苦しみが、なかったことにされる……。怖い……。
ええ。そしてこのことは、日本の人々にとっても無縁ではないわ。

次は、その話をしていきましょう。

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登場人物紹介

久恵里(くえり)

主に質問する側

せんせい(先生)

主に答える側

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