4話

文字数 2,137文字

 それから有沢との関係も進展することもなく、学区内の建物などを巡るイベント、町探検の日になった。
 おそらく一緒に回るメンバー30年前と替わっていない。真、有沢、それとクラスメイトが男女一人ずつだ。
「楽しみだね、町探検」
 校門の前に2年生全員が座らされ町探検の説明を受けていたとき、隣に座っていた有沢が真に話しかけてきた。真はにっこりと笑って、
「でも有沢さん迷子になるんじゃない?みんなからはぐれて」
「そ、そんなことないよ…たぶん」
 有沢は慌てて首を横に振るが、次第に自信がなくなったのか首がだんだんゆっくりになっていって、止まった。それから何かを考えているのか真正面を見つめ無言になって、唐突に真の方を向いた。
「もしかしたら、迷子になるかもしれないから。手つなご?」
「え?むりむりむり!恥ずかしいし…」
「えー、じゃあがんばって迷子にならないようにする!」
 有沢は決意したようにそう言った。それを聞いてから真は有沢と手をつなぐ機会を逃してしまったとちょっと後悔したのだが、時すでに遅し。今から「やっぱり手つなぐ!」とは言えず、真はしょんぼりしながら再び先生の話を聞き始めるのだった。
 先生の長い話も終わり、町探検がスタートした。真の班は、まず学校の近くにある神社に行って話を聞き、その後商店街にあるパン屋に行く。真は長時間グラウンドの上に座らされ砂の付いたズボンをはたき、首から提げている下敷きに挟まれているプリントをみて確認する。
「よし、行こうぜ真」
 班の男子が真に向かって声をかけた。確か名前は…思い出せない、クラスでお調子者だったことは覚えているのだがどうしても名前が思い出せない。まあ髪型が坊主なので坊主とでも呼ぶことにしよう。
 その坊主はお調子者なのに加えせっかちだったようで何かと真を急かしてくる。信号が赤なので止まっていると「どうせ轢かれることなんてないんだから早くわたろうぜ」とか、「ここ通ったら近道なんだよ」とかいって他人の家に堂々と不法侵入しようとしたり。
 真も最初は「アホかぺしゃんこになるぞ」「どうみても回り道だろ人の家には勝手に入るな」と注意をしていたが神社に着く頃にはそれも面倒になって坊主を無視して女子二人を連れて神社の宮司の話を聞いていた。
 宮司の話は以外とおもしろく、見たことがなかった神社の中を見せてもらうことができ真は楽しめたのだがほかの三人は退屈だったようで坊主なんかはメモするふりをして必死に紙に落書きをしていた。どうせなら屏風に上手に坊主の絵でも描けばいいのに。
 宮司も三人が退屈していることに気づいたのか話はそれほど長くはなかった。宮跡の話が終わると真たちは次はパン屋へと向かった。
「なあ、ここ渡ったら早く着くぜ絶対」
 商店街へと向かう途中、そんなことを言ったのはやはり坊主だった。坊主は家の塀を指さしている。真は変わらず坊主を放置していたのだが、
「だめだよ、落ちたら怪我しちゃうから」
 そういったのは真の後ろに立っていた有沢だ。すると坊主はさっきまで無視されていて相手にされたことが嬉しかったのだろう。
「あー、おまえ怪我するのが怖いからそんなこと言ってんだろ。やーいよわむしー」
 坊主は調子に乗って有沢を挑発した。対して有沢は、
「そんなんじゃないもん!よわむしでもじゃないし!」
 怒って言い返した。それが坊主をさらに増長させる。
「ならそこ渡ってみろよ。よわむしじゃないんだろ?」
 真はそろそろ坊主を本気で叱ろうと思ったが、それより先に有沢が動いた。有沢は方の高さにある塀をよじ登り、歩き始めた。そして、
「コラァ!なにしてるお前ぇ!!」
 真より数倍怖い怒鳴り声が辺りに響きわたった。あまりの恐怖に有沢と真の隣に立っていた女子は体が竦み動けなくなっていた。有沢が立っている塀の家に住んでいるおっさんが家から出てきたのだ。
「早く塀から降りてこっちに来い!」
 怖い顔で睨まれ、有沢は足が震えていた。おっさんが近づいてくると無意識に後ろに下がろうとする。しかし塀には後ろへ下がれるほど幅はない。有沢の足は地面に着くことができずそのまま後ろに倒れてしまう。
「――っ!!」
 真は駆けだした。有沢の体が落下するよりも早く有沢の落下地点にうつ伏せに倒れ込んだ。有沢の重力に引っ張られている体が真の体に落下した。
「うっ」「きゃっ」
 真と有沢は落下と同時に声を上げた。真は慌てて上に乗っている有沢の様子を確認する。どうやら怪我はないようだ。真は安堵に胸を撫で下ろした。
 有沢が起きあがったので真も起きあがろうとすると、痛みが体に走った。アスファルトの地面をスライディングしたせいでところどころ擦り傷ができていた。何とか立ち上がると目の前にはかなり怒っているいる表情を浮かべたおっさんがいた。
「ほらなあ、そんなことするから怪我するだろうが」
「ごめんなさい」
 真はすぐさま頭を下げた。しかしこのおっさんの怒りは収まらないようだった。
「ああ?ごめんなさいだあ?なら塀のぼるなよ。わかってんだろ悪いことって」
 ああこいつ話長いおっさんかめんどくさい!真は心の中で叫ぶのだった。
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