1話
文字数 1,753文字
「真くん、一緒に帰ろ?」
5月、少し夏の暑さを感じてきた初夏のこと。
小学校の教室で、一人の少年が声をかけられ振り返った。振り返った先に見えたのはランドセルを背負わず手に持った少女だった。
少年と同じくらいの身長で、同い年だと思われるその少女は幼い子供特有の何の汚れもない純粋な笑みを浮かべ少年の顔を見ていた。
しかし少年は少し困った風に顔を歪ませ、
「今日はちょっと寄るところがあるから無理かな」
「えぇ…そっか……」
少年の言葉を聞いた少女は心底残念そうに呟き、持っていたランドセルを手で持ったまま教室の床に落とした。
そんな少女を見て少年は最初は困った顔をしていたが、次第に少年の口角があがり始めついには笑い出した。
「ごめん、今のうそ。待ってて、すぐ準備するから」
そう言って少年は自分のランドセルに教科書や宿題のプリントが挟んであるファイルを入れ始める。
少女はぽかーんと呆けた顔をしていたが、少年と帰れることがわかると再び少女の顔に笑みが浮かび準備をしている少年を早く早くと急かし始めた。
少年の準備が整うと、二人は教室を出て靴を履き替え太陽の光によって眩しいほどに照らされているグラウンドを歩く。
「なんか、真くんって最近いきなり大人っぽくなったよね」
少女は先ほどと変わらない口調で少年に話しかけた。しかし先ほどとは違い少年の返事はすぐには返ってこなかった。少女が話し終えて3秒ほどたった後少年は、
「そうかなぁ」
と誰に言うのでもなく呟いたのだった。
それから特に中身のない会話をしながら帰路をたどり、少女と別れる道にやってきた。
「じゃあね~」
手をぶんぶんと大きく降りながら叫んだ少女に少年は手を少女と比べるとかなり小さく振り返した。そして少女が歩いている道とは別方向の道をしばらく歩くと、少年は大きなため息を吐いた。
この少年、春野 真 は二つの大きな秘密を抱えていた。
一つは初対面の人に名前を間違われることがかなり嫌いなこと。よく下の名前を「まこと」と読まれ何度違うと説明したことか。
もう一つは、真はさっきまで一緒に帰っていた少女と同い年ではないことだ。
事の発端はちょうど一週間前のことだった。
ある事故で38歳の時、マンションの6階から落ちたはずの真は気づくと実家の自分の部屋だった場所に立っていた。
真はまず生きていることに驚いて地面と衝突しているはずの頭を手のひらでぺたぺたと触ってみたが手術の痕どころか傷口すらなかった。
やっぱり自分は死んでいて、ならここは天国なのかと思い周囲を見渡してみるがどう見てもそんな風には見えない。
とりあえずここが本当に実家なのかを調べるため真は部屋から出てリビングに行ってみたがそこにはもっと不思議なことが起こっていた。リビングのソファーには母親が寝転がっていた。
しかもただの母親ではなく、真の記憶の中にある母親よりもずっと若い母親がソファーに横たわっていた。言うなれば記憶の中の母親を30年ほど若返らせた感じだった。
その若い母親は真の顔を見ると、
「ん?宿題は終わったの?」
と話しかけてきた。
「宿題?」
ほとんど無意識のうちに真は聞き返すと母親は呆れたような顔をしてよいしょと言いながらソファーから起きあがり立ち上がった。しかしなぜか母親の身長が真よりも高い。前にあったときは少なくとも15センチは差があったはずである。
「とぼけてもだめ、小学生のうちからさぼってたら大きくなったときに困るのよ。ほら、お母さん晩ご飯作るからその間に済ませちゃいなさい」
母親はそういうとキッチンの方へと歩いていった。
真の頭には数え切れないほどの疑問が浮かび、しばらくその場に立ち尽くしていた。
とりあえず部屋に戻ろうとリビングから出てふと自分の姿が映った鏡を見て真は驚愕した。
そこには、子供の時の姿に戻っていた自分がいた。
真は首を傾げたり、手を挙げたりして鏡に映っているのが自分だということを確かめると鏡に額を押し当てた。
「なんで…なにがどうなってこうなったんだ……」
真は鏡に映る子供の姿の自分に問いかけたが、鏡の中の自分が返事をすることはなかった。
5月、少し夏の暑さを感じてきた初夏のこと。
小学校の教室で、一人の少年が声をかけられ振り返った。振り返った先に見えたのはランドセルを背負わず手に持った少女だった。
少年と同じくらいの身長で、同い年だと思われるその少女は幼い子供特有の何の汚れもない純粋な笑みを浮かべ少年の顔を見ていた。
しかし少年は少し困った風に顔を歪ませ、
「今日はちょっと寄るところがあるから無理かな」
「えぇ…そっか……」
少年の言葉を聞いた少女は心底残念そうに呟き、持っていたランドセルを手で持ったまま教室の床に落とした。
そんな少女を見て少年は最初は困った顔をしていたが、次第に少年の口角があがり始めついには笑い出した。
「ごめん、今のうそ。待ってて、すぐ準備するから」
そう言って少年は自分のランドセルに教科書や宿題のプリントが挟んであるファイルを入れ始める。
少女はぽかーんと呆けた顔をしていたが、少年と帰れることがわかると再び少女の顔に笑みが浮かび準備をしている少年を早く早くと急かし始めた。
少年の準備が整うと、二人は教室を出て靴を履き替え太陽の光によって眩しいほどに照らされているグラウンドを歩く。
「なんか、真くんって最近いきなり大人っぽくなったよね」
少女は先ほどと変わらない口調で少年に話しかけた。しかし先ほどとは違い少年の返事はすぐには返ってこなかった。少女が話し終えて3秒ほどたった後少年は、
「そうかなぁ」
と誰に言うのでもなく呟いたのだった。
それから特に中身のない会話をしながら帰路をたどり、少女と別れる道にやってきた。
「じゃあね~」
手をぶんぶんと大きく降りながら叫んだ少女に少年は手を少女と比べるとかなり小さく振り返した。そして少女が歩いている道とは別方向の道をしばらく歩くと、少年は大きなため息を吐いた。
この少年、
一つは初対面の人に名前を間違われることがかなり嫌いなこと。よく下の名前を「まこと」と読まれ何度違うと説明したことか。
もう一つは、真はさっきまで一緒に帰っていた少女と同い年ではないことだ。
事の発端はちょうど一週間前のことだった。
ある事故で38歳の時、マンションの6階から落ちたはずの真は気づくと実家の自分の部屋だった場所に立っていた。
真はまず生きていることに驚いて地面と衝突しているはずの頭を手のひらでぺたぺたと触ってみたが手術の痕どころか傷口すらなかった。
やっぱり自分は死んでいて、ならここは天国なのかと思い周囲を見渡してみるがどう見てもそんな風には見えない。
とりあえずここが本当に実家なのかを調べるため真は部屋から出てリビングに行ってみたがそこにはもっと不思議なことが起こっていた。リビングのソファーには母親が寝転がっていた。
しかもただの母親ではなく、真の記憶の中にある母親よりもずっと若い母親がソファーに横たわっていた。言うなれば記憶の中の母親を30年ほど若返らせた感じだった。
その若い母親は真の顔を見ると、
「ん?宿題は終わったの?」
と話しかけてきた。
「宿題?」
ほとんど無意識のうちに真は聞き返すと母親は呆れたような顔をしてよいしょと言いながらソファーから起きあがり立ち上がった。しかしなぜか母親の身長が真よりも高い。前にあったときは少なくとも15センチは差があったはずである。
「とぼけてもだめ、小学生のうちからさぼってたら大きくなったときに困るのよ。ほら、お母さん晩ご飯作るからその間に済ませちゃいなさい」
母親はそういうとキッチンの方へと歩いていった。
真の頭には数え切れないほどの疑問が浮かび、しばらくその場に立ち尽くしていた。
とりあえず部屋に戻ろうとリビングから出てふと自分の姿が映った鏡を見て真は驚愕した。
そこには、子供の時の姿に戻っていた自分がいた。
真は首を傾げたり、手を挙げたりして鏡に映っているのが自分だということを確かめると鏡に額を押し当てた。
「なんで…なにがどうなってこうなったんだ……」
真は鏡に映る子供の姿の自分に問いかけたが、鏡の中の自分が返事をすることはなかった。