6話

文字数 1,753文字

 真はいろいろあった町探検から家に帰ると風呂を浴びた。アスファルトをヘッドスライディングしたせいで擦り傷がかなりしみたが何とか風呂に入り、出るとすぐにベッドに横たわった。そして今日の帰りのことを思い出して真の顔が真っ赤に染まる。
 有沢の名前を呼んだときのとても幸せそうな顔が、瞼を閉じたら鮮明に浮かんできて寝れたものじゃなかった。それに加え有沢の手を繋いだ時の温もりが未だに手から感じられる気がして、それに有沢を名前を呼んだときのこともよみがえってきて真の顔がどんどん火照っていき、胸が熱くなる。
「あーくそっ!」
 しかし、だからこそ今日有沢を泣かせたことを心の底から悔やんでいた。
 あのとき、坊主が有沢を煽る前にあのムカつく頭に拳骨を入れておけば、自分があのうっさいおっさんに言い返せていれば……
 有沢を守りたい、そう強く思っていた。もう二度と泣かせないように、有沢のためにも、自分のためにも。しかしそうするためにはどうすればいいのか。四六時中有沢のそばに入れるわけではないし、小学校まではいいが30年前は中学校に入る頃には疎遠になっている。もし今回もそうなったら有沢を守れるわけがない。
 真は考えた。そしてしばらく悩んだ後、一つの方法が挙がった。
 それは、有沢の恋人になること。
 そうすれば有沢のそばにずっといることができるし別れない限り疎遠になることはない。
 真は有沢と付き合うことを決意して、眠りにつくのだった。
 しかし、付き合うといってもどうすればいいものか。真はいつもよりも早めの時間帯に通学路を通って登校しながら頭を悩ませていた。
 告白するにしても今したとしても断られるだろう。もっと有沢と仲良くならなければ、しかしどうやって…
 そんなことを考えていると、見覚えのある忌々しい坊主頭が目に入った。坊主は真より前にいて、信号を待っていた。
 真は一旦考えるのをやめて坊主の説教をすることにした。
「おい」
 真は早足で坊主のところまで駆け寄ると声をかけた。
「ん?ああ、春野じゃん。どしたんだ」
 叱られるとは一ミリも思っていない、のんきな口調で返してきたので真は表情を険しくし、
「なあ、おまえ昨日俺たちがうるさいおっさんに叱られてるときこっそり逃げてたよな?」
「え!?い、いやぁなんのこと?俺もそこにいたよ。きっと春野のすぐ後ろにいたから見えなかっただけで――」
「逃げてたよな?」
 声のトーンを落として聞くと坊主はびくっと動きを止めた。
「なあ、別にいいんだよ。おまえが一人で馬鹿して一人で怪我する分には。別に自分が迷惑被るわけでもないし、でもな」
 真は坊主の顔をしっかりと見つめた。坊主は目を逸らす。
「他人に迷惑かけるのはやめろよ、もうすぐで有沢が塀から落ちて怪我するところだった」
「な、なんだよ。おまえには迷惑かけてねえじゃん。おまえ有沢のこと好きなのか?」
「そんなことは関係ない」
 ぴしゃりと言い返され坊主は押し黙った。
「それに俺もあのうるさいおっさんに叱られたからな。迷惑はかけられてる。ただこれ以上俺が言ってもお前は反省しないだろうし、時間の無駄だ、だから――」
 坊主はそれを聞いてほっと息を吐いた。説教が終わると思ったのだろう。
「拳骨一発で許してやる」
 硬く握られた真の拳をみて坊主が逃げ出した。しかしそんな坊主の襟を真は素早くつかんだ。そして辺りに坊主の悲鳴と硬いもの同士がぶつかり合う音が響きわたるのだった。
 坊主の説教が終わり、真は学校へと着いた。上靴に履き替え階段を上り教室にはいる。有沢はまだきてなかった。
 有沢が来ていないのなら有沢と仲良くなるための作戦が考えられる。真はそう思ってランドセルを机において教科書出していると、なんだか教室の外からばたばたと騒がしい音が聞こえてきた。
 遅刻して教室に駆け込むには時間が早すぎる。何をそんなに急いでいるのかと思いながら教科書を机の中に入れていると、
「あぁ!真くんいた!」
 騒がしい音の元凶はまさかの思い人だった。有沢は教室のドアのところでそう叫ぶとこちらに近づいてきて、両手を合わせ、
「真くん、一生のお願い――九九覚えるの手伝って!!」
 と懇願されるのであった。
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