7話
文字数 1,945文字
「九九って…算数の?」
両手を合わせ拝むようにしてこちらを向く有沢に真は聞き返した。有沢はぶんぶんと首を縦に振る。
「そう!今日九九のテストでしょ?私全然覚えられなくて」
「ああ、そういえば」
前の算数の授業の時に先生が言っていた気がする。九九を全部完璧に覚えている真は勉強もなにも必要なかったのですっかり忘れているのだった。
「有沢さん算数ニガテだっけ」
真がそう聞くと、有沢はなぜだか不満そうな顔で真を見つめだした。なぜそんな顔をするのかわからず真はたじろぐ。
「言ったじゃん、名前で呼んでって」
「ゴメン、なんか慣れなくて…」
30年間ずっと名字で呼んできたのだ、急に変えろと言われても癖で出てしまう。まあ真が名前で呼ぶのを恥ずかしがっているというのもあるが、
「空は算数苦手だっけ」と真は言い直した。
有沢は満足そうな顔でそれを聞いた後、表情を曇らせこっくりと頷いた。
「真くん全部覚えてたでしょ?だから教えてくれないかなあって」
有沢は手の先をすり合わせて真に言った。付き合いたいと思っている女の子からの頼みを断るわけもなく、真は二つ返事で引き受けるのだった。
そして早速有沢に九九を言わせてみたのだが、
「そこ違うよ」「あ、さっき間違えてた」「またそこ違う」……
多くある間違いを真に片っ端から指摘され、五の段にたどり着いた頃には有沢はもう心が折れそうになっていた。
「こんなにたくさん覚えられないよ!もうこうなったら…」
有沢は算数のノートを取りだした。そのノートの中の白紙のページを一枚ちぎり、位置の段から答えを書いていく。
もちろん真は一の段を書ききる前に紙を有沢から取り上げた。
「カンニング、だめ、絶対」
「あー、だめだよ覚えられないんだもん!」
カンニングペーパーを取り上げられた有沢はブーブーと文句を言う。そんな有沢に真はため息をつき、ふと疑問が頭をよぎる。
「そういえば九九習い始めてからまだ一週間も経ってないのにテストってはやすぎるような――」
「そうだよ早すぎるよ!だからカンニングしてもしょうがない!」
「そんな訳ないだろ。ほら、算数は2時間目だし時間無いから早く覚えるよ」
「うー……」
真は早く九九を覚えさせようとするが有沢が渋る。これではどうしようもないので真は有沢に何とかやる気を出してもらおうと考える。
「そうだ、一つ間違えるごとにでこピンしよう」
「もっとやりたくないよ!」と、有沢はおでこを押さえながら叫んだ。
「そうか、なら九九を全部覚えれたら何かご褒美をあげよう」
「え!ご褒美!?」
「で間違えたらでこピン」
「なんで!」
しかしご褒美という言葉に惹かれるらしく、有沢はおでこを押さえながらも九九を唱え始めるのだった。
そして一時間目が終わり算数がある2時間目の前の休憩、
「くはしちじゅうに、くくはちじゅういち!できた!」
真は休憩時間を全部使って有沢に教え込ませた結果、何とか有沢は九九を最後まで言えることができるようになった。
だが……
「今日はテストですね、出席番号で並んで一人ずつ一 の 段 をテストしますよー」
「一の段…だけ……?」
有沢たちは呆然とした。せっかく頑張って覚えたのに、すべてが水の泡になったかのように有沢はショックを受けていた。
もちろん有沢は一の段のテストを合格した。その後、二時間目の後の休憩で真はとても落ち込んだ様子の有沢と話していた。
「せっかく全部覚えたのに…」
「ま、まあこれから他の段もテストがあるんだからさ、もう覚えなくていいと思ったら得した気分になるでしょ?」
真は有沢の機嫌を直そうと必死に言葉をかけた。
「そうだよね、それにご褒美もあるし!」
「あ、そっか。全部覚えたらご褒美あげるって約束だっけ」
実のところご褒美といっても何をあげるか決めていなかったため、真は有沢にあげるご褒美を考え始める。
「……あ、空は僕に何かして欲しいことある?」
考えてもなにも思いつかなかったため有沢に聞くと、有沢は首を傾け悩み始めた。
「うーん、じゃあ」有沢は少し顔を赤くし、
「頭、撫でて?」
といつもより小さな声で有沢は言った。
「う、うん」
真は緊張した面持ちで頭をこちらに向ける有沢の頭に手を伸ばし、有沢の頭を撫でた。有沢のさらさらの髪の感触が手から伝わる。
このままずっと撫でていたかったがすぐに気恥ずかしくなってしまい、真はすぐに有沢の頭から手を離してしまう。しかし有沢は満足そうな笑みを浮かべてえへへと無邪気に笑った。
その日一日中、真は有沢の頭を撫でたことで頭がいっぱいになり授業を受けるどころではなくなるのだった。
両手を合わせ拝むようにしてこちらを向く有沢に真は聞き返した。有沢はぶんぶんと首を縦に振る。
「そう!今日九九のテストでしょ?私全然覚えられなくて」
「ああ、そういえば」
前の算数の授業の時に先生が言っていた気がする。九九を全部完璧に覚えている真は勉強もなにも必要なかったのですっかり忘れているのだった。
「有沢さん算数ニガテだっけ」
真がそう聞くと、有沢はなぜだか不満そうな顔で真を見つめだした。なぜそんな顔をするのかわからず真はたじろぐ。
「言ったじゃん、名前で呼んでって」
「ゴメン、なんか慣れなくて…」
30年間ずっと名字で呼んできたのだ、急に変えろと言われても癖で出てしまう。まあ真が名前で呼ぶのを恥ずかしがっているというのもあるが、
「空は算数苦手だっけ」と真は言い直した。
有沢は満足そうな顔でそれを聞いた後、表情を曇らせこっくりと頷いた。
「真くん全部覚えてたでしょ?だから教えてくれないかなあって」
有沢は手の先をすり合わせて真に言った。付き合いたいと思っている女の子からの頼みを断るわけもなく、真は二つ返事で引き受けるのだった。
そして早速有沢に九九を言わせてみたのだが、
「そこ違うよ」「あ、さっき間違えてた」「またそこ違う」……
多くある間違いを真に片っ端から指摘され、五の段にたどり着いた頃には有沢はもう心が折れそうになっていた。
「こんなにたくさん覚えられないよ!もうこうなったら…」
有沢は算数のノートを取りだした。そのノートの中の白紙のページを一枚ちぎり、位置の段から答えを書いていく。
もちろん真は一の段を書ききる前に紙を有沢から取り上げた。
「カンニング、だめ、絶対」
「あー、だめだよ覚えられないんだもん!」
カンニングペーパーを取り上げられた有沢はブーブーと文句を言う。そんな有沢に真はため息をつき、ふと疑問が頭をよぎる。
「そういえば九九習い始めてからまだ一週間も経ってないのにテストってはやすぎるような――」
「そうだよ早すぎるよ!だからカンニングしてもしょうがない!」
「そんな訳ないだろ。ほら、算数は2時間目だし時間無いから早く覚えるよ」
「うー……」
真は早く九九を覚えさせようとするが有沢が渋る。これではどうしようもないので真は有沢に何とかやる気を出してもらおうと考える。
「そうだ、一つ間違えるごとにでこピンしよう」
「もっとやりたくないよ!」と、有沢はおでこを押さえながら叫んだ。
「そうか、なら九九を全部覚えれたら何かご褒美をあげよう」
「え!ご褒美!?」
「で間違えたらでこピン」
「なんで!」
しかしご褒美という言葉に惹かれるらしく、有沢はおでこを押さえながらも九九を唱え始めるのだった。
そして一時間目が終わり算数がある2時間目の前の休憩、
「くはしちじゅうに、くくはちじゅういち!できた!」
真は休憩時間を全部使って有沢に教え込ませた結果、何とか有沢は九九を最後まで言えることができるようになった。
だが……
「今日はテストですね、出席番号で並んで一人ずつ
「一の段…だけ……?」
有沢たちは呆然とした。せっかく頑張って覚えたのに、すべてが水の泡になったかのように有沢はショックを受けていた。
もちろん有沢は一の段のテストを合格した。その後、二時間目の後の休憩で真はとても落ち込んだ様子の有沢と話していた。
「せっかく全部覚えたのに…」
「ま、まあこれから他の段もテストがあるんだからさ、もう覚えなくていいと思ったら得した気分になるでしょ?」
真は有沢の機嫌を直そうと必死に言葉をかけた。
「そうだよね、それにご褒美もあるし!」
「あ、そっか。全部覚えたらご褒美あげるって約束だっけ」
実のところご褒美といっても何をあげるか決めていなかったため、真は有沢にあげるご褒美を考え始める。
「……あ、空は僕に何かして欲しいことある?」
考えてもなにも思いつかなかったため有沢に聞くと、有沢は首を傾け悩み始めた。
「うーん、じゃあ」有沢は少し顔を赤くし、
「頭、撫でて?」
といつもより小さな声で有沢は言った。
「う、うん」
真は緊張した面持ちで頭をこちらに向ける有沢の頭に手を伸ばし、有沢の頭を撫でた。有沢のさらさらの髪の感触が手から伝わる。
このままずっと撫でていたかったがすぐに気恥ずかしくなってしまい、真はすぐに有沢の頭から手を離してしまう。しかし有沢は満足そうな笑みを浮かべてえへへと無邪気に笑った。
その日一日中、真は有沢の頭を撫でたことで頭がいっぱいになり授業を受けるどころではなくなるのだった。