2話

文字数 1,634文字

 真は鏡に映る自分の瞳に映る子供の頃に戻った自分の姿を見て、なにも考えることができず呆然としていた。
「真~?宿題進んでる~?」
 台所から調理する音に紛れて母の声が聞こえた。
 その声で真ははっと意識を取り戻し、とりあえず母の言う通り自室に戻り宿題を済ませることにした。したのだが、
「宿題ってどれだよ…」
 真はランドセルの中身を一通り出して探ってみるが宿題だと思われるプリントは見当たらなかった。ならばドリルか何かなのかと思い真はカメのイラストが印刷してある連絡ノートを開いてみるが、明日の時間割を書いていない。
「くそー、ちゃんと時間割書けよ30年前の俺」
 さすがに30年前の今日の宿題など覚えているはずもなくどれが宿題かわからない。中学生や高校生ならLINEやら何やらクラスメイトに聞くこともできただろうが今の真は小学生だ。まず携帯を持っていない。
「はー、しょうがない。明日学校に行って休憩の間に何とか終わらせよう」
 真は潔く諦めて教科書やノートで散らかった部屋を片づけながら晩ご飯ができあがるのを待つことにした。結果的に食事中に宿題をやってないことがばれ、年甲斐もなく母に怒られることになるのだが。
 こっぴどく叱られてしまった真はげんこつを喰らって痛む頭をさすりながら風呂に入った。改めてみると顔だけではなく全身どこもかしこも子供の頃に戻っていた。まあそこまでサイズが変わっていないところもあったが……いや、この話はやめよう。悲しくなる。
 真は自分の股間から目を離すと立ち上がり、湯船に浸かるのだった。
 風呂から上がると真はベッドに横たわりぼーっと天井を眺めていた。
 何も考えないでそんなことをしていると、空っぽになった頭に入り込むように生まれた疑問の渦に襲われた。
 何で俺は生きているんだ?何で子供の姿に戻っているんだ?これは現実なのか?実は死後の世界なんじゃないか?
 真の小さくなった頭の中ではいろいろな疑問が右往左往し、真はそれを振り払うように右腕を天井に向けて突き上げ目を腕で覆った。
 こんなことを考えていても仕方がない。そうわかっているのに真の頭には次々と疑問が生まれ、自分自身の存在に自信を持てなくなり急に不安になって呼吸が荒くなる。
 そうして真は夜が明けるまでずっと恐怖に震えていた。
 真は窓から射し込む日の光で目を覚まし、一応は眠れたのかとため息をついた。
 少し時間が早いがベッドから起きあがり懐かしい小学校の制服に袖を通した。親が起きていないのでとりあえず学校へ行く準備をすることにした。しかし、
「そうだった…時間割わかんないんだった……」
 30年前の真が連絡ノートを書いていなかったため宿題同様わかるはずがない。仕方がないのでとりあえず全教科持って行こうと思い教科書類を全部ランドセルに詰め込んだ。
 そのせいで登校時にとても後悔することになるのだが…このときの真は知る由もなかった。
 それから時間が経ち、ずっしり重いランドセルを背負った真が教室に着くのはそれから30分後だった。
 真は肩に食い込んでいた重いランドセルを投げるかのように乱暴に机の上に置いた。確認していないからわからないが、恐らく真の肩は赤くなっているだろう。重すぎて途中から中身を半分捨てようかと本気で悩んだほどだ。
 苛立ち混じりに教室の横にある黒板にかかれた時間割を見ながら真はランドセルの中身を机の中に入れた。しかし、椅子に出席番号のシールが貼られていて助かった。
 教室は教科書にあったクラスのところに行けばいいだけだが、教室の席はそうもいかない。もし貼られていなかったらクラスメイトに自分の席ってどこだっけ?などと聞かなければならないところだった。
 そんなことを考えながらランドセルの中身を机に入れていると後ろのドアが開く音がした。そして、
「あ、真くん。おはよー」
 真は初恋の相手との二回目の出逢いを果たすのであった。
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