第6話 ギブミー
文字数 1,549文字
「パパもママも大嫌い! こんな異能なんていらなかった! 笑顔で暮らしたかった! だから近づいたの。異能に関する〈なにか〉を握っている涙子さんに! わたしはいつもおなかを空かしていたわ。ずっとね。でも、この学園に入学してまわりを見渡せば、肥えた豚のようになんの疑いも持たずに食べ物を食べたり残したりする、本当に豚としかいえないやつらだらけだった。それがお嬢様と呼ばれてちやほやされて、空美野学園ブランドのオンナとしてどこかの金持ちのオトコどもにお買い上げされていく……ッ。気持ち悪いとしか言いようがない。親の方針と学園の方針、それがわたしの〈ディスオーダー〉を生んだの。報いを受けるのはあなたたちよ! 豚めッ」
ラズリはなにも言い返せない。
ラズリだって自分の異能を、欲しくて手に入れたわけではないから。
大人は醜いから。そんな大人に利用されている自分たち。
そして犠牲者でもある目の前の近江キアラ。
ラズリはしばし考え、それから屹然と構えた。
「許せないのは、こっちもよ、近江キアラ! 涙子さんを使って空美野学園を壊そうとしたのもそうだけど、……佐原メダカを吹き飛ばす理由にはなってない!」
「なっていたわ! 大人に良いように使われてるあんたやメダカに、わたしのなにがわかるのッッッ? わたしは、わたしは、わたしは!」
胸元からチョコレートの箱を取り出すキアラ。
「差別されたことなんてないんでしょう、この風紀委員がっ! なにが風紀よ! あんたも殺す。今のわたしは能力が血中の薬液でブーストさているの! なんでも〈町全体を吹き飛ばせる〉くらいの爆発力も生めるんだって! キャハッ! ウケるわよね、学園も消し炭にできるのよ、これ。このチョコレートで」
チョコレートの箱を右手に掲げる近江キアラの目はギラギラに輝いている。カフェインを過剰摂取したかのようなギラつきだ。
「さぁ、ギブミーチョコレートって言ってごらんなさいな、このエサをむさぼる豚人間がッ」
一陣の風が巻き起こる。
ラズリは、それはキアラの異能が巻き起こしたものだと思ったが、それは違った。
「言ってやる! ギブミーチョコレート! 食べてあげるよっ」
掲げた腕をなにかに掴まれる近江キアラ。
掴んだのは空中に点を結び形成された腕だ。
取り上げられた箱を破く両手が、空中から現れたかと思うと、身体のほかの部分も巻き起こる風が実体化させるかのように、収斂し、ひとのかたちをしていく。
形成されたのは佐原メダカという、この街の〈トポス〉という力場が生んだ〈ディスオーダー〉の具現だった。
「いただきます!」
大きめのチョコレートをばりぼりかじって平らげるメダカは、
「貧乏舐めんな。バイトと学校生活をかけもちして、家も家族もいないわたしは豚みたいにチョコレートを食べるわっ。文句ある?」
と、のどに詰まりそうになりながら言う。
メダカを睨みつけるキアラは叫ぶ。
「爆発しろ!」
爆弾の起爆詠唱でもあるその言葉とともに、あたり一帯がプリズムに輝いて、亜空感化する。
光は長く続く。その光のなかでラズリは見る。
自分のおなかを抱え込むように体を折り曲げるメダカの姿と、声にならない声で絶叫するキアラの二人を。
なにが起こったのか。
「……あ、……うぅ、く……ぁ…………っ」
「近江キアラ。あなたは〈言葉を失う〉」
メダカは、身体を折り曲げながら、そう言った。
「もう、あなたは、〈爆発しない〉のよ」
ラズリはなにも言い返せない。
ラズリだって自分の異能を、欲しくて手に入れたわけではないから。
大人は醜いから。そんな大人に利用されている自分たち。
そして犠牲者でもある目の前の近江キアラ。
ラズリはしばし考え、それから屹然と構えた。
「許せないのは、こっちもよ、近江キアラ! 涙子さんを使って空美野学園を壊そうとしたのもそうだけど、……佐原メダカを吹き飛ばす理由にはなってない!」
「なっていたわ! 大人に良いように使われてるあんたやメダカに、わたしのなにがわかるのッッッ? わたしは、わたしは、わたしは!」
胸元からチョコレートの箱を取り出すキアラ。
「差別されたことなんてないんでしょう、この風紀委員がっ! なにが風紀よ! あんたも殺す。今のわたしは能力が血中の薬液でブーストさているの! なんでも〈町全体を吹き飛ばせる〉くらいの爆発力も生めるんだって! キャハッ! ウケるわよね、学園も消し炭にできるのよ、これ。このチョコレートで」
チョコレートの箱を右手に掲げる近江キアラの目はギラギラに輝いている。カフェインを過剰摂取したかのようなギラつきだ。
「さぁ、ギブミーチョコレートって言ってごらんなさいな、このエサをむさぼる豚人間がッ」
一陣の風が巻き起こる。
ラズリは、それはキアラの異能が巻き起こしたものだと思ったが、それは違った。
「言ってやる! ギブミーチョコレート! 食べてあげるよっ」
掲げた腕をなにかに掴まれる近江キアラ。
掴んだのは空中に点を結び形成された腕だ。
取り上げられた箱を破く両手が、空中から現れたかと思うと、身体のほかの部分も巻き起こる風が実体化させるかのように、収斂し、ひとのかたちをしていく。
形成されたのは佐原メダカという、この街の〈トポス〉という力場が生んだ〈ディスオーダー〉の具現だった。
「いただきます!」
大きめのチョコレートをばりぼりかじって平らげるメダカは、
「貧乏舐めんな。バイトと学校生活をかけもちして、家も家族もいないわたしは豚みたいにチョコレートを食べるわっ。文句ある?」
と、のどに詰まりそうになりながら言う。
メダカを睨みつけるキアラは叫ぶ。
「爆発しろ!」
爆弾の起爆詠唱でもあるその言葉とともに、あたり一帯がプリズムに輝いて、亜空感化する。
光は長く続く。その光のなかでラズリは見る。
自分のおなかを抱え込むように体を折り曲げるメダカの姿と、声にならない声で絶叫するキアラの二人を。
なにが起こったのか。
「……あ、……うぅ、く……ぁ…………っ」
「近江キアラ。あなたは〈言葉を失う〉」
メダカは、身体を折り曲げながら、そう言った。
「もう、あなたは、〈爆発しない〉のよ」