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 戦士達一団が戻って来たのは、その夜だった。

 無事に敵を打ち倒した、とのことだった。
 ミジーソ、ミルメコレヨン、それに勿論ヒュリカも、無事だ。
 敵数はせいぜい、二十程度。
 その全てを討ち果たした。
 味方には負傷者なし。
 小規模な戦いではあったが、この凱旋と、それに都からの新しい合流者を迎えての宴ということで、延期になっていた宴がここでようやく開かれることとなった。
 
 まず戦いの祝杯が上げられ、ミジーソやミルメコレヨンは、戦勝者としても祝われる側にいる。
 ミシンはマホーウカらと一緒の側でそれを見て、やはり少しだけ面白くない。
 戦勝の祝いはすぐに終わり、すると卿が宴の中央に立ち、ミシンを呼んだ。
 
「皆の者。今回の戦に貢献してくれた騎士を率いて、我ら境界の陣営に加わってくれた……彼が聖騎士ミシン殿だ」
 
 思いがけぬ紹介だった。
 ミシンは「えっ」と驚くが、すぐに周囲に集った城の列席者からさらに思いがけなぬ大きな拍手と、歓声が、わき上がった。
 
 予想しなかったことに、ミシンは少し誇らしいようで、でもそれよりもっと気恥ずかしくもあった。
 自分は戦っていない……という思いもやはりある。
 だけどそんな彼を見るミジーソは芯から誇らしげであった。
 これでこそいい。戦うのは、傷つくのは、この老いぼれ始めミシン配下の騎士がすることでいい。ミシン殿はそれを率いてくださればいいのだ、という思いが彼にはあったのだ。
 
 それからミシンには、もう一つ、驚いたことがあった。
 拍手を送る中に、ドレス姿の女性。ヒュリカを見た。
 淡い光のようなドレスだ。
 きれいな女性の着るドレス。
 まさしく今のヒュリカはそうであったのだが……
 ミシンは拍手を送られる中、目を丸くしてしまう。
 ヒュリカはミシンの視線に気づいて最初頬を赤らめたが、それからすぐにそっぽを向いてしまった。
 
「私にはどうせ黒い甲冑しか似合わないでしょう」
 
 食事が始まってヒュリカに近づこうとしてもそう言って離れてしまう。
 
「そういう意味じゃ、なかったんだが……」
「だけどあんな目が丸くなってたし」
「あんなって、そんな、なってない……」
「私だってそもそもこんなのは着たくはないんだ。こういうときの、城の決まり、習わしだから」
 
 ヒュリカは実際のところは、誰かにドレス姿を見られたことで恥ずかしく思ってしまった自分に気づいて、そのことが恥ずかしかった。
 自分には戦いしかないと決めているヒュリカなので、そのことはすぐ胸の内に固く仕舞われてしまうことになるのだが。
 ただ今この場は、ぎこちないながらも、憩いと安らぎを皆と少しは楽しむのであった。
  
 宵も過ぎ行く中、兵がやって来て卿にそっと耳打ちする。
 〝敵〟の大軍がまた砦境に集まりつつあるらしい。
 今度は、総力戦になる。さきのようにはいかないな。卿は呟いた。
 
 それをミシンは聞き逃さなかった。いよいよ、出陣になる。
 
 
(第2章・ケトゥ卿の地 了)
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