バイト

文字数 1,381文字

 開店から十分ほどして親父さんが帰ってきた。
 
 「おはようございます」
 
 「おう」

 ぶっきらぼうな返事が返ってきた。話すと色々話してくれるのに、挨拶だけはいつも「おう」の一言だけである。

 開店をしたはいいものの、まだ朝の九時過ぎという時間だからお弁当を買いに来るお客さんはいない。いつもその間は、レジ周りを拭いたり、お店のドアを拭いたりするのだけど、これが何ともちょうどいい。しんどすぎず、でも暇ではない。古い建物で少し汚くて、やりがいもある。カチャカチャとしている厨房の音を聞きながら掃除をする。この何とも平凡な感じがとても好きだ。
 
 
 しばらくして、椅子を拭いていた時、ガラガラとドアの開いた音がした。

 「いらっしゃいませー」
 
 Tシャツに半パンという格好で眼鏡をかけた四十代くらいの男性が入ってきた。休日の昼ご飯を買いに来たという様子だ。手をポケットに突っ込みながら、壁に貼ってあるメニュー表を見ている。

 五分ほどメニューを眺めていたあと

 「のり弁当一つと…幕の内弁当一つで」

 と、こちらを向いてぼそぼそと言った。
 結局普通の弁当かい、と心の中でツッコんでしまった。

 「のり弁当一つと、幕の内弁当お一つですね。お会計、1120円でございます」

 お客さんに確認を取った後、
 
 「のり一丁、幕一丁」
 と後ろの厨房に伝える。

 こーちゃん亭では、出来立ての弁当を提供するようにしているらしい。つくったものを並べておいていたほうが多く売れるんじゃないかと思っていたけど、それだと弁当がおいしくなくなるだろって親父さんが言っていた。二人でやっていて、しかもそこそこいい歳をしてるのにすごいなと思った記憶がある。

 「1120円ちょうどいただきます。お時間五分ほどお待ちください」

 レシートを受け取るなり、壁際にある椅子に座った。

 何と何を悩んでいたのだろうと思いながら、ちょっとお客さんを見てしまった。

 
 五分ほどすると、レジと厨房の間にあるカウンターに出来上がった弁当が置かれた。
 
 「お待たせいたしましたー。のり弁当と幕の内弁当でございます」
 
 ゆったりとした感じで椅子から立ち上がり、弁当を受け取りながら「ありがとうございます」といって出ていった。

 この人きっと優柔不断な人なんだろうなーと思ったが、自分も一緒かと思った。

 
 今日は特に混むこともなく、ほどほどの忙しさで五時間が過ぎた。
 
 「お疲れ様でしたー」と厨房に言いながら店を後にした。
 今日は賄いでハンバーグ定食をもらった。ここのバイトは賄もあるから本当に最高のバイトだなと思う。
 
 八月の後半ということもあり、昼間はまだ暑い。日差しが弱くなってきてはいるものの熱いったらありゃしない。
近年は本当に暑くなってきた。毎年のように最高気温を更新するばかりで、夏がどんどん嫌いになってくる。

 家について、賄いのハンバーグ定食を食べたところで、いつも通り今から何をしようか考える時間になった。いつもはアニメや映画を見てだらだらと過ごすのだが、なぜか今日は外へ行きたくなった。
 
 いやーでも、ちょっとゆっくりしてから行こ、と思い、ベッドに寝ころんで、Youtubeを見ているのか寝ているのかわからないような時間を過ごした。
 
結局四十分くらいだらだらした。
 
とりあえず外に出ようと思い、スマホと財布だけ持って家を出た。
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