思いつき

文字数 1,183文字

 九月になり、秋らしくなってくるかと思いきや、全くそんな気配がない。
 まだクーラーをかけていないと寝れないし、外へ出るだけで汗をかく。
 
 「早く涼しくしてくれよな」
 
 駐車場にいたネコがこっちを見ていたので、あいさつ代わりにしゃべりかけてやった。
 もちろん、ネコは逃げた。

 
 今日もバイトだ。
 少し重いドアを開けて、山田さんと親父さんに「おはよーございます」と言う。
 暇すぎず、忙しすぎない五時間が過ぎる。
 賄いのお弁当をもらい、「お疲れ様です」と言って、こーちゃん亭を出ていく。
 家に帰って、もらった賄いを食べる。

 そして昼寝をする。

 何の変哲もない日々。
 ただ時間だけが過ぎていく日々。

 大学を辞めてから、早二か月。
 正直、大学に行っていた時より、今の生活の方が充実しているし、心地がいい。
 幸せというやつだろうか。
 
 でも、いつまでも続かないのだろうというのは、最近になってようやく実感し始めた。
 あと二年もすれば、周りの同級生たちは大学を卒業して、そのまま就職できるルートにある。周りよりは比較的いい職に就いて、安定した収入を手にして、さそがしいい未来が待っているんだろうな。二十年培ってきたこの道をいとも簡単に手放した自分はいかにバカだったかを思い知らされる。
 
 まぁ、就職してもどうせすぐ辞めるだろうとは思うけど。


 あーあ。どうしよっかなーこの先。

 窓から夕陽が差す。

 あっ。

 そういえば、この前誕生日だった。
 大事なことを忘れていた。退学してから、親とも喧嘩中だし、友達とも連絡をとっていないから、誕生日を祝ってくれる人なんていなかった。

 二十歳になる前に、一回友達とお酒を飲んだ事があるけど、これからは何も気にしなくていい。
 ちょっと気分が上がって、お酒を飲みに行こうと思った。

 よしよし。
 スマホを開いて、Googleマップで『居酒屋』と調べる。すると、海鮮料理、鍋、焼き鳥やら料理メインのお店ばかり出てきた。
 料理なんていらないのに。
 お酒だけのところってないのかよ。

 ん——。
 
 バー??

 バーだ。

 とりあえず、『バー』と入力して、検索をしてみる。
 ボトルが並んだおしゃれなお店がいっぱい出てきた。
 こういうのよ、こういうの。
 
 ——いや、これ値段いくらだ。

 Yahooを開いて、『バー 値段 相場』と検索する。
 一杯千円くらいで、チャージ料金を取るお店もあるのか。
 
 なるほど、なるほど。

 行ける。

 Googleマップに戻って、検索画面をもう一回見る。
 見ていくと、『バーココロ』というのに目がとまった。見てみると、学生の人も口コミをしていた。

 歩いて十五分か。許容だ。
 
 普通なら、二十歳になったばかりの人が行くところではないはずなのに、なぜか行くことしか考えていなかった。

 バーという場所への期待と、少しの不安と緊張を感じつつ、家を出た。
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