夜の堤防

文字数 978文字

 堤防を歩きながら、夜の景色を眺める。

 対岸の街明かりに、水面に映る反転した世界。

 見上げると、雲一つない夜空。
 白く光る月に、いつもは見えない星々も顔を出している。

 昼とは全く別の世界だ。

 あー酔ってるわー。
 いつもはこんな景色を見ても何も思わないはずなのに、この世界に心が浸っている。

 少し降りて、芝生の上で寝転がってみる。

 プラネタリウムじゃん。
 星ってこんなにあったんだ、と改めて思う。
 それと同時に月の遠さを感じる。

 ちゃんと宇宙なんだな。

 あーあ。何なんだろな、生きるって。

 ていうか、田中さんの言葉本当にどういう意味だったんだろ。「世の中はもっと端がある。そこを貪欲見ていけ」ってどうやって何を見ればいいのかさっぱり分からん。
 田中さん社長って言ってけど、本当にどういう人なんだろ。
 
 涼しい風が思考を包む。
 

 この世界に自分ひとりしかいないような静けさ。
 たまに聞こええる虫の鳴き声が憂いを感じさせる。
 目に入る光も、ここぞとばかりに存在証明をしているようだ。

 この世界は寂しいな。
 でも、このくらいがちょうどいいや。

 ぼーっとしながら、しばらく色々考えてしまっていた。


 気づけば、二十分ほど過ぎていた。
 また来よ、と思いながら起き上がって、堤防の上まで登る。

 月ってなんか健気だよな。太陽の光でようやく光っている。太陽が休んでいるかわりに、地球を照らしてあげているみたい。
 そんなことを考えながら歩いていたら、一本の木が目に入った。
 珍しくも、河川敷の真ん中で一本だけ生えている。

 寂しそうだな。
 なんで一本だけ生えているんだろう。

 その木をちょっとだけ見ようと斜面を下った。
 
 近くに来てみると意外と大きい。

 こいつも頑張って生きているのか。

 ——。

 えっ、何してるん。酔いすぎだろ。
 やばいやばい。
 感傷に浸ってはいたけど、浸りすぎている。
 木に向かって勝手に同情をしている自分が恥ずかしくなった。

 ——帰ろ帰ろ。

 酔いが一気にさめた感じがした。
 ちゃんと酔っ払ったのは初めてかもしれない。
 酔うってこんな感じなのか。

 家に着くなり、そのまま倒れるようにベッドに寝転がった。
 時計を見ると、深夜の一時を過ぎたころだった。
 思いつきでバーに行ったけど、情報量が多すぎた。
 大人の世界はまだよくわからないな。
 
 気づけばそのまま寝ていた。
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