散歩

文字数 1,096文字

 家の近くにある堤防を歩きながら、河川敷を眺める。
 不格好なトランペットの音の響かせながら練習をしている大学生くらいの女の人、子供と一緒に無邪気になって水遊びをしているお父さん、上裸で寝そべっているおじいさん、犬と散歩をしている老夫婦。
 
 河川敷には、平凡で穏やかな空気が流れている。都会の殺伐とした空気とはまるで世界が違う。ここにいる人たちはどこか肩の力を抜いて生きているようだ。この空気感が心を落ち着かせてくれる。

 大学にいたときは、そんな穏やかな空気を感じることが出来なかった。
 当時の自分は、大学に行きたかった理由も、行きたくなかった理由も特になく、とりあえず大学に行っておいた方がいいと親に促されて行っていただけだった。
 でも、そんな自分とは裏腹に、周りのみんなは晴れて大学生になったという様子で、思う存分大学生活を楽しんでいた。社会人になる前に、やれることはやっておいた方がいいという感じで、自由をかみしめているようだった。何かの目標に向かって頑張っている人や、やりたいことがない人もやりたいことを見つけるために何かしていた。

 そんな周りを見て、自分も何かしてみようと手当たり次第やってみた。。深夜まではしゃぎまわったり、サークルの新歓に行ったり、バイトをいっぱいしたり、学生団体の活動とかにも参加してみたりした。みんなが楽しそうに送る生活を、刺激があるような生活を求めて色んなことをしてみた。

 でも、心から楽しめるものはどこにもなかった。

 何をしても心は空っぽで、みんなの笑顔に合わせて自分も笑う日々。
 
 
 イテッ。
 通行止めの柵に突っ込んでいた。
 やばっ、と思いつつ、一人で笑ってしまった。
 
 ——やめだ、やめだ。


 平凡に時が過ぎるのを感じながら、堤防をしばらく歩いた。
 
 三十分ほどあるいたところで、折り返してまた同じ道を歩く。
 
 反対から見る景色でもあまり変わらないな。

 途中でスーパーによって夜ご飯の具材を買って帰った。
 買ってきた具材を冷蔵庫に直して、部屋着に着替える。月曜日の放送分のドラマを見ようとテレビをつけた。

 今週は最終回だった。悪党だった三人組が、表社会で活躍している人の悪事を暴いていくというドラマで、最終回では、世界で大スターの芸能人の裏金事情を暴くという話だった。過去のことではなく今が評価される世界だよね、みたいなメッセージ性を残して、このドラマは終わった。
 
 ストーリーは毎回どんでん返しのような感じで、見ていて面白かった。
 ドラマが終わるとなぜか虚しさを感じた。何かができて、何かが終わる。そして、自分もその一つなんだと無意識に考えてしまった。
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