第9話
文字数 775文字
万葉の街を一瞬にして廃墟にしたあのドラゴン、僕は隠れていたので破壊の様子をはっきりと見たわけではないが、あの姿、大きさ、一目見ただけでわかる。確かにあれは僕が昔召喚したものだと。
「これは…トモのところの看板…?」
焦げてしまってよくわからなかったが、足元に転がっている木の板は恐らく彼が手作りした“長畑探偵事務所”の看板だろう。探偵事務所、と言っても彼が自宅のひとスペースを使ってやっている小さなもので大掛かりな事件よりはちょっとしたトラブルや悩み相談などを行うカフェみたいな感じだった。彼の人間性や温かい雰囲気は人々を惹きつけ、探偵事務所はたちまち街の憩いの場となった。まあその分人見知りな僕は通いづらくなってしまったが。…そんなこの街の暖炉も僕が破壊してしまったんだ。
「トモが保護してた旅人の…白城さんと聖さんだっけ、あの2人も僕が元凶だって言ったら驚いた顔していたなぁ…。きっと僕を恨んでいるだろうなぁ…」
物陰から見ていたシーンを思い出す。白城さんに対し怒りをぶつけていた少年。恐らく2人は知り合い同士だろう。その人は白城さんがかなりの実力者であることを信じていたからこそ助けに来なかった彼に腹が立ったのだろうけれど、本来怒りをぶつけられるべき相手はこの僕だ。
「どうしよう…全部僕のせいだ…僕さえいなければ…」
そう、僕なんかいなくなってしまえばいい。でもボロボロになった街と未だ暴れ続けるドラゴンを置いて僕だけ消えるのは虫が良すぎる。まあ確かに召喚主の僕がいなくなることでドラゴンが消えると思えば良いのかもしれないが、それでも街や人は元には戻らない。自ら死を選ぶことは一見責任を取っているように見えて一番最低な逃げ方だ。
「いっそのこと全部元通りになればいいのに…。時間が巻き戻って…何もかも…。ってそんな都合の良いこと起きないよね」