第9話

文字数 775文字

Chance
 万葉の街を一瞬にして廃墟にしたあのドラゴン、僕は隠れていたので破壊の様子をはっきりと見たわけではないが、あの姿、大きさ、一目見ただけでわかる。確かにあれは僕が昔召喚したものだと。
「これは…トモのところの看板…?」
焦げてしまってよくわからなかったが、足元に転がっている木の板は恐らく彼が手作りした“長畑探偵事務所”の看板だろう。探偵事務所、と言っても彼が自宅のひとスペースを使ってやっている小さなもので大掛かりな事件よりはちょっとしたトラブルや悩み相談などを行うカフェみたいな感じだった。彼の人間性や温かい雰囲気は人々を惹きつけ、探偵事務所はたちまち街の憩いの場となった。まあその分人見知りな僕は通いづらくなってしまったが。…そんなこの街の暖炉も僕が破壊してしまったんだ。
「トモが保護してた旅人の…白城さんと聖さんだっけ、あの2人も僕が元凶だって言ったら驚いた顔していたなぁ…。きっと僕を恨んでいるだろうなぁ…」
物陰から見ていたシーンを思い出す。白城さんに対し怒りをぶつけていた少年。恐らく2人は知り合い同士だろう。その人は白城さんがかなりの実力者であることを信じていたからこそ助けに来なかった彼に腹が立ったのだろうけれど、本来怒りをぶつけられるべき相手はこの僕だ。
「どうしよう…全部僕のせいだ…僕さえいなければ…」
そう、僕なんかいなくなってしまえばいい。でもボロボロになった街と未だ暴れ続けるドラゴンを置いて僕だけ消えるのは虫が良すぎる。まあ確かに召喚主の僕がいなくなることでドラゴンが消えると思えば良いのかもしれないが、それでも街や人は元には戻らない。自ら死を選ぶことは一見責任を取っているように見えて一番最低な逃げ方だ。
「いっそのこと全部元通りになればいいのに…。時間が巻き戻って…何もかも…。ってそんな都合の良いこと起きないよね」

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登場人物紹介

白城千

『千年放浪記』シリーズの主人公である不老不死の旅人。人間嫌いの皮肉屋だがなんだかんだで旅先で出会った人に手を貸している。

三又聖

白城と旅する幽霊。生前は鉄道会社の社長だった。ふわふわとした不思議系だが切れ者で何を考えているかわからない。

剣崎雄

世界の全てを記録するという野望を持つ少年。ひょんなことから半不老不死の身体を得、元気に冒険中。わがままでナルシストだが認めた相手には素直。

宮間タイキ

別世界の「アメリカ」という場所から来た少年。持ち前の明るさと才能で言語や文化の壁を越え魔法国家華那千代でもトップレベルの実力を持つ蒼炎使いになる。

長畑友樹

魔法国家華那千代に住む少年。町探偵という名のなんでも屋を営んでおり、強い魔法は使えないがトーク力と情報収集力はピカイチ。

中峰祐典

宮間や長畑の友人。魔法学校に在籍するも、極度に臆病な性格で外に出ず引きこもっている。星座のモチーフを召喚する魔法が使えるが力が制御出来ず失敗することも多い。

新井和彦

宮間や中峰の面倒を見ていた半人半妖の男性。妖怪としては珍しく科学技術や新しいものが好き。明るく面倒見がよい兄貴分だが、伝説の剣豪と呼ばれるほどの実力を持ち白城の師匠でもある。

日向洋介

華那千代の学校に務める理科教師。怠け者でだらしがない人物。魔法より科学に興味を持つ変わり者。

岩村海翔

華那千代の学校に務める理数科目担当の教師。戦争で廃れた理研特区を離れ華那千代に来た。真面目で生徒からは恐れられる厳しい教師。

倉持健二

漂流していたところを日向に救われた理研特区の人物。ストイックで厳格な軍人のような人物だが最近歳のせいか涙脆くなってきた。

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