第14話
文字数 2,777文字
「へ?2人は知り合いだったんすか!?」
「ああ、確か1年くらいの付き合いだったが同じ部屋で過ごした仲だからな。今でもしっかり覚えている」
「は~、そんなこともあるもんなんすね。世界は狭いなぁ」
「俺としては君が岩村と知り合いだったということの方が驚きだよ」
いや、華那千代では理数系の教員が足りておらず日向はいくつかの学校を行き来しているのだったか。ならどこかで知り合う機会はあるかもしれない。
「前に言った理科と数学掛け持ちしてるやつってのが岩村です。俺と同期なんですけど真面目で仕事も出来て…」
「ほう、それは誇らしいな」
「なに自分の手柄みたいな顔してんすか…」
「こう言ってはなんだが、あいつは俺が育てたみたいなところがあるからな」
「えっ、そうなの?あ~、まあ倉持さんも真面目だからなぁ…。はぁ~、なるほどこの人の影響なのか、あれは」
「いやまあ育てたってのは冗談だが。でも待てよ…?当時の岩村は外の世界に出たばかりで言葉も常識もからっきしだったしなぁ…。そういう点では俺が育てたとも言えるか…?」
「待って、待って。何か1人で考え込んでいるようっすけど、なに?”外の世界に出たばかり”?”言葉も常識もからっきし”!?あいつもしかして箱入り息子だったんですか!?」
「え、ああ、まあ”箱入り”か…?」
この反応、日向は岩村の過去を知らないようだ。とは言えさすがにあいつが理研特区生態研究科によって生み出された人造人間であるという事実は安易に洩らさない方が良いだろうな。過去のあいつを知る俺からしたら立派に社会生活を送っているという成長の喜びを誰かと分かち合いたいが、立派な社会人だからこそそのような弱みとも取れる秘密を出来れば隠しておきたいと考えるはずである。
「まあとりあえず2人とも知り合いってわけだしどこかのタイミングで食事でもしますか」
「飲み会ではないのか?」
「あいつ酒はやらないらしいんで」
「なるほど、そうなのか…」
真面目なのか、それとも人じゃないゆえにアルコールが合わないのだろうか。
「と言っても全員忙しいからな…。会うのはだいぶ先になってしまうだろう」
「そうっすね…。特にあいつは他校に赴任しているし…」
「そうだな。もし会えたらあいつも連れて理研特区に行きたいが…」
「お、帰省っすか。俺も理研特区に行ってみたいんで、大丈夫そうならついて行きたいのですが」
「もちろんいいぞ。まあ15年前の戦争で電子工学研究科はガラリと変わってしまったがな」
崩壊した万葉の街で俺たちがやるべきことは3つある。1つは長畑を探し出すこと。1つは事の真相を聞き出す前に去ってしまった中峰を見つけること。そしてもう1つは元凶であるドラゴンを見つけ出し退治すること。聖の意見でまず俺たちは長畑を探すことにした。2人は仲が良さそうだったし無事を確認したいという気持ちは分からなくもないが、何故か聖はそう言わず“ 華那千代の事情に詳しい彼がいた方が良い”という理由で長畑を探すことを優先しようとした。
「別に俺だって鬼じゃないんだし普通に長畑の安否を確認したいって言えばいいじゃないか」
「白城くんさっきも同じようなこと言ってたよね~。確かに彼とは馬が合ったし、気になるっちゃ気になるけど俺は私情を挟まないタイプなの」
「私情って…。一体お前は何にこだわっているんだ…」
「それにしても人がいないね…。中峰くんに会った時はまだまばらだけど人がいたのに」
「ああ、生き残りは各地にいくつかある学校に避難したって話だぞ」
「えっ、知ってるならもっと早く言ってよ!」
「だって別に俺たち飲まず食わずで生きられるし避難場所なんていらないじゃん」
「それはそうだけど人を探しているならまずは避難場所に行くでしょ!」
「まあ…確かに」
「なんでそういうところ抜けてるかなぁ…。まあその分俺がカバーすればいいのか」
「白城…?当時のままだ…本当に不老不死なんだな…」
「…!?」
目の前から来たスーツ姿の男が声をかけてきたが、この顔は俺の記憶にはない。しかし向こうは俺のことを割と深く知っているようだ。しかもその口ぶりからして昔に会ったことがあるような…
「誰?白城くんの知り合い?」
「いや…」
「ああ、あなたは変わっていなくてもこちらはだいぶ変わってしまったからわからなくても仕方ないか。岩村だ。理研特区の」
理研特区の…岩村…。そういえばもう10年以上前のことになるんだっけか、海を漂っていたところを拾われたあの…
「って…ええ!?お前本当にあの岩村海翔か!?変わりすぎだろ!」
「たぶん須藤さんが生きていたとしてもそう言われるだろうな…」
「だってお前…えっ、俺より小さかったはずだよな?それが見上げるくらいのサイズになりやがって!まあ髪型や顔付きは10年あれば変わるだろうが、ええ…なんというか成長したなぁ
…」
「ふふ、そこまで動揺するあなたは初めてだ。そういえばそちらの方は?」
「一緒に旅をしている三又聖だ。聖、こいつは以前理研特区で知り合った岩村海翔」
「理研特区の…へぇ。よろしく」
「こちらこそよろしくお願いします。旅と言えば今回は剣崎さんは一緒じゃないのか?」
「あー、剣崎は別行動だ。元々あいつが理研特区に行きたいって言ったのに付き添っただけだしな」
「そうなのか。ところでこんな場所で何をしているんだ?」
「あー、いや、人を探しててな」
「人を?だったらここから一番近い学校に行くのがベストだろう。華那千代の中心部にある中高一貫校だからな、大勢収容できるしちゃんと校舎も無事だ」
「なるほど、それは良いな。ありがとう。お前は?お前こそこんなところでうろうろするのも違うだろ」
「俺は仕事で見回りをしていたところだ」
「仕事?」
「ああ。俺は教員だからな。学校が避難場所になった以上色々な管理や見回りもやらねば」
「えっ、岩村が教師…!?」
「そうだが、何かおかしいか?」
「い、いや…」
「俺だってあの時とは違う。それに意外とこの仕事は向いている気がするんだ」
「そうか、ならいいが。そういえば剣崎を見ていないか?」
「え?剣崎さんとは別行動なんじゃ…」
「ああ、別行動だがあいつも華那千代にいる。この前偶然会ったんだ」
「そうなのか…。いや、俺はまだ会っていないが意識しておこう。では、学校のどこかでまた会えるかもしれないからな」
「ああ、またな」
「…」
「なんだ聖どうした。お前がいるのを忘れてつい話し込んでしまったのは悪かったと思うが…」
「別に?」
そう言いつつも聖はどこか不機嫌そうである。剣崎に会った時もそうだったが聖はどうも初対面の人間に対して警戒心が強いようだ。
「それよりもトモ…長畑くんを探しに行くんじゃないの?さっきの先生が言ってた学校ってたぶん彼が通っていたところだろうし、そこにいる可能性は高いよ」
「あ、ああ、そうだな」