第20話

文字数 2,105文字

 中峰と長畑が様々な機器や魔法を駆使して探索や誘導をした結果、狙った通りの場所に相手は現れた。
「よし、みんな作戦通り行くよ!」
「おう、任せとけ!」
「…待て、何故剣崎がいるんだ」
「別にいいだろ?命の危険はないんだし、記録係が必要じゃんか」
「はあ…邪魔だけはするなよ」
「わかってるって!」
 確か初めは遠距離から中峰が小型の召喚獣や道具を使って相手の注意を引き一か所に留めておく。そしてその間に宮間が準備をするようだが…
「Coordinate,set…first,2,19,240.second,36,47,234.…」
宮間は呪文のような、暗号のような言葉をつぶやいているだけである。一応手元に魔法陣のようなものが現れているので魔法を発動させるための行為であることはわかる。あらかじめ決めておいた段取りでは宮間が完全に相手の動きを封じた後俺が一撃お見舞いするという流れだったはずだが、一体どのような手段で動きを封じるのかは俺にも知らされていない。
 「…47,12,268.60th,78,256,218.Ok,Activate!」
カウントが終わり宮間が何かを叫んだ瞬間、竜の周りに見事な蒼炎の檻が出来上がった。
「宮間、これは一体どういう…」
「カズ、話はあと!今のうちに!」
「あ、ああ」
大丈夫だ、今度は制御できるはず。それに街に火が到達することを防ぐ方法だって考えた。
「…燃え尽きろ!”極炎”!!」

ギュルオオオオオオオオオオオオ!!!!

「うっ、今のは竜の悲鳴…!?」
「Look!カズの炎がdragonを包んでる!これなら俺の檻が必要なかったかもって思うくらい!」
「まだ油断はできないがな」
「そんなことないよ。さっきの鳴き声が最期の足掻きだって。ほら、もう動きが鈍いし段々と姿も…」
「嘘だろ…だいぶ加減したはずなのに…」
「Powerfulだね…」
いや、当初の目的は果たせたがまた昔のように…
 「はいはーい、二人とも失神しないでね~!」
「ヒジリ!?」
「あ、お口はチャックだよ~。舌噛んで死ぬから」
何かを考える間もなく俺と宮間は横から現れた高速で移動する鉄道に乗った聖に回収されていった。
「聖、これは一体どういうことだ!?」
「あ、あー、こちら聖。2人を回収したから中峰くんにOK出して!」
「…?長畑と連絡を取っているのか?」
「さーて、空を飛ばないと大洪水に巻き込まれちゃうからね」
「おい!そんないきなり高度を上げるな!というか空飛ぶ鉄道ってむちゃくちゃな!」
しかし空からは一瞬で燃やす相手を無くしたはずなのにまだ激しく燃え続けている巨大な火柱が見える。が、街の方からそれを飲み込むかのような激しい水流が襲い掛かってきた。
「おー、中峰くんすごいねぇ。これは鎮火できそうじゃない?」
「確かユウスケは生物じゃなきゃかなり強力なものも召喚できるんだったね。それにしてもこれはすごいや…」
「それにしても宮間は一体何をしたんだ?」
「あの檻のこと?あらかじめ魔法が発動する場所の座標を指定して発動の合図と共に檻が現れるようにしたんだよ」
「そんなことできるのかよ…いや、現に出来ていたわけだが…。だったらお前1人で十分だっただろ」
「ううん、あの魔法はとても集中しなきゃできないから準備している間に敵の注意を引き付けたり、檻で動きを止めている間にとどめを刺してくれる仲間が必要なんだ。だからこれはみんなで掴んだ勝利だよ」
「…」
あの日長畑がここでは俺の力を封じる必要がないと言っていたのはこういうことだったのだろうか。使い方を誤れば大災害級の力さえうまく組み合わせて使いこなしてしまう…。俺は宮間の才能を恐ろしいと思った。




 「ごめんねぇ、あまり案内できなくて」
「このような事態になってしまったからには仕方ない。それに華那千代は若市と近いからな。行こうと思えばすぐ行ける」
「そもそも白城という疫病神と旅してたらまともに観光できない方が普通だって~!」
「剣崎くんは別行動だったでしょ。あまり白城くんに対して失礼なこと言うとパンタグラフに巻き付けるよ」
「怖っ!!」
「長畑、華那千代はこれからどうなるんだ?」
「幸い学校や病院のような主要機関は被害を受けていないし人々も皆元気だからすぐ復興できるよ。あ、そうだ。中峰くん授業が再開したら学校に通うって」
「へえ。あの引きこもりが?」
「実技面ももっと学んで将来は誰かが自分みたいな悲劇を繰り返さないように魔法の制御法について教える立場になりたいみたい」
「ふーん。岩村も似たようなこと言ってたって中峰に伝えといてくれ」
「わかった。みんなはこれから若市に帰るのかい?」
「そうだな、会いたい人もいるし」
「俺も今回の出来事を『世界論』にまとめたいから帰るぜ」
「俺も白城くんについていくよ」
「白城が会いたい人ってたぶん新井さんのことだよな…?ってことは俺家に帰るまでこの怖い人と一緒!?」
「怖い人じゃないよ。君が白城くんに対する扱いを改めればね」
「う~、別に何もしてないじゃんかよ…」
この騒がしい面々を連れて行けば今は亡き新井師匠も喜ぶだろうか。過去から目を背けていたが、これを機に自分と向き合うのもいいかもしれない。

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登場人物紹介

白城千

『千年放浪記』シリーズの主人公である不老不死の旅人。人間嫌いの皮肉屋だがなんだかんだで旅先で出会った人に手を貸している。

三又聖

白城と旅する幽霊。生前は鉄道会社の社長だった。ふわふわとした不思議系だが切れ者で何を考えているかわからない。

剣崎雄

世界の全てを記録するという野望を持つ少年。ひょんなことから半不老不死の身体を得、元気に冒険中。わがままでナルシストだが認めた相手には素直。

宮間タイキ

別世界の「アメリカ」という場所から来た少年。持ち前の明るさと才能で言語や文化の壁を越え魔法国家華那千代でもトップレベルの実力を持つ蒼炎使いになる。

長畑友樹

魔法国家華那千代に住む少年。町探偵という名のなんでも屋を営んでおり、強い魔法は使えないがトーク力と情報収集力はピカイチ。

中峰祐典

宮間や長畑の友人。魔法学校に在籍するも、極度に臆病な性格で外に出ず引きこもっている。星座のモチーフを召喚する魔法が使えるが力が制御出来ず失敗することも多い。

新井和彦

宮間や中峰の面倒を見ていた半人半妖の男性。妖怪としては珍しく科学技術や新しいものが好き。明るく面倒見がよい兄貴分だが、伝説の剣豪と呼ばれるほどの実力を持ち白城の師匠でもある。

日向洋介

華那千代の学校に務める理科教師。怠け者でだらしがない人物。魔法より科学に興味を持つ変わり者。

岩村海翔

華那千代の学校に務める理数科目担当の教師。戦争で廃れた理研特区を離れ華那千代に来た。真面目で生徒からは恐れられる厳しい教師。

倉持健二

漂流していたところを日向に救われた理研特区の人物。ストイックで厳格な軍人のような人物だが最近歳のせいか涙脆くなってきた。

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