第4話
文字数 2,251文字
あれからまた随分と時間が経過したように思えるが道中街こそあれ、例の巨竜が見つかる気配はなかった。
「なあ、本当にそんなものいるのか?」
「誰も王様に虚偽の報告なんてできないよ。実際に被害が出ているから討伐命令が出たんだ」
「だとすればやっぱり本隊がとっくに倒しちまったんだろ。ちゃんと話を聞かず、本隊とはぐれたうえ何の成果も上げられずに帰還とかダサすぎるだろ。首飛ぶんじゃね?」
「ええ…そんなことは…ないと思うよ…」
「自信なさげじゃん」
「絶対とっくに終わってるもん!」
「なんだ、わかってんのかよ」
「でももしかしたらいけるって思ってるんだよね」
「いやいや、今絶対終わってるって言ったじゃん」
「この辺の魔法動物ちょっと強い気がするんだ」
「そうなん?俺は見てるだけだからよくわからないけどさ、別にお前苦戦しているわけでもないじゃん」
「それはこちらの魔法も強くなっているからだよ」
「レベルアップしてるってこと?だから最近肉を焼き過ぎることがあるのか」
「いや周囲に漂う魔力が強くなってるんだ。きっとこの先にdragonがいるはずだよ!」
魔力がどうのと言われても俺にはさっぱりだ。若市にも魔法使いや妖怪のような摩訶不思議なものはうようよいる。俺だって永遠の若さを得た錬金術師や半人半妖のおっちゃん、そして最強の魔法と不老不死体質を持つチート野郎、などと言ったおかしな存在と知り合いだ。だが俺自身は何の能力もない凡人。半不老不死なのも白城のおかげだ。
…などと色々考えていたためすぐには気が付かなかったが目の前には見覚えのある景色が広がっていた。
「違う、やっぱり俺たちはのこのこと帰るべきだ」
「Why?帰ったら俺の首が飛ぶんでしょ!?」
「魔法とか全然わからない俺でもわかる。お前が感じたのは魔力じゃない、妖力だ」
「ヨウリョク?なんだい、それ」
「魔力とほとんど同じだよ。妖怪が使う魔力みたいなもん。俺もよくわからんけど」
「へー…、あれ家がいくつかある。街かな?」
「…ようこそ、若市へ」
「Wow!前に行ったところとは全然違うけどここも若市なのかい!?」
「かなり辺境の方だよ。どう迷ったらここに着くんだよ…」
「やっぱり素直に華那千代に帰るべきだったかー。ん?若市の辺境…?待って!帰る前にちょっと寄りたいところがあるんだ!」
「寄りたいところ?この辺なんて森しかないだろ。確かにちょっと行けば月城音楽ホールっていうちょっとしたコンサートホールとかあるけど、あそこももう文化財として価値があるってくらいで活気はないぞ?」
「それも気になるけど華那千代に帰って俺が生きてたらでいいや。師匠の家ってきっとこの辺だよね!?森の奥って言ってたし、近くにmusicianがたくさん住んでたって言ってたからこの辺に違いない!」
「師匠?誰だよ。まさかと思うが…」
「アライさんって言うんだ!若市出身の魔法使い!」
こいつ、あの人を知って…!あの爺さんの顔の広さとフットワークの軽さには心底驚かされたが問題はそこじゃない。
「爺さん、随分と有名人だな。あの人の家なら知ってるぜ。…会えるとは思うなよ」
「師匠はtravelerだったもんね、華那千代にいたのも少しの間だったし」
…まあ今度ばかりは永住しに行ったんだけどな。
なぞかけ
街の騒がしさでまだ朝の6時だと言うのに俺は叩き起こされた。だが騒がしいのは街だけで長畑はいつも通りのんびりと朝食の準備をしていた。
「一体何があったんだ。そしてお前は外に出なくていいのか」
「号外だけ貰ったらもういいよ。遠征に行っていた軍隊が帰ってきたらしいよ」
「へー、じゃあドラゴンさんはもういないんだね」
「聖ちゃんも起きてたんだね。いいや、残念ながら遠征は失敗に終わったんだ」
「失敗だと!?結構長い間行ってたのにか?」
「逃げられたって報告にはあるけど、全然歯が立たなかったのが本当のところだろうね」
「えー、そんなに強いの!?」
巨大なドラゴンを討伐するのに生半可な戦力しか動員せず討伐に失敗しては国家のプライドに傷がつくはずだ。本当に歯が立たなかったのか?そのドラゴンはそんなに強いということか?だが俺は長畑と初めて会った時のあのセリフを忘れはしない。華那千代には俺に匹敵する火力を持つ魔法使いがいるはずだ。その人物は今回の討伐に参加してはいないのだろうか。
「でもおかしいね。彼がいれば取り逃がすなんてことはあり得ないと思うけど…」
「彼?」
「今回の討伐任務には華那千代いち…いや世界でも上はいないと思われるくらいの実力者が参加しているはずでね。蒼い炎に愛された若き天才が」
「蒼炎を操る者自体は珍しいと思うがそんなに強いのか?」
「学園内で行われるあらゆる魔法系のテストで歴代の記録を塗り替えた人物だ。もちろん広い世界の中ならもっとすごい人はいる可能性もあるけどここでは一番なのは確かだね」
「でもそいつがいてなんで失敗してんだよ」
「それがわからないのよ」
「途中で帰っちゃったとか?」
「聖ちゃん、面白いこと言うね。彼がドラゴンと対峙していない可能性、か…」
「は?隊を離れて勝手にどこか行ったってことか?そんなの余程おかしなやつか、間抜けか…」
だがこれでひとまずやかましい金髪、確か名は宮間タイキだった気がするが、奴が帰ってくるというわけだ。最初に会った後比較的すぐに遠征に出発してしまったため半ば記憶から抜け落ちつつあったが…。
カランコロン
ほら、噂をすれば…
「トモ、大変だよ!タイキが帰ってきてない!」
「えっ?」