第4話

文字数 2,251文字

Sunshine(3)
 あれからまた随分と時間が経過したように思えるが道中街こそあれ、例の巨竜が見つかる気配はなかった。
「なあ、本当にそんなものいるのか?」
「誰も王様に虚偽の報告なんてできないよ。実際に被害が出ているから討伐命令が出たんだ」
「だとすればやっぱり本隊がとっくに倒しちまったんだろ。ちゃんと話を聞かず、本隊とはぐれたうえ何の成果も上げられずに帰還とかダサすぎるだろ。首飛ぶんじゃね?」
「ええ…そんなことは…ないと思うよ…」
「自信なさげじゃん」
「絶対とっくに終わってるもん!」
「なんだ、わかってんのかよ」
「でももしかしたらいけるって思ってるんだよね」
「いやいや、今絶対終わってるって言ったじゃん」
「この辺の魔法動物ちょっと強い気がするんだ」
「そうなん?俺は見てるだけだからよくわからないけどさ、別にお前苦戦しているわけでもないじゃん」
「それはこちらの魔法も強くなっているからだよ」
「レベルアップしてるってこと?だから最近肉を焼き過ぎることがあるのか」
「いや周囲に漂う魔力が強くなってるんだ。きっとこの先にdragonがいるはずだよ!」
魔力がどうのと言われても俺にはさっぱりだ。若市にも魔法使いや妖怪のような摩訶不思議なものはうようよいる。俺だって永遠の若さを得た錬金術師や半人半妖のおっちゃん、そして最強の魔法と不老不死体質を持つチート野郎、などと言ったおかしな存在と知り合いだ。だが俺自身は何の能力もない凡人。半不老不死なのも白城のおかげだ。
 …などと色々考えていたためすぐには気が付かなかったが目の前には見覚えのある景色が広がっていた。
「違う、やっぱり俺たちはのこのこと帰るべきだ」
「Why?帰ったら俺の首が飛ぶんでしょ!?」
「魔法とか全然わからない俺でもわかる。お前が感じたのは魔力じゃない、妖力だ」
「ヨウリョク?なんだい、それ」
「魔力とほとんど同じだよ。妖怪が使う魔力みたいなもん。俺もよくわからんけど」
「へー…、あれ家がいくつかある。街かな?」
「…ようこそ、若市へ」
「Wow!前に行ったところとは全然違うけどここも若市なのかい!?」
「かなり辺境の方だよ。どう迷ったらここに着くんだよ…」
「やっぱり素直に華那千代に帰るべきだったかー。ん?若市の辺境…?待って!帰る前にちょっと寄りたいところがあるんだ!」
「寄りたいところ?この辺なんて森しかないだろ。確かにちょっと行けば月城音楽ホールっていうちょっとしたコンサートホールとかあるけど、あそこももう文化財として価値があるってくらいで活気はないぞ?」
「それも気になるけど華那千代に帰って俺が生きてたらでいいや。師匠の家ってきっとこの辺だよね!?森の奥って言ってたし、近くにmusicianがたくさん住んでたって言ってたからこの辺に違いない!」
「師匠?誰だよ。まさかと思うが…」
「アライさんって言うんだ!若市出身の魔法使い!」
こいつ、あの人を知って…!あの爺さんの顔の広さとフットワークの軽さには心底驚かされたが問題はそこじゃない。
「爺さん、随分と有名人だな。あの人の家なら知ってるぜ。…会えるとは思うなよ」
「師匠はtravelerだったもんね、華那千代にいたのも少しの間だったし」
…まあ今度ばかりは永住しに行ったんだけどな。

なぞかけ
 街の騒がしさでまだ朝の6時だと言うのに俺は叩き起こされた。だが騒がしいのは街だけで長畑はいつも通りのんびりと朝食の準備をしていた。
「一体何があったんだ。そしてお前は外に出なくていいのか」
「号外だけ貰ったらもういいよ。遠征に行っていた軍隊が帰ってきたらしいよ」
「へー、じゃあドラゴンさんはもういないんだね」
「聖ちゃんも起きてたんだね。いいや、残念ながら遠征は失敗に終わったんだ」
「失敗だと!?結構長い間行ってたのにか?」
「逃げられたって報告にはあるけど、全然歯が立たなかったのが本当のところだろうね」
「えー、そんなに強いの!?」
巨大なドラゴンを討伐するのに生半可な戦力しか動員せず討伐に失敗しては国家のプライドに傷がつくはずだ。本当に歯が立たなかったのか?そのドラゴンはそんなに強いということか?だが俺は長畑と初めて会った時のあのセリフを忘れはしない。華那千代には俺に匹敵する火力を持つ魔法使いがいるはずだ。その人物は今回の討伐に参加してはいないのだろうか。
「でもおかしいね。彼がいれば取り逃がすなんてことはあり得ないと思うけど…」
「彼?」
「今回の討伐任務には華那千代いち…いや世界でも上はいないと思われるくらいの実力者が参加しているはずでね。蒼い炎に愛された若き天才が」
「蒼炎を操る者自体は珍しいと思うがそんなに強いのか?」
「学園内で行われるあらゆる魔法系のテストで歴代の記録を塗り替えた人物だ。もちろん広い世界の中ならもっとすごい人はいる可能性もあるけどここでは一番なのは確かだね」
「でもそいつがいてなんで失敗してんだよ」
「それがわからないのよ」
「途中で帰っちゃったとか?」
「聖ちゃん、面白いこと言うね。彼がドラゴンと対峙していない可能性、か…」
「は?隊を離れて勝手にどこか行ったってことか?そんなの余程おかしなやつか、間抜けか…」
だがこれでひとまずやかましい金髪、確か名は宮間タイキだった気がするが、奴が帰ってくるというわけだ。最初に会った後比較的すぐに遠征に出発してしまったため半ば記憶から抜け落ちつつあったが…。
カランコロン
ほら、噂をすれば…
「トモ、大変だよ!タイキが帰ってきてない!」
「えっ?」
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登場人物紹介

白城千

『千年放浪記』シリーズの主人公である不老不死の旅人。人間嫌いの皮肉屋だがなんだかんだで旅先で出会った人に手を貸している。

三又聖

白城と旅する幽霊。生前は鉄道会社の社長だった。ふわふわとした不思議系だが切れ者で何を考えているかわからない。

剣崎雄

世界の全てを記録するという野望を持つ少年。ひょんなことから半不老不死の身体を得、元気に冒険中。わがままでナルシストだが認めた相手には素直。

宮間タイキ

別世界の「アメリカ」という場所から来た少年。持ち前の明るさと才能で言語や文化の壁を越え魔法国家華那千代でもトップレベルの実力を持つ蒼炎使いになる。

長畑友樹

魔法国家華那千代に住む少年。町探偵という名のなんでも屋を営んでおり、強い魔法は使えないがトーク力と情報収集力はピカイチ。

中峰祐典

宮間や長畑の友人。魔法学校に在籍するも、極度に臆病な性格で外に出ず引きこもっている。星座のモチーフを召喚する魔法が使えるが力が制御出来ず失敗することも多い。

新井和彦

宮間や中峰の面倒を見ていた半人半妖の男性。妖怪としては珍しく科学技術や新しいものが好き。明るく面倒見がよい兄貴分だが、伝説の剣豪と呼ばれるほどの実力を持ち白城の師匠でもある。

日向洋介

華那千代の学校に務める理科教師。怠け者でだらしがない人物。魔法より科学に興味を持つ変わり者。

岩村海翔

華那千代の学校に務める理数科目担当の教師。戦争で廃れた理研特区を離れ華那千代に来た。真面目で生徒からは恐れられる厳しい教師。

倉持健二

漂流していたところを日向に救われた理研特区の人物。ストイックで厳格な軍人のような人物だが最近歳のせいか涙脆くなってきた。

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