第18話 海辺のふたり
文字数 5,032文字
*R18の表現があります。
第一章 旅行の初日
第一節 レンタカーにて
夜の9時過ぎに那覇空港に着いた。俺たちは予約していたレンタカーに乗り、国際通りのホテルへ向かった。
椎名は運転が好きだ。
ただ、普段は仕事が忙しく車を所有者する程でもなかったため、独り身の時からレンタカーをたまに借りて、ひとりでドライブする事もあったと言う。
今回は、日本車のオープンカーを予約してくれた。夜なので帆は閉じたままにしたが、俺は初めてのオープンカーに興奮してしまった。車体がカッコ良すぎる。
俺は子供の頃、乗り物に夢中の普通の子供だった。初めは電車、そのうち車と、興味は年と共に変わっていったが、今も気になる電車や車に乗るとドキドキして子供の頃の純粋な好奇心を思い出す。
だから、今夜の飛行機のナイトフライトは最高だった。夕日に染まる雲と沈みゆく太陽を雲の上から見る時間は、俺の心を充分解けさせた。
俺は18歳ですぐに免許を取ったが、あまり乗る機会もなく、今はペーパードライバーに近い。
椎名の横に座りこなれた運転を見ていると、自分にも椎名のような男らく生きる未来があったのかもしれないとふと思った。
勉強ばかりで世事に疎く、優秀とは言われるが、他者との忖度が苦手で、苦手な事はすぐにオドオドする時がある。
椎名といる時はほぼ無くなったが、今だにスマートな対応をされると、緊張してしまうことがある。
そんな俺の羨望の視線に気づいたのか、椎名が俺を見て言った。
「アダン、仕事のこと考えてるのか?少し忘れよう、ずっと忙しかったんだし。
俺はしばらく旅とアダンのことだけ考えるからさ。アダンは仕事をここ最近充分に頑張ったんだから、少し羽伸ばして、海と食べることだけ考えような」
何だかありがたいし、発言がカッコいい。
しかも椎名が運転するとカッコよさが増す。足なんか、少し窮屈そうだ。それにしても足、長いなぁ。
俺には改めて、かなりステキな恋人いるんだと頬が熱くなった。
急におとなしくなった俺に気づき、椎名が心配そうに俺を見つめた。
「アダン、大丈夫か?そんなにオープンカー珍しいの?」
やばい、態度に出てた。
でも確かにオープンカーには興奮している。
俺は少し落ち着きを払って答えた。
「うん、実はオープンカーは初めてでさ。子供みたいなんだけど、俺、乗り物好きなんだ。この車も機能がすごく気になって、色々見てた。
あとで少し運転させてくれるか?ペーパーで下手なんだけど、沖縄は道も広くて運転しやすそうだし。
あと、言ってなかったけど、俺、”撮り鉄”気味なんだよ」
椎名はフハハと笑った。
「何も恥ずかしがることないじゃないか。俺はどちらかと言うと”乗り鉄”だぞ。
良いよな、乗り物って。本当によくできていて、作り手の愛を感じるよ。じゃさ、今日の飛行機は楽しかったよな?良かった!」
椎名はカーステレオから、航空会社のラジオ番組のオープニングで有名な『ミスター・ロンリー』を流した。
俺たちが生まれる少し前の有名な長寿ラジオ番組のもので、古くて穏やかで心に刺さる楽曲がゆったりと夜の闇に溶けるように流れる。
椎名は楽しげに俺の肩に手を回した。
そして、頬にチュッとキスを落とした。
次々と流れるオールドアメリカンの楽曲を聴きながら、俺たちは少し窓を開けて、生温い風を感じながら夜のドライブを楽しんだ。
第ニ節 国際通りにて
「わぁ、広くて綺麗なホテルだな」
俺は年甲斐もなく国際通りのビジネスホテルのクオリティに感嘆してしまった。
旅行会社に勧められた、航空会社系列のビジネスホテルだが、広さも充分で、眼下には国際通りがよく見える。
ベッドはツインでゆっくり休めそうだ。
椎名は荷物を片付けながら、まずは夕飯に行こうと俺の手を引いた。
夜の国際通りは夜10時近いがまだ人通りも多く、観光客がちらほらいた。
俺たちは地元で人気だと言う、家庭料理屋で夕飯を食べることにした。
「わぁ、このゴーヤチャンプル、スっごく美味いな。スパムの塩気と木綿豆腐、、美味い!」
やっぱり地元の食材で作るチャンプルは上手いな、と俺は感動し、注文した皿一つひとつのレシピを想像しながら食べた。今度は自宅で椎名に作ってあげたい。
ラフテーや海ぶどうも美味しく、俺はしばし無言で箸を進めた。椎名もお腹が空いていたのか、泡盛を少し飲みつつ次々と食べている。
「この後、国際通りをぶらっと歩いて、明日に向けてホテルでゆっくり休もうか。今日は仕事もあったし、移動で距離もあったから疲れただろ」
椎名は俺の乱れた前髪を直しながら優しく言った。
椎名は優しい。今回の旅も俺を思ってのことだろうし。
その黒い瞳に少し見惚れながら、俺はこくんと頷いた。
国際通りを観光し、遅くまで開いている店で早めに会社へのお土産や自宅への買い物を済ませた。
リゾートでは買い物を気にせず、ゆっくりしたいこともあるが、この付近が一番お土産が豊富なこともある。
有名なアイスクリーム屋でアイスを買って、食べながらホテルに戻った。
明日の移動は早めと考えており、仕事後にすぐ移動したのでさすがに眠たくなった。
ホテルでシャワーを浴び、俺はベットに横になって天井を見つめた。
自宅とは違う部屋、空気。
ようやくここは沖縄で、旅が始まったばかりだとの実感がわいてきた。
携帯でイチコの様子を見た。家にはカメラがあり、不在時の自宅の様子を確認できるよう設定してある。暗視カメラには、猫ベッドでイビキをかいて寝ているイチコの姿がある。俺はホッとひと安心した。
ガチャ、と扉が開いて、椎名が頭を拭きながらシャワーから戻ってきた。
俺はイチコの様子を見せて、2人で顔を見合わせて微笑んだ。
「久しぶりにベッド別だな。アダン、寂しくないか?」
椎名はイタズラっぽく聞いてきた。
「ふふ、少し寂しいけど今日は平気。今にも寝落ちそうだよ。晴一も仕事と運転で疲れたよな、今日はありがとう。おやすみ」
俺はベットから手を伸ばして、隣のベッドの椎名の手を握ろうとした。ギリギリ届かない。
椎名はベットから身体を起こして、俺の近くまで来て俺の唇にチュッとキスをした。
そしてお休みと言って電気を消した。
一瞬のことで目をぱちくりとしてしまったが、途端に幸せな気持ちで胸がいっぱいになった。
モゾモゾと音がして、暗闇の中で椎名も布団に入った音がする。そして、はぁと楽しげな吐息も聞こえる。
俺は何かに包まれる安心感を感じて、お休みと呟いて、そっと目を閉じた。
第ニ章 旅行の2日目
第一節 恋人とのドライブ
朝7時。俺たちは海沿いのリゾートに向かって、車オープンにして走らせている。
今日はペーパードライバーだと言うアダンが運転している。道がまっすぐで幅広のため運転しやすいこともあるが、本人が言うほど運転は下手ではない。
しかも5年ぶりと言うが全く問題ない。
やっぱりアダンは器用だ。ハンドル捌きも上手く、車の機能を即座に把握したようだ。
「日差しが眩しくなってきたな。晴一、カバンからサングラス取ってくれる?」
アダンはサングラスを受け取るとサラッと顔にかけた。その横顔が思いのほかカッコよくて驚いた。
「アダン、メチャクチャ似合ってるぞ!」
アダンはふふっと笑って、お前には負けるよと微笑んだ。
もともとフランス人の血が入っているアダンは、何気ない所作がエレガントで日本人離れしている時がある。
見た目もそうだ。サングラスをすると一見明るい髪や肌と相まってフランス人かと思う時もある。
海風を感じながら、アダンが行きたがっていた有名なタコス屋で朝食を済ませた。
朝一なのに、すでに行列ができていてオープン時間を待ったほどだ。その価値がある、驚くほどの美味しさだった。
その後、離島の塩工場へと向かった。
海の上を幅広の道路がかかり、青い空と海の飲み込まれて行くような錯覚を覚えながらドライブを楽しんだ。
より一層の潮風を強く感じ、灼熱の日差しの中で生成される天然のミネラルの豊富な塩を購入した。
東京ではなかなか手に入らなくて身体に良い有名な塩だ。俺はアダンとの毎日の食事に使いたく、一見地味なこの観光地を希望していた。
来て、正解だった。
塩もそうだが、高台からの海の眺めが抜群に良い。
俺たちは高台から海を眺めてお茶をした。
塩味のレモネードが美味しく、俺たちはすっかり仕事から心が離れて旅を楽しんでいることに気がついた。
「晴一、楽しいな。こうやって2人で新しい景色を見る時間をこれからも増やしたいな。
2人でいるってことは、こんなにも楽しい時間もあるものなんだな。知らなかったよ」
そう言ってふわりと微笑んだ。
俺は今までのアダンの一人の時間と、寂しいとも感じなかったであろう、密度の高かった日々を思った。
今ようやく、アダンは自分の好きなことに時間を費やせるようになったんだ。
俺はそっと顎を持ち上げ、その唇にキスを落とした。
少し赤くなって俯いて、ふと目を上げたその瞳に親愛の気持ちを映して、可愛い恋人はまた微笑んだ。
気持ちのよい潮風が俺たちの周りを吹き抜けた。
第ニ節 リゾートの夜
ホテルの部屋は海に面した広いバルコニーがある、白とブルーを基調とした部屋だった。
部屋に着くなり、俺はアダンをベッドに押し倒した。
早めにチェックイン出来たこともあるが、日常を離れて俺のタガが外れたのか、恋人を今すぐ抱きたくなった。
アダンはシャワーを浴びると少し抵抗したが、汗ばんだその肌のままで愛し合いたかった。
「もう、晴一、いつもはもっと紳士なのに、今日は性急だな。でもリゾートだからいいか。俺もお前が欲しいよ」
アダンはふわりと微笑んで、挑発するように舌を絡めてきた。
チリっと、俺の理性が擦り切れる音がした気がした。首筋を舐め上げ手探りでゴムをつける。
甘噛みするごとに震えるアダンは頬を綺麗なピンク色に染めている。ほとんど愛撫らしい愛撫をしていないのに、既にとろけた状態の身体で、俺が欲しいと身体で訴えてくる。
俺は熱を押し付け、痛まないよう、はやる気持ちに必死に堪えながら挿入していく。
「あっ、、ん、っ。晴一、気持ちいい、、」
大きく開かせた足の間で、トロトロと蜜をあふれさせながら震えているのを見て、思わず質量が増した。
「や、、」と声をあげのけ反りながら、全身を震わせている。
俺はぎゅうぎゅうと締め付けられる快楽に眩暈を覚えながら、気を抜くと持っていかれそうになるのを何とかやり過ごす。
落ち着くために腰は動かさないまま覆いかぶさり、キスをしながら全身を撫でた。
くせ毛の髪を指に絡めて、白い喉を舐めながら胸の尖りを擦る。
勃ってかたくなってきたそこを優しく掴むと、またアダン身体が震え腹の間でびくんと熱が主張した。俺もつられてまた呻いてしまう。
「アダン、、、辛いか?」
「ん、、わかんなっ……、ぁ…!」
はぁと深く息を吐く毎にうねうる締め付けをこらえ、感じやすい箇所を攻めると、断続的にひくつきながら俺の背中に爪を立てる。
俺は夢中で腰を動かし、唇を貪った。
感じやすいなとは思っていたけど、キスするだけで全身を震わせ、ぎゅうっと全身でしがみつかれて、温かさに包まれて、耐えるのがかなり辛い。
俺はアダンの耳元で我慢出来ないことを何とか伝え、欲望を解放した。
んん、、とアダンも震え、しばらくお互いを抱きしめあった。
一時的な快楽だけではない。
知ってしまったらもう戻れない。何度求めても物足りない。こんなにも温かくて切ない。
自分でさえ触れられない心の奥底がフワリとして、全身が優しさに包まれる。そして、身体の芯から全身に安堵が広がっていく。
「はぁ、おれ、アダンにいま、護られてる…」
「…せいいち、、んん」
顔をアダンの髪を擦り付けながら呟くと、かすかに息を呑む音がした。
すこし身体を起こし、その手をつかむ。
うっすらと涙を湛えているのを見て、思わずその身体をぎゅっと引き寄せた。
「少し眠ろう、、4時には起きて、海辺を歩こう。早めのディナーもいいな、、」
俺は深く達した恋人を優しく横たえて、耳を甘噛みしてもう一度舌を絡めた。
そして、背中をぽんぽんと叩きながら瞳を閉じた。
ザザーンと海の音が聞こえて、午後の眩しい日差しを受けたレースのカーテンから、白い日差しが漏れる。
俺たちはリゾートの2日目の午後を、贅沢にふたりきりで過ごした。
恋人の白い身体が、俺の身体に巻きついてきて、吐息と共にスヤスヤと寝息をたてた。
夜も自分を抑えられそうもないと思いながら、俺は白い光をまぶたに感じて目を閉じた。
第一章 旅行の初日
第一節 レンタカーにて
夜の9時過ぎに那覇空港に着いた。俺たちは予約していたレンタカーに乗り、国際通りのホテルへ向かった。
椎名は運転が好きだ。
ただ、普段は仕事が忙しく車を所有者する程でもなかったため、独り身の時からレンタカーをたまに借りて、ひとりでドライブする事もあったと言う。
今回は、日本車のオープンカーを予約してくれた。夜なので帆は閉じたままにしたが、俺は初めてのオープンカーに興奮してしまった。車体がカッコ良すぎる。
俺は子供の頃、乗り物に夢中の普通の子供だった。初めは電車、そのうち車と、興味は年と共に変わっていったが、今も気になる電車や車に乗るとドキドキして子供の頃の純粋な好奇心を思い出す。
だから、今夜の飛行機のナイトフライトは最高だった。夕日に染まる雲と沈みゆく太陽を雲の上から見る時間は、俺の心を充分解けさせた。
俺は18歳ですぐに免許を取ったが、あまり乗る機会もなく、今はペーパードライバーに近い。
椎名の横に座りこなれた運転を見ていると、自分にも椎名のような男らく生きる未来があったのかもしれないとふと思った。
勉強ばかりで世事に疎く、優秀とは言われるが、他者との忖度が苦手で、苦手な事はすぐにオドオドする時がある。
椎名といる時はほぼ無くなったが、今だにスマートな対応をされると、緊張してしまうことがある。
そんな俺の羨望の視線に気づいたのか、椎名が俺を見て言った。
「アダン、仕事のこと考えてるのか?少し忘れよう、ずっと忙しかったんだし。
俺はしばらく旅とアダンのことだけ考えるからさ。アダンは仕事をここ最近充分に頑張ったんだから、少し羽伸ばして、海と食べることだけ考えような」
何だかありがたいし、発言がカッコいい。
しかも椎名が運転するとカッコよさが増す。足なんか、少し窮屈そうだ。それにしても足、長いなぁ。
俺には改めて、かなりステキな恋人いるんだと頬が熱くなった。
急におとなしくなった俺に気づき、椎名が心配そうに俺を見つめた。
「アダン、大丈夫か?そんなにオープンカー珍しいの?」
やばい、態度に出てた。
でも確かにオープンカーには興奮している。
俺は少し落ち着きを払って答えた。
「うん、実はオープンカーは初めてでさ。子供みたいなんだけど、俺、乗り物好きなんだ。この車も機能がすごく気になって、色々見てた。
あとで少し運転させてくれるか?ペーパーで下手なんだけど、沖縄は道も広くて運転しやすそうだし。
あと、言ってなかったけど、俺、”撮り鉄”気味なんだよ」
椎名はフハハと笑った。
「何も恥ずかしがることないじゃないか。俺はどちらかと言うと”乗り鉄”だぞ。
良いよな、乗り物って。本当によくできていて、作り手の愛を感じるよ。じゃさ、今日の飛行機は楽しかったよな?良かった!」
椎名はカーステレオから、航空会社のラジオ番組のオープニングで有名な『ミスター・ロンリー』を流した。
俺たちが生まれる少し前の有名な長寿ラジオ番組のもので、古くて穏やかで心に刺さる楽曲がゆったりと夜の闇に溶けるように流れる。
椎名は楽しげに俺の肩に手を回した。
そして、頬にチュッとキスを落とした。
次々と流れるオールドアメリカンの楽曲を聴きながら、俺たちは少し窓を開けて、生温い風を感じながら夜のドライブを楽しんだ。
第ニ節 国際通りにて
「わぁ、広くて綺麗なホテルだな」
俺は年甲斐もなく国際通りのビジネスホテルのクオリティに感嘆してしまった。
旅行会社に勧められた、航空会社系列のビジネスホテルだが、広さも充分で、眼下には国際通りがよく見える。
ベッドはツインでゆっくり休めそうだ。
椎名は荷物を片付けながら、まずは夕飯に行こうと俺の手を引いた。
夜の国際通りは夜10時近いがまだ人通りも多く、観光客がちらほらいた。
俺たちは地元で人気だと言う、家庭料理屋で夕飯を食べることにした。
「わぁ、このゴーヤチャンプル、スっごく美味いな。スパムの塩気と木綿豆腐、、美味い!」
やっぱり地元の食材で作るチャンプルは上手いな、と俺は感動し、注文した皿一つひとつのレシピを想像しながら食べた。今度は自宅で椎名に作ってあげたい。
ラフテーや海ぶどうも美味しく、俺はしばし無言で箸を進めた。椎名もお腹が空いていたのか、泡盛を少し飲みつつ次々と食べている。
「この後、国際通りをぶらっと歩いて、明日に向けてホテルでゆっくり休もうか。今日は仕事もあったし、移動で距離もあったから疲れただろ」
椎名は俺の乱れた前髪を直しながら優しく言った。
椎名は優しい。今回の旅も俺を思ってのことだろうし。
その黒い瞳に少し見惚れながら、俺はこくんと頷いた。
国際通りを観光し、遅くまで開いている店で早めに会社へのお土産や自宅への買い物を済ませた。
リゾートでは買い物を気にせず、ゆっくりしたいこともあるが、この付近が一番お土産が豊富なこともある。
有名なアイスクリーム屋でアイスを買って、食べながらホテルに戻った。
明日の移動は早めと考えており、仕事後にすぐ移動したのでさすがに眠たくなった。
ホテルでシャワーを浴び、俺はベットに横になって天井を見つめた。
自宅とは違う部屋、空気。
ようやくここは沖縄で、旅が始まったばかりだとの実感がわいてきた。
携帯でイチコの様子を見た。家にはカメラがあり、不在時の自宅の様子を確認できるよう設定してある。暗視カメラには、猫ベッドでイビキをかいて寝ているイチコの姿がある。俺はホッとひと安心した。
ガチャ、と扉が開いて、椎名が頭を拭きながらシャワーから戻ってきた。
俺はイチコの様子を見せて、2人で顔を見合わせて微笑んだ。
「久しぶりにベッド別だな。アダン、寂しくないか?」
椎名はイタズラっぽく聞いてきた。
「ふふ、少し寂しいけど今日は平気。今にも寝落ちそうだよ。晴一も仕事と運転で疲れたよな、今日はありがとう。おやすみ」
俺はベットから手を伸ばして、隣のベッドの椎名の手を握ろうとした。ギリギリ届かない。
椎名はベットから身体を起こして、俺の近くまで来て俺の唇にチュッとキスをした。
そしてお休みと言って電気を消した。
一瞬のことで目をぱちくりとしてしまったが、途端に幸せな気持ちで胸がいっぱいになった。
モゾモゾと音がして、暗闇の中で椎名も布団に入った音がする。そして、はぁと楽しげな吐息も聞こえる。
俺は何かに包まれる安心感を感じて、お休みと呟いて、そっと目を閉じた。
第ニ章 旅行の2日目
第一節 恋人とのドライブ
朝7時。俺たちは海沿いのリゾートに向かって、車オープンにして走らせている。
今日はペーパードライバーだと言うアダンが運転している。道がまっすぐで幅広のため運転しやすいこともあるが、本人が言うほど運転は下手ではない。
しかも5年ぶりと言うが全く問題ない。
やっぱりアダンは器用だ。ハンドル捌きも上手く、車の機能を即座に把握したようだ。
「日差しが眩しくなってきたな。晴一、カバンからサングラス取ってくれる?」
アダンはサングラスを受け取るとサラッと顔にかけた。その横顔が思いのほかカッコよくて驚いた。
「アダン、メチャクチャ似合ってるぞ!」
アダンはふふっと笑って、お前には負けるよと微笑んだ。
もともとフランス人の血が入っているアダンは、何気ない所作がエレガントで日本人離れしている時がある。
見た目もそうだ。サングラスをすると一見明るい髪や肌と相まってフランス人かと思う時もある。
海風を感じながら、アダンが行きたがっていた有名なタコス屋で朝食を済ませた。
朝一なのに、すでに行列ができていてオープン時間を待ったほどだ。その価値がある、驚くほどの美味しさだった。
その後、離島の塩工場へと向かった。
海の上を幅広の道路がかかり、青い空と海の飲み込まれて行くような錯覚を覚えながらドライブを楽しんだ。
より一層の潮風を強く感じ、灼熱の日差しの中で生成される天然のミネラルの豊富な塩を購入した。
東京ではなかなか手に入らなくて身体に良い有名な塩だ。俺はアダンとの毎日の食事に使いたく、一見地味なこの観光地を希望していた。
来て、正解だった。
塩もそうだが、高台からの海の眺めが抜群に良い。
俺たちは高台から海を眺めてお茶をした。
塩味のレモネードが美味しく、俺たちはすっかり仕事から心が離れて旅を楽しんでいることに気がついた。
「晴一、楽しいな。こうやって2人で新しい景色を見る時間をこれからも増やしたいな。
2人でいるってことは、こんなにも楽しい時間もあるものなんだな。知らなかったよ」
そう言ってふわりと微笑んだ。
俺は今までのアダンの一人の時間と、寂しいとも感じなかったであろう、密度の高かった日々を思った。
今ようやく、アダンは自分の好きなことに時間を費やせるようになったんだ。
俺はそっと顎を持ち上げ、その唇にキスを落とした。
少し赤くなって俯いて、ふと目を上げたその瞳に親愛の気持ちを映して、可愛い恋人はまた微笑んだ。
気持ちのよい潮風が俺たちの周りを吹き抜けた。
第ニ節 リゾートの夜
ホテルの部屋は海に面した広いバルコニーがある、白とブルーを基調とした部屋だった。
部屋に着くなり、俺はアダンをベッドに押し倒した。
早めにチェックイン出来たこともあるが、日常を離れて俺のタガが外れたのか、恋人を今すぐ抱きたくなった。
アダンはシャワーを浴びると少し抵抗したが、汗ばんだその肌のままで愛し合いたかった。
「もう、晴一、いつもはもっと紳士なのに、今日は性急だな。でもリゾートだからいいか。俺もお前が欲しいよ」
アダンはふわりと微笑んで、挑発するように舌を絡めてきた。
チリっと、俺の理性が擦り切れる音がした気がした。首筋を舐め上げ手探りでゴムをつける。
甘噛みするごとに震えるアダンは頬を綺麗なピンク色に染めている。ほとんど愛撫らしい愛撫をしていないのに、既にとろけた状態の身体で、俺が欲しいと身体で訴えてくる。
俺は熱を押し付け、痛まないよう、はやる気持ちに必死に堪えながら挿入していく。
「あっ、、ん、っ。晴一、気持ちいい、、」
大きく開かせた足の間で、トロトロと蜜をあふれさせながら震えているのを見て、思わず質量が増した。
「や、、」と声をあげのけ反りながら、全身を震わせている。
俺はぎゅうぎゅうと締め付けられる快楽に眩暈を覚えながら、気を抜くと持っていかれそうになるのを何とかやり過ごす。
落ち着くために腰は動かさないまま覆いかぶさり、キスをしながら全身を撫でた。
くせ毛の髪を指に絡めて、白い喉を舐めながら胸の尖りを擦る。
勃ってかたくなってきたそこを優しく掴むと、またアダン身体が震え腹の間でびくんと熱が主張した。俺もつられてまた呻いてしまう。
「アダン、、、辛いか?」
「ん、、わかんなっ……、ぁ…!」
はぁと深く息を吐く毎にうねうる締め付けをこらえ、感じやすい箇所を攻めると、断続的にひくつきながら俺の背中に爪を立てる。
俺は夢中で腰を動かし、唇を貪った。
感じやすいなとは思っていたけど、キスするだけで全身を震わせ、ぎゅうっと全身でしがみつかれて、温かさに包まれて、耐えるのがかなり辛い。
俺はアダンの耳元で我慢出来ないことを何とか伝え、欲望を解放した。
んん、、とアダンも震え、しばらくお互いを抱きしめあった。
一時的な快楽だけではない。
知ってしまったらもう戻れない。何度求めても物足りない。こんなにも温かくて切ない。
自分でさえ触れられない心の奥底がフワリとして、全身が優しさに包まれる。そして、身体の芯から全身に安堵が広がっていく。
「はぁ、おれ、アダンにいま、護られてる…」
「…せいいち、、んん」
顔をアダンの髪を擦り付けながら呟くと、かすかに息を呑む音がした。
すこし身体を起こし、その手をつかむ。
うっすらと涙を湛えているのを見て、思わずその身体をぎゅっと引き寄せた。
「少し眠ろう、、4時には起きて、海辺を歩こう。早めのディナーもいいな、、」
俺は深く達した恋人を優しく横たえて、耳を甘噛みしてもう一度舌を絡めた。
そして、背中をぽんぽんと叩きながら瞳を閉じた。
ザザーンと海の音が聞こえて、午後の眩しい日差しを受けたレースのカーテンから、白い日差しが漏れる。
俺たちはリゾートの2日目の午後を、贅沢にふたりきりで過ごした。
恋人の白い身体が、俺の身体に巻きついてきて、吐息と共にスヤスヤと寝息をたてた。
夜も自分を抑えられそうもないと思いながら、俺は白い光をまぶたに感じて目を閉じた。