第21話 プロポーズ

文字数 3,905文字

*R18の表現があります。

第一章 最終日の告白

夜はホテルのレストランでディナーを楽しむことにした。
明日の夕方の飛行機で俺たちは東京へ戻る。今夜はリゾート最終の夜だ。

最後の夜は沖縄の地元の魚や野菜を堪能し、椎名は泡盛をロックでチビチビと飲んでいる。

「沖縄、楽しかったな。海がとっても綺麗で、食べ物もとても美味しかった。何より、仕事も日常も離れて晴一とゆっくり過ごす時間が夢見たいだった。今日も夜空、綺麗だな」

俺は乾杯のシャンパンで程よく酔ってしまった。お腹はそんなに空いていないが、夜空の美しさと隣に椎名がいる贅沢な空間に、気分がほんわりとした。

高台から海の見えるテラス席で、昨夜のレストランとはまた赴きが違う。空と海が同じくらいに感じる距離感で、まるで星が落ちてきそうだ。

「ねぇ、晴一、イチコが明日帰って来るの楽しみにしてるみたいだ。ペットシッターさんからメール来てさ、ほら、窓辺で待ってる写真だ」

イチコは窓辺で俺たちの帰りを待っているらしい。ちょこんと座って少し寂しげな横顔だ。

椎名が笑ってイチコの写真を手でなぞった。

「晴一、新しいプロジェクトはどう?」

椎名は新しいプロジェクトにアサインされ、システム企画も兼務しつつセキュリティ脅威にAI開発を導入している。

「そうだな、AIは結局、データとセキュリティにさまざまなリスクをもたらすという事実があるよな。今やAIはサイバー脅威の原動力にもなっているくらいだし、便利な反面、脅威だよ。課題満載だよな」

椎名ははぁ、と少しため息をついた。技術は日進月歩だ。時は待ってくれない。

「だから、セキュリティ クラウドで行われた200億件以上のAI関連のトランザクションの分析をもとに、企業が生成するAIトランザクションの世界的傾向の分析を進めないとと思ってる。そこからAIでさらに進化する脅威の最新動向を掴みたいと思っているんだ。アダンとこの分野を一緒に推進だがら、本当に心強いよ。お互い、またしばらくは忙しくなりそうだな」

そうだ、俺たちはこれからも仕事でまた助け合っていくんだ。俺はうんと頷いた。

「でも、そんな忙しい日常で、素の自分に戻る時間が今あること、すごく幸せなんだ。アダンと暮らしはじめて、朝夕の温もりを感じたり、美味しいご飯を一緒に食べたり、自分以外の悩みに寄り添ったりすると、俺の存在意義みたいのを感じてさ」

俺は頬が熱くなった。
椎名は俺の顎に手を添えて、チュッとキスを落とした。

付き合ってまだ半年も経っていないが、出会ってからは3年半以上になる。まだ顔を合わしたことのなかったプロジェクトで彼を知ってからも含めると、椎名との仕事と生活が俺の日常となった。
もう彼のいない生活は考えられない。俺はそっと顎に添えられた手を握った。

「晴一は、俺に4つもLを教えてくれたよな」

4つのエル?椎名は首を傾げた。

「ライト、ラブ、ライフ。光と愛と人生だよ。最後の一つはluck、運と幸運、巡り合わせだ。
晴一と出会わなかったら、俺はと人との愛を知らなくて光に満ちた人生を経験できなかった。経験してみて、これは、、とてつもない幸運で巡り合わせだと気づいたんだ。
晴一は俺の人生に光を差し込んで愛と人生をくれた。なんか照れくさいな、、でも本音だよ。サンキュな」

椎名はハハっと嬉しそうに笑った。そして俺も同じ気持ちだと言った。

「アダン、また東京帰ってもよろしくな」
俺は再びうんと頷いた。

椎名はテーブルの俺の手に指を絡めてきた。大きく長い指が綺麗だと思わずじっと見つめた。

「アダン、あのさ、、俺たち一年付き合ったら、結婚しないか?その間にアダンも俺との人生を考えてみてほしい。男とは叶わないや夢や現実あるだろ?そんな事も含めて、よく考えて欲しい。
今3ヶ月経ったから、一年後は残り9ヶ月か。その時、改めて正式にプロポーズする」

えっ?プロポーズ?いや、一年先の事だから、猶予付きのプロポーズ?
俺は嬉しいやら困惑やらで口をポカンとしてしまった。

椎名は泡盛なのか恥ずかしいのか分からないが少し頬を赤らめて、俺の手を引き寄せて手の甲にチュッとキスをした。

「ありがとう、晴一。。うん、一年後、結婚したい。俺、よくよくその間考えてみるよ、お前のことも幸せにできるかも含めて、よく考える」

ホッとした顔をした椎名は、残りの泡盛を飲み干し、部屋に戻ろうと俺の手を引いた。

その背中は恥ずかしさと嬉しさが混在して、とても可愛く見えた。


第ニ章 一等星の輝き

んん、、身体がとても軽い。
俺は半身をベッドから起こして、横たわるアダンを見つめた。

さっきまであんなに激しく動いたのに、身体も心もスッキリとして心が晴れ渡っている感じだ。ようやくプロポーズできたから安心したのかもな。

部屋に戻ってから、どちらともなくお互いを激しく求め合った。

俺は横でスヤスヤと寝息を立てる恋人の額に、そっとキスを落とした。
まつ毛にはまだ涙を流した湿りが残っており、白い肌に月明りがまつ毛の影を作っている。そしていつも通り、髪はボサボサと四方に乱れている。

俺はアダンの髪を櫛削りながら、ボンヤリと酒の席で中嶋さんに言われたことを思い出していた。

『お前、なんか変わったな。奈木のお陰か?もっと人を寄せ付けない所があったし、仕事で落ち込んだと思ったら、遠くを見て考え事をすることがあって心配したものだ。
でも最近は地に足が着いてきたと言うか、しっかりしてきたな。上司としては仕事の成長も感じて嬉しいし、俺から見てもいい男に成長していると思うぞ』

俺が成長か、、もしそうだとしたら、アダンが俺を変えたんだろう。仕事で刺激を受けて、プライベートで本気で人を好きになった。それは今まで怠っていた自分を見つめ直す時間だった。

考えたら、家の環境が居心地悪く、早く大人になりたくて大学入学を期に家を出た。それからは勉強と就職、仕事、彼女と目まぐるしく目の前のことをこなして一人前になった気になっていた。

そしてふと、沢山持っているようで何も確たるものを抱えていない自分に気がついた。
将来、いや一年後ですら、自分は何をしたいのか分からない。俺は星のない夜に放り出された気分だった。

そんな時、アダンと出会って、同僚として助け合って惹かれていくにつれ、星のない夜に光がさした。はじめは六等星くらいの小さな光が、段々と俺の中で一等星のように輝き始めた。

一等星か。俺はそっと窓の外に広がる夜空を眺めた。今日で見納めの沖縄の夜空は星が無数に輝き、まるで俺の心境を表しているように思えた。

「ううん、、せいいち、起きてるの?」
アダンが目を覚ました。

「ごめん、星が綺麗だから見てた。身体辛くないか?」

アダンはしどけなく上半身を起こした。そして、ボタンがほとんど外れている白いシャツから白い肩を出し、大きなシャンタングレーの瞳を俺に向けた。

「大丈夫だ。少しも辛くない、、あ、でも少しもの足りなくて辛いかも。。ねぇ、もう一度、、」
と言って俺に抱きついてきた。

アダンがこんなに積極的なのは珍しい。
突然飛び込んできた胸の中の温もりに、俺は理性より本能を優先させた。

まだ解れている中に指を入れて、何度も出し入れして気持ちいいところを撫でまわす。

「あっ、んっ・・・あっ」
シャンタングレーの瞳がまた潤みはじめて、月明かりを映して金色に輝いた。
そして金色の瞳から涙があふれ、頬を伝った。

舌で涙を拭いながら、指と入れ違うようにアダンの中へと入れてゆっくりと腰を進めていく。

「うっ、、んっ、晴一・・・」
アダンは中に入ってくる圧迫感に、白い顔を歪めて俺の頭を強く抱き寄せた。

「俺を感じて、、」
「あっ、うっ・・・大き・・いっ」

俺はゆっくり腰を動かし、アダンのものを優しく握り、徐々にその速度を上げていった。

「あっあっ・・・やっ・・ダメ」
アダンは枕に顔を押し付けて快楽を堪えている。

俺は高められていく中で、自分に不足したものを埋めたくて、アダンの頬に思わず手を伸ばした。

「キスして、せいいち…」
頬を蒸気させて切なげに求める表情に、堪らない気持ちになる。
求められるがまま唇を重ね、震える舌を絡ませながら中を突く。

アダンは俺の腰に、汗ばんだ脚を絡ませた。俺への締め付けがより一層強くなる。
そして絶頂へと共に駆け上った。

俺はまどろむ意識の中、アダンの中に熱を流し入れた。アダンが気持ち良さそうに切ない吐息をもらして、身体を妖艶にくねらせた。

汗ばんで重なる身体が心地いい。互いの荒い息づかいが、耳に響く。

息が落ち着つき、アダンの顔を覗き込み、長い前髪を片手で軽く整えた。

「…せいいち?」
じっと見つめる俺に、アダンは首を傾げる。

「いや、可愛いなって…」
そう言って頬にキスをした。

「そんなに?俺、可愛い?」
「可愛いよ。俺色にもっと染まってほしいくらいだ」

もう染まってると、俺の言葉にアダンは苦笑した。

腕にアダンの頭を引き寄せて、俺は好きなレコードの英語の歌詞を口ずさんだ、

『俺の恋人はね、おれの乾ききった心に
砂漠の中のオアシスのような潤いと
人を愛するという事がどれほど大切か
そして愛から生まれる数々の感情や
イマジネーションや優しさを
教えてくれた唯一の人なんだ…』

アダンがクスクスと笑って言った。

「晴一はロマンチックだな。砂漠のオアシスか。お前が干からびる前に思い切って告白して良かったよ」

俺たちは見つめあって笑い合った。

俺は軽い疲労感と眠気に、少しずつ意識が遠のいていった。眠りに落ちる直前に、アダンが俺のまぶたにチュッとキスを落とした。

その唇の暖かさに、心の中からフワリと光が生まれて、俺の身体を優しく包み込んだ気がした。




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登場人物紹介

⑴椎名 晴一  しいな せいいち

年齢;31歳

身長;181センチ

特徴;切長の目、黒髪ショート

職業;エンジニアリンング部

会社;大手AI企業のミソトラルの社員

性格;正義感が強く優しい、真面目

特技;運動全般、特にマラソン

外見;細身の筋肉質、薄めイケメン

その他;腹違いの弟

⑵奈木 アダン  ないき あだん

年齢;31歳

身長;174センチ

特徴;ヘーゼルカラー瞳、栗毛の癖毛

職業;精神科医 兼 データアナリスト

会社;公務員 セキュリティ庁情報部

性格;おっとり、少しコミュ障

特技;頭脳明晰、得意分野に能力発揮

外見;ボサボサ髪で無頓着、唇が厚め

その他;曽祖父がフランス人、姉1人

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