仲直りの話

文字数 1,185文字

 それから1週間以上栄とは会っていない。別にこの神社に誰も来ないのはいつものことだったし、来ても不届き者ぐらいのものだったから、特に気にならない…と思ってたんだけどな…いやあ参った、いつの間にか栄と会うことが何よりもの生きがいになっていたみたいだ(神様は死なないから”生きがい”なんて言うのもどうかと思うが)。たった一週間会わないだけでこんなにも精神的に来るとはね…いや、本当に辛いのは会えないことじゃない。今までだって長いこと会えなかった時期はあったが、その時はここまで虚しくなることはなかった。本当に恐れているのは、栄が二度とここを訪れないんじゃないかってことだ。何せあんなことしちまったからな、そりゃ栄も怒るわ…いくら縁切りの神だからって自分と誰かの縁を切ってどうするよ…

―麗子さん―

 栄のやつ、今頃どこで何してんだろうな…
「麗子さん!!
 ふと声が聞こえてその方向を見てみたら栄がいた。
「栄!?来てたのか?」
「ええ、さっきから何度も呼んでましたよ?気づきませんでしたか?」
「ああそうだったのか?悪りい悪りい…」
 とはいえお互いに気まずいのか、それとも変な意地があるのか、なかなか口を開こうとしなかった。この無意味な我慢比べに先に折れてくれたのは栄の方だった。
「その…先日はすみません。麗子さんが僕のためを思ってくれてのことだったのに。」
 少しからかってみるか。
「全くだ。お前のために女神であるこのあたしがわざわざ一肌脱いでやったっていうのに、恩を仇で返しやがって。」
「本当にすみませんでした…」
 可哀そうになってきたからもうやめよう。
「冗談だよ。その…あたしもやりすぎだったと思う。お前の気持ちも尊重しないで…こっちこそ、ごめん…」
「や、やめてくださいよ!仮にも神様が…」
「神様だって自分の過ちぐらいは認めるよ。」
 再び会話が途切れる。沈黙を破ったのはまたしても栄だ。ホント、情けないな、あたし…
「それで、仲直りの証と言ってはなんですが、お酒でも一緒にどうですか?」
 そう言うと栄は鞄の中からウイスキーを取り出した。どうやらイギリス産らしい。洋酒のことは良く分からないがたぶん良い酒なんだろう。
「お、良いのか?」
「ええ、家にある一番高いウイスキーを持ってきました…洋酒はお嫌いでしたか?」
「いいや、たまには洋酒もおつなもんだ。それよか、高い酒なんか持ってこなくて良いよ。」
 例え安酒だろうとお前と一緒に飲むことができりゃどんな美酒にも勝るよ。
「いえ、今日は特別な日ですので。」
「じゃ、お言葉に甘えときますかね。」
 そのあと慣れない洋酒を飲んだせいか、はたまた単に度数の高い蒸留酒を飲んだせいか、酔ったあたしは栄にだるがらみしたらしいが全然覚えていないし、栄に聞いても何故かよそよそしくはぐらかされたうえにこれまた何故か栄が赤面していたので深堀りしないことにした。
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