名前の話

文字数 1,211文字

 次の日、約束通りボウズが来た。嬉しいことに手土産も引き下げて。
「こんにちは、お姉さん。これ、お饅頭。」
「お、気が利くじゃねえかボウズ。ありがとよ。」
「持ってきておいてなんだけど、神様って僕らと同じ物を食べられるの?」
「ああ、食えるよ。まあ、お供え物っていう前提のもんに限るがね。」
「そうなんだ。じゃあこれから毎日お菓子持ってくるね!!
「おいおい、毎日は結構だって。お母さんに怒られないか?」
 それになんかあたしがガキに物乞いしてるみたいでなんとなくバツが悪い。
「でもおじいちゃんが言ってたよ?神様とお話をしたいときはちゃんとお供え物は用意しろって。それに、僕も一緒にお菓子を食べられるし。」
 十中八九後者が本当の理由だろうな…この年頃のガキっぽい理由ではあるが。
「それに、自慢じゃないけど僕の家って結構お金持ちなんだ。」
 後で分かったことだが、ボウズの家は代々続く和菓子の老舗で、祖父の代に事業拡大に成功して懐が潤ってるんだとか。
「そうか、じゃあお言葉に甘えて毎日持ってきてもらおうか。ああ、あとそんなに高いものじゃなくて良いからな?」
「うん、そうする。」
 ついでに酒も、て言おうと思ったがガキに酒を持ってこさせるのは流石にどうかと思ってやめた。
「ところでボウズ、お前、名前は何て言うんだ?」
「僕は”栄(さかえ)”、お姉さんは?」
「あたしは…”縁切りの神”だよ。」
 本当の名前はもっと長ったらしくて難しいんだが、ガキに言ってもわからないだろ。
「でもお姉さんそう呼ばれるの嫌そうにしてたよ?」
「そうか?」
 自分ではそんなつもりはないが、栄の目にはそう映るらしい。まあ実際名乗って気分の良くない名ではあるが…
「うん、だからお姉さんには僕が名前を付けてあげる。」
「ほう、そいつは嬉しいな。で、何て名前だ?」
 ま、ガキの考えた名前だしあまり期待しないでおこう。
「レイ子さん。」
「レイ子、ってどういう意味?」
 見た目が幽霊みたいだから”霊子”さんとかだったらぶっ〇す。
「お姉さん綺麗な人…じゃなくて女神様だから”麗子”さん。」
 ほう、ガキにしては悪くないネーミングセンスだ。
「”麗子”か、うん、気に入った。」
 少なくとも”縁切りの神”なんて不名誉な称号よりは数万倍マシだ。
「えへへ、どういたしまして。」
 しかしこの歳で女をたぶらかす術を覚えているなんざ、こいつ将来相当な女たらしになるぞ…なんて心配は杞憂に終わった。先に述べておくと栄は生涯異性にはあまりモテなかったらしい。らしいと書いたのは先に言っておくと50年以上会わなかった空白の時間があるからだ。何でそんな時期があったかは追々話すとして、人間の容姿の善し悪しはイマイチわからないが、それでも栄は決して他と見劣りするような見た目はしてないと思うんだがな。寧ろ男前の方だろ。それでいて一本筋の通った好漢だ。これだけ良い男なのに勿体ないのなんの。人間の女どもは見る目ないのか?
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み