愚痴の話

「良い?あの2人だけは絶対に別れさせちゃいけないからね!?」
「はい…」
　縁結びの神である姉の説教は長い。長時間の正座とか勘弁してくれよ…
「だいたいあんたの役目は明らかにくっつくべきではなかった人々を別れさせることでしょ!!あくまで人々をより良き場所へ導くために!!それを私利私欲のために職権を乱用するなんて言語道断よ!!あんた、自分が女神だっていう自覚ある!?」
「はい…」
　神様はボランティアか何かですかね…やべえ、脚が痺れてきやがった。
「そりゃ最近は後先考えずにくっついて、それでいてすぐ離れるような私達からしたら迷惑極まりない輩が増えてあんたも大変だろうけど、だからって八つ当たりはダメよ!?だいたい良く考えたら私だって忙しいわよ!!これ以上説教なんかに時間を使わせないでよね!!」
「はい…」
　そう思うなら早くやめたらどうですかね?説教。ていうか後半はほぼ八つ当たりだろ…ああ、早く膝を崩してえなあ。
「まさかとは思うけどあんた、さっきから”はい”って言っておけば説教が終わるとでも思ってないでしょうね?」
「はい…」
　しまった…
「あんたねえ…」
　あーこりゃ長くなるわ＼(^o^)／

　姉の長い説教がようやく終わった。だいたい姉ちゃんたちだってあの2人を露骨に贔屓(ひいき)してただろ。死神に至ってはあれ完全に思い入れあったじゃねえか。なのに同じく神であるあたしが私利私欲で人間どもの縁を切っちゃダメなのかね?…そりゃ姉さんは良いよ。「縁結びの神」なんて人間どもから慕われるような名誉な役職につけて。それに対してあたしは「縁切りの神」なんて不名誉な役職に就いちまった。そんなあたしにも一応祀ってくれている神社があるだけマシだと思わなきゃいけないのかね?でもま、その神社は長いこと神主は不在で荒れ果てているわ、そのせいか不良どものたまり場になるわ、で、鬱陶しいからちょっとビビらせてやったら心霊スポットって噂が立つようになって、夏あたりになるとどこから聞きつけたのか馬鹿な大学生どもが肝試しに訪れるようになった訳だ。面倒臭いからこいつら馬鹿の相手はしてないけど。で、たまにまともなやつが来たかと思うと、不倫相手と結婚したいから今の夫/妻とは別れさせてくれなんて下衆な理由がほとんどだ(もちろん叶えてやる訳ないが)。まあ縁切りの神を祀っている神社を訪れる時点でまともな訳ないか。倫理観皆無のお前ら腐れ外道どもは論語でも一通り読んでみたらどうだ?そしたらただの外道ぐらいには昇格できるよたぶん。何にしろ離婚するぐらいなら結婚するな。こっちの仕事が増えるんだよ糞が!

　ここまで愚痴ばかりだけど、一応この仕事にもやり甲斐はある。例えば仲睦まじい男女の縁を切ってやったときのあいつらの発狂ぶりを眺めるのは最高にそそる。それ以上は特に何もしていないのに勝手に負の感情の渦に陥り、元恋人を憎み、罵り、嫌悪し、そうかと思えば自分の過ちに苛まれ、苦しみ、うなされ、そうやって廃人と化していく工程はこの世のどんな茶番劇よりも滑稽で、どんな悲劇より哀れで、そしてどんな喜劇よりも愉快だ。これを肴に一升瓶一本は軽くいける。人の不幸は蜜の味なんていうが、エンターテインメントの真髄とはこういうものを差すんだろ?「ロミオとジュリエット」のような救いようのない悲劇を取り扱った作品が流行るのがその何よりもの証拠だ。ああ、一応断っておくけど普段あたしが縁を切るのは相性最悪で本来はくっつくべきではなかった奴らに限ってのことだよ?逆に相性の良い奴らを無理矢理切っても思ってたほど面白い反応はない。まあさっきは合コンで(神様の)彼氏を作りそこねた矢先に死神のお気に入りの人間のつがいのリア充っぷりを見せつけられたもんだから腹が立って別れさせようとしてたけどさ…

　とまあここまでは冗談として、極稀にだがあたしのことを本気で慕ってくれる人間もいる。さっきの腐れ外道どもみたいなのとは違う、もっと清い理由でね。こういう可愛いやつがたま～に現れるからこの仕事を辞めように辞められない(どの道神様は一度就いた役職は半永久的に辞められないけど)。一番最近の話をしようか。これはほんの少し前(と言っても人間からしたら結構な年月になるかのかな?)までの話だが、栄(さかえ)っていうやつがいてな、そいつとの思い出話だ。まあ少しの間付き合ってくれよ。