出逢いの話

文字数 1,339文字

 栄と出逢ったのはあいつが小学校低学年の頃だ。神社の祭壇前に腰掛けてボケェーと気怠げに空を眺めていたところにあいつが話しかけてきたんだ。「お姉さんそんなところで何してるの?」って。何って、見りゃわかんだろ。頭空っぽにしてボーっと空を見上げるのに特別な理由が必要かよ…って、そんなことよりこのガキあたしが見えるのか!!?
「おいボウズ、あたしが見えるのか?」
 すかさず目の前のガキに聞いた。
「うん、見えるよ。」
 おいおい、こいつはたまげたぜ。通常神は地上では霊体であり(ようするに幽霊みたいなもん)、こちらが姿を見せない限り人間どもには見えないはずなんだが…って、そんなに驚くことでもないか。たまにだが人間どもの中にも幽霊とかそういうのが見えるやつがいる。たぶんこのガキも霊感とか言うのが強いんだろう。
「お前、ひょっとして幽霊とか見える?」
「うん、見えるよ。お姉さんも幽霊なの?」
「失礼なやつだなあ。あんな成仏し損ないの未練がましい浮浪者どもなんざと一緒にするな。あたしは女神様だよ。」
「お姉さん神様なの?それにしては若そうだけど。」
「神様は老けないんだよ。若く見えるかも知れないけど、実際にはお前のおじいちゃんおばあちゃんの、そのまたおじいちゃんおばあちゃんが生まれるよりもずーっと昔からいたよ。」
「そうなんだ。じゃあお姉さんじゃなくておばあさ…」
「そこはお姉さんで通せ。」
 ったく、乙女の扱いってのが分かってねえなあ。親と学校はどういう教育してんだ?
「ごめんなさい…ところでそこ祭壇って言うところでしょ?そんなところに座ってていいの?罰(ばち)が当たるよ?」
「あのなあ、あたしがこの神社の主なんだよ?その主が祭壇に座っていたとして一体全体誰が罰を当てるって言うんだ?お天道様だって裁けはしねえよ。」
「それもそうかあ…でもやっぱり行儀が悪いよ!」
「はいはい。」
 この年頃のガキは妙に規範意識が高いから面倒臭いんだよねえ。
「”はい”は一回ってお母さんが言ってたよ?」
「はい…」
 ホントメンドクセェ…
「ところでお姉さんって何の神様なの?」
「あたしは”縁切りの神”って言って、人と人を離れ離れにする神様だよ。ボウズも嫌なやつとか気に入らねえやつとかいたらあたしを頼りな。すぐそいつとの縁を切ってやる。」
「うん、ありがと。でも僕はお父さんもお母さんも、おじいちゃんおばあちゃんも、学校の皆も大好きだから別に良いや。」
「そうか、その方が良いよ。本来あたしみたいな神様はいない方が良いんだし…」
 ホント、何でこんな役職に就いちまったんだろうね、あたし…あたしも本当は人間どもから慕われるような神になりたかったよ…そんなあたしの心境を知ってか知らずか、ボウズは励ましてしてくれた。
「そんなことないよ!!お姉さんにだってきっと生まれた理由があるはずだよ!!この世界にいらないものなんてないって、おじいちゃんが言ってたもん!!
「そうか…お前のおじいちゃんが言ってたんならその通りだろうな。ありがとな、少し元気になった。」
 きっとボウズなりに気を遣ってくれてんだろう。
「うん、それでお姉さん、明日もここに来て良いかな?」
「おう、いつでも来な。」
 こんな感じであたしとボウズ(栄)との交流が始まった。
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