第7話 未遂

文字数 334文字

「何の音?」
夏花はニタリと笑った。唇がぬるりと艶を帯びる。
「下の階のトイレを見てるんだと思う。そこで出会ったの。」
長い睫が震え、夢を見るように目が泳いだ。
「下の階ね。」
まだ猶予がある。
「すぐには来ないんだね。」
僕は彼女の剥き出しの肩を掴んだ。そのまま何か言いかけた唇を塞ぐ。ストロングゼロの人工的な甘味が舌に広がる。

ガリリ

舌に痺れが走る。彼女が腕の中から抜け出した。
「夏花。」
「帰ろうか。」
彼女はそれでも少し笑って、缶を飲み干した。
僕は失敗したのだ。よくわからない管理人なんて、廃墟なんて、正直どうでもよかった。
ここから押し通せるほど僕は強くない。僕は黙って彼女に従った。
部屋を出て廊下を歩き出すと、後ろでパタパタと足音がした。夏花は一瞬反応したが、振り向かなかった。

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