第9話 月と醜行
文字数 382文字
入り口からスマートフォンの明かりを照らすと、奥でどこかのドアが閉まる音がした。
「管理人さん、行っちゃったね。」
夏花は廃ビルに入るのを拒んだ。
「千晴。」
「何、管理人さんに気を遣ってるの?」
酩酊と共にスラスラと醜い言葉が飛び出してくる。僕は優しく強く彼女の手を引いた。
真っ暗な廊下を歩き、適当な部屋に入る。
スマートフォンをポケットに入れると、目蓋の奥に、先ほどの居酒屋の電飾が火花のように浮かんだ。汗臭さ。香水の噎せるような匂い。
夏花の匂いは感じられなかった。僕は彼女の耳許に告げた。
「呼べばいいじゃん。来てくれるでしょ。」
埃に塗れた床に、誰のともなく体液が散っている。僕は少し眠ったのだろうか。
シャツを羽織り、煙草に灯を点ける。
来てくれなかったのだ。やっぱりいないんじゃないか。
上階から足音が響く。
割れた窓ガラスの奥から青白い満月が照らす。
背後でドアが動く音がした。
「管理人さん、行っちゃったね。」
夏花は廃ビルに入るのを拒んだ。
「千晴。」
「何、管理人さんに気を遣ってるの?」
酩酊と共にスラスラと醜い言葉が飛び出してくる。僕は優しく強く彼女の手を引いた。
真っ暗な廊下を歩き、適当な部屋に入る。
スマートフォンをポケットに入れると、目蓋の奥に、先ほどの居酒屋の電飾が火花のように浮かんだ。汗臭さ。香水の噎せるような匂い。
夏花の匂いは感じられなかった。僕は彼女の耳許に告げた。
「呼べばいいじゃん。来てくれるでしょ。」
埃に塗れた床に、誰のともなく体液が散っている。僕は少し眠ったのだろうか。
シャツを羽織り、煙草に灯を点ける。
来てくれなかったのだ。やっぱりいないんじゃないか。
上階から足音が響く。
割れた窓ガラスの奥から青白い満月が照らす。
背後でドアが動く音がした。