第3話 夏の少女

文字数 619文字

僕は、昨年から近くの学生数の多い大学に通い始めた。
受験競争を要領よく頑張ることができた僕等は、この世の夏とばかりに、光や闇を探し回っていた。僕は、「廃墟研究会」という弱小サークルに入った。
野球部や応援団などの光に近寄れなかった者、それらを蔑む者、何も考えていない者達がそこに集い、ただただネット上に溢れる廃墟写真を眺めてダラダラと感想を述べたり、遊びに行ける範囲の廃墟に出向いて眺めたりすることが活動だった。それらはまだ良い方で、殆どの時間は、サークルに宛がわれた粗末な部室のブラウン管テレビに、昔の先輩が残した一昔前のテレビゲームを繋いで、缶チューハイを片手に対戦していた。
「千晴、明日の6限出る?」
カービィしか扱えない女が、下手くそな攻撃を繰り出しながら聞いてくる。
「たぶん。」
僕は適当に手加減しながらピカチュウを踊らせていた。
「じゃあ、その後ご飯食べない?」
「うん。バイト確認する。」
気のない返事でやり過ごす。この子と付き合ってるのか、付き合っていないのか、いつも問い質されることに疲れていた僕は、どっちに転んでもよかった。僕は許可を取ると、パーラメントに火を点けた。
「怒られるよ。」
笑いながら言う彼女が、一個上の先輩と大人の関係であることを僕は知っている。
コツン、と、独特なノックが聞こえた。
「あの、廃墟研究会の部室ですか。」
鈴の転がるような、凛とした声が紫煙の満ちた部屋に響く。
現れた少女は、真夏の庭にいるような出で立ちだった。
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