第11話 決行(中)
文字数 1,077文字
寅次郎と重輔を乗せた小舟は、静かに、ミシシッピー号に向かって、進んでいく。重輔が漕ぐ櫓のきしむ音が、際立って、聞こえる。
「さて、と」
寅次郎は、振り向いた。
「重輔。そろそろ、代わりましょう」
重輔は、手を振った。
「そんな、滅相(めっそう)もない!先生に、櫓を漕がすなんて・・・怒られますよ」
寅次郎は、かまわず、舟の艫(とも)に、寄って来る。その顔には、微笑が、広がっている。
重輔は、ため息をついて、舟の前方に、移動した。
「先生は、舟を操ったことがあるんですか?」
「ないです」
重輔は、艫の方を向いて、座っている。
「変わる必要、ありました?」
「やってみたかったんです。では、行きましょう」
バキッ!!
重輔が、顔を、突き出した。
「なんです?今の音は」
寅次郎は、頭を、掻いた。
重輔が、舟の艫に、飛んで来た。
「あああ〰!櫓(ろ)杭(ぐい)が、壊れてるぅ〰!」
そそくさと、舟の前方に移動した、寅次郎に、重輔は、嚙みついた。
「どうするんですか!?櫓杭がなけりゃ、舟が漕げないですよ!」
寅次郎は、ミシシッピー号の方に、目をやった。
それから、立ち上がって、帯をほどき始めた。
重輔は、きょとんとした顔で、そんな寅次郎を、眺めている。
帯をほどき終わると、今度は、ふんどしも、ほどき始めた。
「先生っ?!」
動揺する重輔に向かって、寅次郎は、静かに言った。
「何をしているんです?重輔も、早く。
これで、櫓を固定しましょう」
重輔も、慌てて、帯とふんどしを、ほどき始めた。
「先生は、相変わらず、無茶苦茶ですね」
そう言いながら、重輔は、帯とふんどしで、櫓を船端に、くくりつけた。
「力がいりますけど、なんとか、いけます」
重輔が、悪戦苦闘しながら、何とか、ミシシッピー号の、そばに、たどり着いた時、すでに、ミシシッピー号の水兵たちは、寅次郎たちの舟を、発見していた。
甲板では、聞きなれない言葉が、飛び交っていたが、やがて、ランタンが、スルスルと、下ろされてきた。
寅次郎は、立ち上がり、大声で、叫んだ。
「私は、長州藩の、吉田寅次郎と言います!艦長に、お願いがあって参りました!どうか、お取次ぎください!」
甲板は、再び、騒がしくなった。しきりと、何かを、相談している様子だ。
しばらくすると、寅次郎の目の前にあった、ランタンが、引き上げられ始めた。
寅次郎と重輔が、甲板を見上げると、水兵たちが、そろって、ポーハタン号の方を、指さしている。
「どうやら、ポーハタン号に行けという事みたいですね」
そうつぶやくと、寅次郎は、深々とおじぎをして、舟に、腰を下ろした。
「さて、と」
寅次郎は、振り向いた。
「重輔。そろそろ、代わりましょう」
重輔は、手を振った。
「そんな、滅相(めっそう)もない!先生に、櫓を漕がすなんて・・・怒られますよ」
寅次郎は、かまわず、舟の艫(とも)に、寄って来る。その顔には、微笑が、広がっている。
重輔は、ため息をついて、舟の前方に、移動した。
「先生は、舟を操ったことがあるんですか?」
「ないです」
重輔は、艫の方を向いて、座っている。
「変わる必要、ありました?」
「やってみたかったんです。では、行きましょう」
バキッ!!
重輔が、顔を、突き出した。
「なんです?今の音は」
寅次郎は、頭を、掻いた。
重輔が、舟の艫に、飛んで来た。
「あああ〰!櫓(ろ)杭(ぐい)が、壊れてるぅ〰!」
そそくさと、舟の前方に移動した、寅次郎に、重輔は、嚙みついた。
「どうするんですか!?櫓杭がなけりゃ、舟が漕げないですよ!」
寅次郎は、ミシシッピー号の方に、目をやった。
それから、立ち上がって、帯をほどき始めた。
重輔は、きょとんとした顔で、そんな寅次郎を、眺めている。
帯をほどき終わると、今度は、ふんどしも、ほどき始めた。
「先生っ?!」
動揺する重輔に向かって、寅次郎は、静かに言った。
「何をしているんです?重輔も、早く。
これで、櫓を固定しましょう」
重輔も、慌てて、帯とふんどしを、ほどき始めた。
「先生は、相変わらず、無茶苦茶ですね」
そう言いながら、重輔は、帯とふんどしで、櫓を船端に、くくりつけた。
「力がいりますけど、なんとか、いけます」
重輔が、悪戦苦闘しながら、何とか、ミシシッピー号の、そばに、たどり着いた時、すでに、ミシシッピー号の水兵たちは、寅次郎たちの舟を、発見していた。
甲板では、聞きなれない言葉が、飛び交っていたが、やがて、ランタンが、スルスルと、下ろされてきた。
寅次郎は、立ち上がり、大声で、叫んだ。
「私は、長州藩の、吉田寅次郎と言います!艦長に、お願いがあって参りました!どうか、お取次ぎください!」
甲板は、再び、騒がしくなった。しきりと、何かを、相談している様子だ。
しばらくすると、寅次郎の目の前にあった、ランタンが、引き上げられ始めた。
寅次郎と重輔が、甲板を見上げると、水兵たちが、そろって、ポーハタン号の方を、指さしている。
「どうやら、ポーハタン号に行けという事みたいですね」
そうつぶやくと、寅次郎は、深々とおじぎをして、舟に、腰を下ろした。