第6話

文字数 2,331文字

屋内の構造は確かにあの廃墟ビルだった。


でも僕たちが知ってるいつもの廃墟ビルじゃない。時間を巻き戻したか誰かがリフォームしたみたいに、コンクリートの壁に汚れも傷もなく綺麗だ。天井に明るさの控えめな白色ライトが廊下の奥へと向かって伸びていて、その突き当りにある壊れて動かないエレベーター入り口の上部のパネルはライトが点灯しているのがわかった。


「夢でも先輩と遊べるってなんてステキな夢なの!」
「それはどうかなぁ・・・夢にしてはなんかちょっとリアル過ぎない?」

「でも廃ビルなのに中ちゃんとしてません。現実だとしたら逆におかしくないですか?」
「確かにそうね・・・で、新築のころのビルはこんな感じだった、ってこと?」
「つまり夢なんですよ!それにホラー要素が入ってて、今日学校で話したことにぴったりじゃないですか?都市伝説で言われてた『スマホハックド・リアル脱出ゲーム』ですよ!」
「噂が具現化した夢?」
「だって私さっき一回死んで生き返ってますからね。リアルだったら一回死んだら人生それで終わりでしょ?」
「まぁそっか・・・。フロイトも夢分析で、願望と現実に起きた記憶をバラバラにしてゴチャ混ぜにしたものが夢って言ってるから、これって確かかにそんな感じだよね」

「ですよ!夢の中だから何やっても大丈夫だし、先輩と一緒に噂のホラゲーが出来るんなんてもう最高ですって!」


「夢の中のにしてははっきりした会話出来てない?」
「めっちゃリアルな夢なんですよ。どっちにしても明日学校で会ったら真偽わかりますって。それでもし二人とも同じ夢見てたらヤバいかも・・・」
「なにちょっと赤くなってんの?にしてもこのビルあの廃ビルとは思えないくらい綺麗だよね。誰かによってちゃんと管理されてるって感じだよね・・・。ほら見なよ。廊下の突き当りエレベーターのパネル光ってるし電気通ってるんじゃない?

とか言ってる最中うちに、チンという小気味良いベルの音が聞こえてきて、遠くでスライド式の扉が開いたのが見えた。


「あれ!?エレベーターの扉開きましたよ!!」
「まるで入りなさいって言われてるみたいじゃない・・・」
「うんうん!たとえば・・・そう!ビルの最上階にキラー役のボスとか居るんじゃないんですか?大鉈持ったホッケーマスク付けた大男が腕組みして私たちをまってるとか・・・マジヤバ!!」
「ようするにスマホをハッキングして夢の世界に女子高校生を誘い込むっていう・・・」

「ですです!」
「てかそれジェイソンよりフレディの方じゃね?」
「そうそう!昔そんなホラー映画ありましたよね!?・・・タイトルなんだっけなぁ?」
「いやフィクションでも冗談でもなくて現実にそういうヤバい奴がいたんだよ」

「ん?誰のことですか?」

「前に話したじゃん、ここの五階でヤバい老人に会ったってさぁ。現実の世界でだけど」
「それって自称元ビルオーナーを語るホームレスお爺さんですか?」
「それちょっと解釈不一致だわ。見た目はちゃんとした身なりの老紳士なんよ。でもホームレスと言われれば、たしかに当たらずとも遠からず・・・ビルは完全に廃墟化してるわけだからね」

「はっきりしないなぁ・・・どっちなんです?ホームレス?それとも本物のオーナー?」

「元オーナーってのは本当だと思う。あのビルのオーナーって高齢男性でかなり昔に頭がおかしくなって姿を消したらしい」
「その情報なら私もAramata.comで見ました。確か2000年くらいに失踪したとかって書いてたような」
「そうそう。それでここから私の沿い速なんだけど、彼はその辺りにとんでもないことが起きて、頭が狂気に支配されたんだと思う。それでビルの中に異世界をつくってそこを隠居して隠れてたわけ。でねそこに女の子が入り込むと招き入れる・・・そして監禁する」
「話してる先輩の頭もおかしくなってません?もしかして夢だから?」
「言いたいことは分かるよ。話してると自分でもおかしくなりそうだもん。でも見て聞いたことを話そうとすると気が狂ったみたいな感じになっちゃうけど、とにかくそんな老人が現実にいたんだよ。でもその人を説明する言葉が見付からなくて、正直よくわかんない」
「じゃあ私が名前つけてやりますよ。『宇宙から来た変態オヤジX』とか?」
「スゴいネーミングセンスしてんな・・・」
「それじゃ・・・名状しがたい宇宙的性犯罪グランパ! 」
「性犯罪者かはともかく、誘拐監禁とかで間違い居なく犯罪者だろうけど、もっと別次元の超ヤバいヤツなんだってば。私とレイカはたまたま運良く脱出できたけど、他にたくさんさらったりいろいろやってるんだよ。帰ってこれない子達もたくさんいるみたいだし・・・」
「なんか現実より夢の中の先輩の方が怖いこと言いますねぇ・・・。でもそう言えば前に見たオカルト系ブログに、村山台駅周辺で昭和から平成に渡って多くの謎の失踪事件が!、みたいな記事が書かれてましたね。ほとんど未解決とか・・・」
「つまりどちらも当事者は忽然と姿を消すってことだね・・・。ちなみにそのスマホハックされて脱出ゲームっていう噂の顛末はどうなるの?」

「えーとぅ・・・たしか死の脱出ゲームって言われてて、ゲームに失敗したら死ぬんじゃなかったかな?」
「やっぱ死ぬんじゃん」
「嫌だなぁ〜夢の中でも先輩そんな超マジな顔して!そんな顔ばっかしてるとハートにカビ生えちゃいますよ。」
二人の本心は怖いのか、開いたまま待機状態のエレベーターの方を遠目で見ながらその場から動かず会話を続けていると、唐突に二人のスマホが鳴り始めた。それぞれ手に取って見ると、画面には新たなメッセージか何かが表示されたようだ。

「あっ!?」
「何これ・・・」
To be continued.
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登場人物紹介

芹沢ヨウコ。都立雛城高校二年生。実質なにも活動していない茶道部所属。紙の本が好きで勉強も得意だが興味のある事しかやる気が起きないニッチな性格のため成績はそこそこ。根はやさしいくリーダー気質だが何事もたししても基本さばさばしているため性格がきついと周りには思われがち。両親の影響のせいか懐疑派だが実はオカルトに詳しい。

唯々野マユカ。都立雛城高校一年生。性格は明るくルックスよき。故に男子生徒から人気がある。それを自覚した振る舞いの出来るしたたかな面もある。弓道部所属で、”赤い目の女”編と天国と地獄”編に出た水原レイカの部の後輩。適当に入った部なので、皆からそのうちやめるだろうと言われている。レイカつながりでヨウコと知り合い一部からバカ勇者と揶揄されるヨウコのズバズハ物を言う気の強さの反面さばさばした感じのギャップを感じ、変なあこがれを抱いている。

コタロー。村山台の若い地域猫。ナレーションができる猫である。

年老いた茶トラの猫。眼光鋭い強面の健在で未だに外猫のなかでも一目置かれた存在だ。猫丸の先輩的猫。

ヨウコの母。

水原レイカ。都立雛城高校二年生。芹沢ヨウコとは同級生で友人同士。弓道部所属して結構マジメにやっている。母子家庭で妹が一人いる。性格は温和で素直。そのせいか都市伝説はなんでも信じてしまう。ホラーは好きでも恐怖耐性はあまりない。

ドローン

スーパーコタロー。

”天国と地獄”編の老紳士が再登場。廃ビルの元オーナーだと自称しているがそれ以外は不明。

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