第5話

文字数 4,401文字

いつもより暗い夜だ。でも夜目の効く僕にはすぐにそこがわかった。村山台駅近くにある古い廃墟ビルディングの近くだった。いつもより暗いのは人工的な明かりがまったくついていないからだとすぐにわかった。それでいてなにかが焦げたような匂いが風に運ばれてくる。遠くには雲ではなく煙が上ってるような気がする。しかも複数。

たぶん何かとんでもないことが起きたのだ。でも少し前までヨウコの家に居たはずだったのに、突然ここに場所が移動したんだ。一体どういうわけだろう?っと思って僕がキョロキョロと辺りを見てるうちに、人の声が聞こえてきた。
「ヨウコ先輩!!」

それはヨウコの後輩、いや正確にはレイカの部活動の後輩で、レイカつながりで知り合ったヨウコに懐いてしまった一年年少のマユカだった。
「ここ何処?」
「先輩来てくれたんですね!」
「うん、レイカから連絡きて、あの噂の謎ゲーイベントがマユカに起こったみたいってさ・・・。で、ここは何処なの?」
「あれ見てください!」
マユカが指さした先のに廃墟ビルが建っていた。闇の中で縦置きテトリス棒のような長細い建物の輪郭が上に向かって伸びているのがわかった。するとビルの入り口付近が唐突に点灯した。電灯が付いたのか明るい光が玄関付近を照らしていた。
「え?電気がついた・・・」
「そうなんです!近づくと点くみたいなんですよ」
「ん?人感知センサーが付いたとか?・・・ってか廃墟なのになんでだ?」
「そうなんです!ここ村山台ぽいけどなんか違うんです。似てる別の世界線の村山台みたいな感じなんです」
マユカはヨウコに近づいてそういうと、身振りで周りを見るように促した。

廃墟ビルディングの周りには、現役で使われているオフィスビルや公共施設の建築物なんかも建ち並んでいるはずなのに、全部どこも電気が点いてないし、人の気配もまったくしない。おまけに猫や犬の気配も察知もない。
「にしてもさ、なんで周りが真っ暗わけ?街灯もまったくついてないよね・・・」
「そう言えば街灯もついてないですよね・・・もしかして大地震とか起きて停電したとかですかね?」
「いや地震って言っても、人はどっかに居そうなもんだよね」
「いや先輩!ってか地震どころの話じゃなくて、私ここに来て一回死んじゃったんです!!」
「あぁ?なに言っての?・・・変なことやめてよ」

「いやいやいやマジなんですって!これ見てください」
そう言ってマユカはポケットから自分のスマホを取り出してヨウコに見せた。そこにはあのうさわのゲーム画面らしきものが表示されていて、そのある箇所を指さした。
「ここ見てください!Mayuka×2になってるでしょ?最初はMayuka×3だったんです。でも私なんかが飛んできて爆発して死んでしまって2になっちゃったんですよ!」
「なにそれ・・・死んだってどういうこと?」
「ラジコンみたいのに私やられたんです!あれぇ・・・何ていいましたっけ?あの・・・いまウクライナの戦争とかで使われてるコントローラーで飛ばす小型ヘリコプターみたいなヤツ・・・」
「ドローン?」
「そうそう!それです!!」
「爆弾積んでる自爆ドローンてこと?」
「そう!そうなんです!突然目の前でドカーン!!!って」
「なに寝ぼけたこと言ってんの?ここは日本だよ」
「いやいやいや神に誓って本当なんです!」
「ちょっと最初っから話して。意味わかんないから」
「わかりました。先輩と別れた後にまっすく家帰ったんです。そして自分の部屋に入ったらスマホがおかしくなって、見たら先輩が言ってたあの脱出ゲームで!そして思い切ってその謎ゲーの誘いに乗ってイエスを押したんです。そしたら気づいた次の瞬間にはもうここに来ていたんです」
「それ私も同じだわ」
「やっぱり!来てくれると思いましたよ!さすがヨウコ先輩!」
「いいからその続きが問題でしょ」
「あっはい!そしてスマホを確認してみたら、ゲーム画面がトップページから変わってて、よくわからん英語メッセージが出てたんですけど〜たぶんBuildingって単語はわかったんで、たぶんビルに入れって言う意味だなってわかったんですけど〜怖いじゃないですかぁ?そんなん嫌だから帰ろうって思って、真っ暗だけど街の作りはわかるからたぶんこっちの方だなぁって離れたんです。そしたら50メートルくらい行ったら、突然スマホがブー!ブー!言い始めたんです」

「それあれだわ、以前レイカが遭ったやつと同じだ。早くイエスかノーか決めろみたいな気の短いブザー音が鳴ってた」

「やっぱり!それもこれもたぶん噂の現象ですよ!廃墟の中限定じゃなくて、村山台の何処かで、が発生条件なんですよ!」

「いや村山台はそうなんだけど、この廃墟ビルディングがなにかしら関わってると思うよ。人のスマホにこんなことやるヤツが居るとは思えないけどね」
「それって、お化けなんですかね?」

「いやそこまで確定できないけど・・・それでどうなったらドローンなの?」
「ああはい。それで英語でたしかWarnig!みたいな警告が鳴ってたんですけど、無視してそのまま帰ろうとしたんです。そしたら遠くからデカい蚊の音みたいのが聞こえてきて、暗いからよく見えないじゃないですか。音がデカくなってきて近づいてきたって思ったらもう、ドカーンと爆発して、私死んじゃったんです!」
「マジで?本当にドローンだったの?」
「よく見てないですけど間違いないです。ガチで戦争用のドローンです。一発で即死のやつです」
「でも今生きてんじゃん?」
「気づいたらここに戻ってました。だからMayuka×2に減ったんだと思います。それでもうここから怖くて動けなくなって、画質悪いレイカ先輩のアイコンが画面に出てて、押したらヘルプラインで繋がったんです」
「なるほどねぇ。つまり一人死んで残機が2になったてことか。てことは私のスマホにも・・・・」
ヨウコも自分のスマホをポケットから取り出して確認しようとして、その前に何かに気づいたようだ。
「私もさ、さっき自分の家に居たんだよね。それで部屋着でいたはずなのに、高校の制服に変わってる。ってことはたぶんここはもう現実とは違う別世界ってことだね」
「それってもしかしてこないだ言ってた話ですか?異次元とかレイカ先輩が、地獄の別世界線に落とされたとかそういう感じのヤバい体験談」

「うん。こことはちょっと感じが違うんだけどね。でも今起きてることは確かに、あの時会った自称オーナーの廃墟老人の件が関係している気がする。現実にそのことが干渉して何かおかしくなってしまったのかもれない」
「なんか先輩、異世界転生から生還した人のセリフみたいで受けるんですけど笑。ボケてるわけじゃないですよね?」
「いやいやボケる状況じゃないでしょ。別に信じなくていいけど、君だってもう今信じられない状態でしょ!?」
「いやいやすみません。ただ一応突っ込んだだけです」
「あっそう。でやっぱり私のスマホも残機表示あった。Youko×3になってる。死ぬとこれが減るわけだな・・・。で0になったらつまりゲームオーバーかな?」
「それ家に帰れないってことですか?」
「いやそれどころか」
「死ぬってこと?」
「リアルな死かどうかは分からないけど、余裕で帰れないよ」
「いやいやマジでそれ冗談にならないですって!私死にたくないですよ!まだ十六歳ですよ」
「私だから前に言ったでしょ。この件ガチでヤバいからやめなって」
「まあ確かにそうなんですけど、まさか本当にこんなこと起きるなんて・・・」
「ちょっと試しに私離れてみるよ。あんたはここで待ってて」
ヨウコはそう言うと、廃墟ビルディングからゆっくり離れる方向にゆっくりと歩き始めた。
「先輩嘘じゃないです!マジで死にますから!!やめたほうがいいって」
「いや確認するだけ。ちょっと待ってて」
そのまま数十メートルほど歩いて行くと、突然ヨウコのスマホに異変が生じて、例の大きなビープ音が繰り返し鳴り響く。
「確かになんか表示が出てる。You are getting out of the Safty Zone.つまり安全地帯から出るなって意味だね」
すると暗闇が集う空の遠くの方から、なにか羽音のような振動と共に不穏な音が聞こえてきた。それはまだかなり遠くある物音のはずなのに酷く不快な感じがする振動音だった。
「Booooooom・・・」
「あれだ・・・」
「ヤバいって!先輩!戻ってください!!」

ヨウコはすぐにダッシュしてマユカの近くまで戻ると、次第にドローンの音は接近をやめたのか小さくなっていった。
「ドゥオウウウウウッキュウーーーーーーン!!!!」
立て続けに言葉に出来ないほどの衝撃とともにものすごい振動が突き抜けた。姿は見えないが何かが上空で駆け抜けいったような、言い換えると巨大な音の塊が体全体を突き抜けていった感じだった。すさまじい衝撃を残して一瞬でそれは消えて行ってしまった。
「伏せて!!」
「あっ!!」

そのあと凄まじい轟音が響き渡り、村山台駅方向のさらにその向こう側、数キロメートルは離れた辺りと思える遠くの方に、オレンジ色の火柱とその後に大きな黒煙が上るのが見えた。いわゆるキノコ雲ってやつだ。


二人は頭を抱えて伏せる姿勢を取って、僕も近くの物陰に隠れた。空気の振動がやってしばらくすると突風と共に砂煙が立ち上った。

「エグ過ぎこれ洒落になんないね」
「いったいどうなってるんです!?」
「わかんないけど、もうビルの中に入るしか無いんだよ!誰なの知らんけど、とくかく私たちを自分のゲームで遊ばせたい誰がが居るんだろうね」
「それってやっぱりお化け的な?」

「いや霊的な存在なのか質の悪い人間なのかまだ断定出来ないよね」
「でもさっきまで一人でもうオワタって思ってたんで、先輩が居てくれるだけでもう勝ってる気がします!」
「知らんけど・・・まぁもう行くしか無いね」

「わかりました!いきまっしょ!!」
そしてヨウコの後にマユカが続く形で、二人は廃墟ビルディングに接近していった。行く手を阻んでいたフェンスはなく、近づくと玄関ライトを街灯が照らした。
「喜んでくれたのはいいけど、もう入ったらどうなるかわからないからね。集中していくよ!」
「ラジャ!!」
「なんかマユカって明るいね」
「だって暗くなったってなんも意味ないじゃないですか」
「まぁ確かに・・・よしっそれじゃ行こぞ!」
「もう死なないぞ!!」

二人はビルの玄関に近づいていった。ビルは確かにあの廃墟ビルディングだが、金網フェンスもベニア板のバリケードもなく、他に特に荒れた様子もない。ひさしの両側にライトがついていて内部にも明かりが照らしている。そこにはちゃんとしたガラス製の引き戸がついているが、ガギは掛けられておらずヨウコはそれを問題なく引き開けることが出来た。そして二人は中へと入っていった。


To be continued.

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登場人物紹介

芹沢ヨウコ。都立雛城高校二年生。実質なにも活動していない茶道部所属。紙の本が好きで勉強も得意だが興味のある事しかやる気が起きないニッチな性格のため成績はそこそこ。根はやさしいくリーダー気質だが何事もたししても基本さばさばしているため性格がきついと周りには思われがち。両親の影響のせいか懐疑派だが実はオカルトに詳しい。

唯々野マユカ。都立雛城高校一年生。性格は明るくルックスよき。故に男子生徒から人気がある。それを自覚した振る舞いの出来るしたたかな面もある。弓道部所属で、”赤い目の女”編と天国と地獄”編に出た水原レイカの部の後輩。適当に入った部なので、皆からそのうちやめるだろうと言われている。レイカつながりでヨウコと知り合い一部からバカ勇者と揶揄されるヨウコのズバズハ物を言う気の強さの反面さばさばした感じのギャップを感じ、変なあこがれを抱いている。

コタロー。村山台の若い地域猫。ナレーションができる猫である。

年老いた茶トラの猫。眼光鋭い強面の健在で未だに外猫のなかでも一目置かれた存在だ。猫丸の先輩的猫。

ヨウコの母。

水原レイカ。都立雛城高校二年生。芹沢ヨウコとは同級生で友人同士。弓道部所属して結構マジメにやっている。母子家庭で妹が一人いる。性格は温和で素直。そのせいか都市伝説はなんでも信じてしまう。ホラーは好きでも恐怖耐性はあまりない。

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