第5話
文字数 4,461文字
いつもより暗い夜だ。まさかというか、やはりと言うか、村山台駅近くにある古い廃墟ビルディングの近くだった。いつもより暗いのは人工的な明かりがまったくついていないからだ。それでいて何か焦げたような匂いがつぎつぎと風に運ばれてくる。遠くには灰色の煙がもくもく上がっているのが見える。しかも複数。
何かとんでもないことが起きたのだ。少し前までヨウコは自分の家に居たはずだったのに、スマホに何か異変が起きて次の瞬間ここに場所を移動したようだ。彼女はその遠くで上がる高い煙をみながら、自分に起きたことを再確認している様子だ。そんなとき別の声が聞こえてきた。
廃墟ビルディングの周りには、現役で使われているオフィスビルや公共施設の建築物なんかも建ち並んでいるはずなのに、全部どこも電気が点いてないし、人の気配もまったくしない。おまけに猫や犬の気配も察知もない。
そのあと凄まじい轟音が響き渡り、村山台駅方向のさらにその向こう側、数キロメートルは離れた辺りと思える遠くの方に、オレンジ色の火柱とその後に大きな黒煙が上るのが見えた。いわゆるキノコ雲ってやつだ。
二人は頭を抱えて伏せる姿勢を取って、僕も近くの物陰に隠れた。空気の振動がやってしばらくすると突風と共に砂煙が立ち上った。