第2話

文字数 4,148文字

ヨウコとマユカは目的の村山台駅近くにある廃墟ビルの前に来ていた。どんよりとした曇り空の下で、廃墟ビルはいつもより余計に地上へに濃い影を落としていて、不気味な雰囲気を醸していた。
「着いたよ」
「やっぱ真下から見ると廃墟って迫力ありますね!いちおう私、写真撮っておきますっ」
「で、どうするの?」
「まぁしばらく待ってみましょうよ。てか先輩は、その噂のゲーム画面ってどこで見たんですか?」
「このビルの三階か四階かな?その時はレイカと一緒に、別の噂が目的で五階に向かってたんだけどね…」
「それってあれじゃないですか?真夜中電気が通ってない廃墟なのに、ビルの最上階に二つの赤い光がまるで目のように見えるって言う噂?」

「うん、そんな話もあったね。でもそのときはさ幽霊じゃなんだ。幽霊よりも人間が怖いっていうか…いやちがうなぁ。話が複雑なんだよね。幽霊とも人怖とも違くて別次元の話なんだけど」

「別次元て?なんかヤバげのはわかるけどなんですかそれ?」
「いやだから文字通りなんだけど、別次元ってか異世界って言うか・・・」

「もしかして先輩それボケてます?」
「いや違うんだけど…普通に聞いたらそうだよね。えーとそれじゃ率直に言えばさぁ、異世界転生した爺さんが作った理想郷に私たちが知らぬ間に入ってたわけ。それでその爺さん気に入らなかったらしく、レイカは一人核戦争後の地獄のような世界に落とされちゃってさ。それで二人ともとりあえず元の世界には戻れたけど、レイカのメンタルズタボロにやられちまったって話よ」
「もしかして先輩ってけっこうイケずな性格ですか?」
「イケず?まぁ確かにそんな感じの言われ方するけどさ、そうじゃないんだよねぇ・・・。まぁやっぱりこの話は横に置いておいて、今回語るべきは本題でしょ。 でさっき君に見してもらった画面てのは、誰かのスマホに現れる異常な状態のイメージ画像ってことだよね?」
「そうです。あの画像はオカルト専門サイトのAramata.comに投稿されて、誰かが作ったイメージ画像です。XwiterとかFaceBootsとかのSNSを少し漁ればすぐに似たようなポストを見つけられますよ」
「ふむふむ。私が見たのはイメージ画像じゃなくて、この廃墟に居た時レイカのスマホに現れた現象だけど、あれたぶん本物だと思うんだよね」

「確かに可能性高そうですね。でもレイカ先輩と一緒に入ったって言っても、この廃墟って閉鎖されてて中に入れないんじゃないですか?」
「まぁそうだけど…このフェンス、あそこの金網破れてるし、玄関のベニヤもベコベコになってて実は簡単に入れるんだよね」
「やっぱ先輩そういうところブチ切れてますね。今どき見つかったら即通報されちゃいますって」
「き、きみド正論突いてくるねぇ・・・。いやぁ確か話を振ってきたのはレイカなんだけど、私のやる気に火が付いてそのままの勢いで入っちゃったみたいな感じだったかな・・・」
「先輩のそういうところ嫌いじゃないですよ。ただそのスマホの異常な画面って、詳しくはどんな感じだったんですか?」
「うんとね・・・たしかレイカのスマホが急にビービーなり始めて、なんだ?って感じで見たら、昭和とかの8bitレトロゲーって分かるかな?昔のファミコンとかのカクカクしたデカいドット絵のトップ画面が出てさ、その画面から何やっても元の普通のスマホ画面に戻れなくなったんだよね。再起動も出来ないし、最初ぱっと見、誰かがハッキングしたんじゃねぇか?って感じで、レイカのスマホを乗っ取られたと思ったんだけどね・・・」
「なるほど〜それ噂通りの状況みたいですね」
「うん。画面は英語だったんだけど、たしか「ようこそプレイヤーのみんな!」みたいな感じで、その後このゲームに参加するかどうかを聞いてきて、たぶん恐ろしい脱出ゲームに参加しないか?みたいな意味だったとおもう。それでレイカが『いいえ』をタップしてキックしたら、乗っ取り解除!っみたいな感じでスマホは元通り正常に戻ったんだよ」
「それレイカ先輩もヤバい引き持ってますね。それってかなり激レア確率だと思いますよ。でも断ったんですよね。ただもしもその時ゲームの誘いに乗っていたら、その後どうなってたんでしょうね?」

「あの時はやめた方がいいって言ったんだよ。この廃墟は冗談抜きのガチだから、余計なフラグ立てない方がいいと思ってさ。もしイエスにしてたら確かにどうなったんだろうね?でも君は今そのフラグを踏みたがってるわけでしょ?」

「いや先輩別に踏みたいわけじゃないんですけ、激ヤバとか言われると逆にあたし前のめりになっちゃいますって。今どきレイワの時代にそんなオカルトの粋を集めたような廃墟が解体されずに存在してるなんて、信じられないじゃないですか〜?しかもさぁこんなに近くの目立つところにあるなんて!にしてもなんでこのビル、こんな街なかに廃墟のまま長年放置されてるんですかね〜?」
「ああ・・・そりゃビルのオーナーのせいだわ。所有者が行方不明になって解体できない空き家があるって日本中の社会問題になってるとか聞かない?あれだよ!つうかさ、このビルのオーナーって本人に私会ってるんだわ。あの髭面のクソエロジジイ!つうかあいつ、結局どっかの知らない世界に行ったまま行方不明には変わりないしさ。ホント困ったもんだよ」

「なんですその髭面のオーナーって?てか先輩このビルの管理人を知ってるってことですか?マジで?なんか私よりよっぽど知ってますね。サスガです。完全に情報戦ビハインドだぁ・・・」

「いや別に私は調べたくもないし、知りたくもなかったっていうかね。もうね、あいつの顔二度と見たくないって。・・・って思い出したらなんか寒気してきたわ」

「とにかくわたしよか先輩たちのほうが、かなりヤバいライン攻めてたみたいですね。でも私は安全第一というか、廃墟とか汚いから入りたくないしここで眺めているだけでも十分です。しかもケーサツが来て、生活指導の際田とかの世話になったら最悪じゃないですかぁ」

「廃墟の中の話は忘れていいよ。ビルのオーナーがどうとか関係なくさ、この廃墟には何か得体のしれないヤバい存在がいるのは間違いないよ。それが得体のしれないものをいろいろ呼び込んで、厄介事を起こしてるんだと思う。君も遊びのつもりで舐めてるとあとで痛い目に遭うかもよ」
「あぁ…でもその話聞いちゃって、私の中の期待値のハードルはどんどん右肩上がりアガって行ってるんですけど」
「なんか意外だよ。君がそんなオカルト好きだとは思ってなかったわ」

「いやいや〜先輩にはカナいませんて。わたしは先輩の背中の後ろから覗きこんで、噂の怪現象が本当に起こるかどうか検証できればそれで満足ですから」

「なるほどそういうタイプなのね」

「先輩を信じて頼りにしてるんですよっ♪」
「勝手に頼られてもねぇ・・・」
てな感じで二人がおしゃべりしているうちに、刻々と時間は経過して太陽は傾いて日が影って行き、鉛色の空からちらほらと雨が降ってきた。
「雨降ってきたんだけど」
「なんか今日はダメみたいですね。もしかして霊も調子悪い日とかあるのかな?」
「まぁ幽霊かわかんないし、あんまり首突っ込まない方がいいっていう意味じゃない?てかさぁ廃墟の前でスマホに起こる怪現象をひたすら待ち続けるとか、ソッチの方がよっぽど怪しい人間だって。傘持って来てないしさ、もうそろそろ帰ろう」
「ところで先輩は彼氏いるんですか?」
「ん?なによそれ?・・・別にその質問必要ないでしょ」
「いやまたこんな感じで誘ってもいいのかなぁって思って。時間あるのかなぁって思って」

「つうか私たちってそんな仲良しってわけでもないでしょ?」
「いやそんな事言わないでくださいよぅ。もう知り合って結構たってるじゃないですか」
「いや・・・せいぜい4ヶ月くらいじゃない?」
「そんなイケずな事いわないで、この怪現象を最後まで確かめましょうよぅ!地域の安全安心のためにもなりますし」
「んーんまぁ・・・別にいいけど」
「やったー!!それじゃあたしは村山台スマホジャックの噂についてもっと調べておきます。そしたらまた誘いますね。次回までに何処がホットスポットかしっかりリサーチして絞り込んでおきますから♪」
「あんたもホント好きなんだね」
「それはお互い様じゃないですかぁ!先輩約束ですからね!!それじゃまた・・・私こっちの方向なんで」
といって右手を上げてニコッと笑うマユカは、道路をそのまま東方向へ向かって歩いていった。
「なんかあたし最いろいろと振り回されてるきがするなぁ・・・」
ヨウコはマユカの後ろ姿を見送りながらひとり呟いていた。
「ん?あれ?お前・・・」
歩道近くの緩衝地に佇んでいた僕に今更気づいたのか、ヨウコが近づいてきた。彼女と僕は互いよく知った関係と言ってもおかしくないだろう。なにせあの杖を手にした白髭の老人の作った狂気の理想郷から共に生還したのだから。
「何あんた、横辺りでよく見るけどもしかしてこの廃墟が住処なの?」
「ニャー」
「こんな場所ちょっと趣味悪って・・・いやでもお前にとってここは特別な場所なのかな?」

ん?特別ってにゃー特別なのかも?

僕は首を傾げた。

「あんたの宇宙猫みたいになってたよね。でもあの格好も会話する能力もあっちの世界だけみたいだね。てかさ、良ければウチにくる?」

「にゃ〜?」


どういう展開?

「ウチに来てみなよ。一応一戸建てだしね」

「にゃ〜♪」

「それじゃ行こうか。あんた飼い猫じゃないみたいだけど名前あんの?」

「にゃ〜?」


「そういえば名前あったっよね・・・。たしかコタローっていってたかな?一緒に帰ろうか?」

意志が半分伝わったのか分からないないけど、今日は特に何も起きないまま、穏やかな夜を迎えそうだ。そして僕としてもその誘いはやぶさかでもなく、ヨウコの家に行ってみたい気もした。彼女がいい人間だということは前回の廃ビルオーナー事件でよくわかっているから。


道路を東方向へ先ゆくヨウコは僕の方を振り返り、そのまま結局彼女について行くことにした。ちょうど街灯が点きはじめた道路を、一人と一匹が横並びに静かに雨が降るなか歩いて行くのだった。


To be continued.


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

芹沢ヨウコ。都立雛城高校二年生。実質なにも活動していない茶道部所属。紙の本が好きで勉強も得意だが興味のある事しかやる気が起きないニッチな性格のため成績はそこそこ。根はやさしいくリーダー気質だが何事もたししても基本さばさばしているため性格がきついと周りには思われがち。両親の影響のせいか懐疑派だが実はオカルトに詳しい。

唯々野マユカ。都立雛城高校一年生。性格は明るくルックスよき。故に男子生徒から人気がある。それを自覚した振る舞いの出来るしたたかな面もある。弓道部所属で、”赤い目の女”編と天国と地獄”編に出た水原レイカの部の後輩。適当に入った部なので、皆からそのうちやめるだろうと言われている。レイカつながりでヨウコと知り合い一部からバカ勇者と揶揄されるヨウコのズバズハ物を言う気の強さの反面さばさばした感じのギャップを感じ、変なあこがれを抱いている。

コタロー。村山台の若い地域猫。ナレーションができる猫である。

年老いた茶トラの猫。眼光鋭い強面の健在で未だに外猫のなかでも一目置かれた存在だ。猫丸の先輩的猫。

ヨウコの母。

水原レイカ。都立雛城高校二年生。芹沢ヨウコとは同級生で友人同士。弓道部所属して結構マジメにやっている。母子家庭で妹が一人いる。性格は温和で素直。そのせいか都市伝説はなんでも信じてしまう。ホラーは好きでも恐怖耐性はあまりない。

ドローン

スーパーコタロー。

”天国と地獄”編の老紳士が再登場。廃ビルの元オーナーだと自称しているがそれ以外は不明。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色