プロローグ

文字数 1,921文字

《永桜町(えいおうちょう)》という桜が枯れることなく、咲き続けている町がある。
何故何百年もの間桜が枯れることなく咲き続けているのか、詳しい理由は今でもよく分かってはいない。幼い頃はとある少女が起こした奇跡により枯れない桜がこの町に咲いたのだと母親には聞かされたが、幼い頃の俺には奇跡なんて話は難しくて理解することが出来ずにいた。
だが、そんなある日、俺はとある奇跡と出会ってしまった。
さて、この話を、一体どこから語り始めればいいものだろうか。
……ああ、そうだ。あの日から。あの話から始めるとしよう。
2017年1月1日。俺がとある奇跡(悪魔)と出会った日。
【半魔族(ディアー)】と名乗るルシファという少女と過ごした――一ヶ月間の話から始めようか。



「あー……退屈だぁぁぁぁああっ……!」
《永桜町》に建てられたとある一軒家(いっけんや)で、怠惰(たいだ)の声がこだまする。
俺の名前は桜葉(おうば)あずき。いわゆる普通の高校生だ。
ちなみに現在。俺はせっかくの正月だというのに一人でコタツに入り、侘(わび)しくみかんを食べつつ、読みかけの小説を黙読(もくどく)している。
今頃人が行きかう神社では家族やらカップルやら様々な人が集まって、初詣よろしくアホみたいに騒いでいるのだろうか。
あー、あほらし。それにしても、よくこんな寒い日に出かけようと思うな。
 こんな日はのんびり読書を決め込むのが、セオリーってもんだろう。
べ、別に羨ましいとかじゃないんだからねっ! 勘違いしないでよねっ⁉
「でも……やっぱり寂しいよなぁ」
小説を読んでいた俺の口から、ポツリと嘆きが零れ落ちる。
そりゃ、そうだ。何が悲しくて青春真っ盛りの高校生が正月に一人で読書をしなきゃいかんのだ。とは言っても誰からも初詣の誘いは来ないし。幼馴染は北海道に里帰りなうだし。バイトの後輩はパリに行ってるし。年賀状は0だし。
つまり、だーーーれも俺を遊びに誘ってくれないというわけだしっ!
何でだろう。みかんがしょっぱいなぁ。
「まあ……別に誘ってくれなくても構わないけどね。ええ、辛くないですけど」
立ち上がり、俺は立てかけてある鏡をじっくりと眺める。
鏡には黒色の髪を無造作(むぞうさ)に伸ばし灰色のスウェットを着た、身長もそんなに高くない男子が映っています。『髪が長い』とよくバカにされるんだが、昔から髪が伸びるのが異様に早いから仕方ないんです。いっそのこと、ポニーテールにでもしてしまおうかな。
クウ。
どうやら腹の虫も、俺の意見に賛成らしい。
「とりあえず……それについてはよしとして、昼飯でも食うか。三日連続カレーかよ……」
気だるげに立ち上がり、俺はリビングから台所へ足を運ぶ。
カレーは一日寝かせれば前日より美味しくなるとはよく言うが、流石に三日も続けば美味しくなろうがならなかろうが誰も食べたくはない。飽きるわ。
それならそんなにたくさん作らなければいいんじゃないの? という話なのだが俺は。

『こ、ここって桜葉あずきさんのご自宅ですよね?  あの……いきなり押しかけてすみません。私どうしてもあなたの作ったカレーが食べたくて、遥々(はるばる)種子島(たねがしま)から来ました!』

なんて流れを期待して、カレーを大量に作っておいたのである!
結局家に来たのは、宅配便のおっちゃんくらいだったけどな。
「俺の人生って……何なんだろーな。ほんと」
冷蔵庫の取っ手を握り、深く溜息(ためいき)を吐く。息は白く舞い上がり、目前を漂う。
俺のこれからの人生は一体、どうなっていくんだろう。
これからも孤独な毎日。平凡な日常が続いていくんだろうか。
漫画や小説の主人公ってのは本当に羨ましいよな。
必ず可愛い女の子が傍に居て、こんな退屈な人生とは無縁(むえん)なんだから。
あーあ。俺のところにも、可愛い女の子が現れないものだろうか。
神様お願いします。可愛いくて。巨乳で。優しい女の子を俺の目の前に連れて来てください!
……って、現れるわけもないか。アホな妄想は止めよう。空(むな)しくなる。
それにそんな妄想より現実問題が先だ。今日何をして一日を過ごすか考えよう。
どうせいつもと変わらない、退屈な一日なんだろうけど。
そうして俺は冷蔵庫を開けるべく取っ手を――引っ張った。
「……――あっ。こ、こんにちは。初めまして。あの、突然で申しわけないんですけど、腕を引っ張ってもらえないでしょうか? お尻が引っかかっ――ってちょっ! 閉めなっ――」
パタン。

何か居た。

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