第一話【ルシファとあずき】 

文字数 22,636文字

やあ、皆! 俺の名前は桜葉あずき! 至極(しごく)平凡(へいぼん)な一般(いっぱん)高校生(コウセー)さ!
え、最初に聞いた? うるせえ! 二回くらい聞いとけ! ばーーかっ!
年齢は十六歳で性別は花も恥じらう男の子! 好きなものはカステラと可愛い娘のおっぱいかな! 嫌いなものはお雑煮! 昔、餅を喉に詰まらしてから大っ嫌いなんだ!
趣味は読書で特技は家事(かじ)全般(ぜんぱん)! どうでもいいね! 好きなタイプは健気で巨乳な娘です!
そんな俺は現在、大変困った問題にぶつかっているぜ!
テンパりすぎて急に自己紹介を始めてしまったけど、スルーしてください!
え? ちなみにそれはどんな問題かって? よくぞ聞いてくれた!
「冷蔵庫に着物を着た女が隠れていた場合って、警察には何て伝えればいいんだろ……」
電話の受話器を手に持った俺は呆然(ぼうぜん)と。いや漠然(ばくぜん)と立ち尽くしていた。
当たり前である。どんなに屈強(くっきょう)なタフガイでも「昼飯を食うか」と冷蔵庫を開けて中に見知らぬ女が居れば、「ふぇぇええっ!」くらいは叫ぶはずだ。
そりゃ俺も女の子を連れて来てほしいとは言ったよ。でも、あの娘冷蔵庫に居たんだよ?
あんなのどんな温厚(おんこう)な奴でも「マジか。こいつ……」ってドン引きするわ。
「うわ、まだバンバン叩いてるんだけど。こっわ」
リビングから顔を覗かし、俺はガムテープでグルグル巻きにした冷蔵庫を見入(みい)る。
冷蔵庫からはホラー映画に出て来そう打音(だおん)が響いており、遅れて「さ、寒いんですけど! 凍死(とうし)しちゃいます! 開けてくださいよっ!」という懇願(こんがん)の叫びが聞こえてくる。
『投資(とうし)』という言葉を聞く限り新手(あらて)の詐欺なのかもしれない。怖いなぁ。
だが、考えていても解決はしないし、放っておくわけにもいかないので、俺はとりあえず冷蔵庫に平和的(へいわてき)交渉(こうしょう)を試(こころ)みた。このままお昼が食べられないのも辛いしな。
「おお、おいっ! お前は詐欺ですか! 泥棒ですか! それともおばけですか⁉」
はたから見れば変態と思われても仕方がない図だと思う。
「え、えっと私はどれでもないですけど! 寧(むし)ろ、今にもおばけになっちゃいそう何(なん)ですけど⁉」
答えになってない。死んでおばけになるのは構わないが、地縛(じばく)霊(れい)になられたら嫌だな。
「じ、じゃあお前は何者なんだよ! 冷蔵庫の精霊かっ!」
俺は冷蔵庫ににじり寄る。すると冷蔵庫からは、歯をカチカチと合わせたような声が聞こえ。
「わ、私はその……――そ、そうです! 冷蔵庫の精霊(せいれい)です!」
冷蔵庫の精霊だった。マジか。
次に俺は冷蔵庫に軽いノックを試みる。
とりあえずカレーの鍋を避難させたい。そんな想いを込めた、渾身(こんしん)のノック。
「あ、あのさ。お前の正体が分かったのは良いとして俺、お鍋出したいんだけどっ……」
ゴクッ。緊張して生唾(なまつば)を飲んじゃう。対応によっては、冷蔵庫を買い替えねばならない。
「……お前絶対に俺を襲ったりしない? 襲わないなら、開けてもいいけど」
「襲いません! 絶っ対襲いません! もう神に誓って! むしろトマトに誓いますっ!」
トマトに誓われても困る。
……まあ、本当に何もしないって言うんなら、開けてやるか。
「……分かった。なら、開けてやる。開けてやるけど、お前絶対に俺を襲うなよ? 襲ったら泣くからな? 最近の高校生なめんなよ? 恥じらいもプライドも全然無いからな? あ?」
情けないおどしを言いつけた俺は不安を押し殺し、冷蔵庫に巻いていたガムテープを剥ぎ取る。それから大きく深呼吸をし、扉を開放(かいほう)した。
「……あ、やっと開けてくれましたね。じゃあ、早速。腕を引っ張ってください」
「話しかけんな」
冷蔵庫の中にはバターやマヨネーズ。麦茶に卵。カレーの鍋と……。
チラッ。渋柿を食ったすぐのような表情を作り、俺は妖精をチラ見。
そりゃ興味があるか無いかで言うんなら、やっぱり俺も男の子じゃないですか。
「そ、そんなこと言わないで引っ張ってくださいよぉっ……」
嘆(なげ)きを歌う少女は何と言うか。うん。その。かなり可愛かった。それに巨乳だった。
銀色の柔(もう)髪(はつ)は腰に届く長さまであり、透き通るような蒼眼(そうがん)は見ているだけで胸を熱い気持ちにさせる。胸がでかい。また目の下で凛とした雰囲気を感じさせる泣きぼくろが妙に色っぽいな。そして極め付けにはハーフのような顔立ちとはアンバランスな着物姿がより一層、少女の秀麗(しゅうれい)さを際立たせていた。最後におっぱいが大きい。
結論を言うと、やっぱり俺はおっぱいが大好きです。
「たくっ……仕方ねーな。ほら」
俺が冷蔵庫の中に手を差し出すと、少女は上目づかいで俺を見上げてくる。
「い……いいんですか?」
「いつまでもそんなところに居たら冷たくて中々暖かくならないだろ? ほら、早く」
こんな可愛い娘に出会えるとは、神様が俺の悲惨な正月を見ていたのかもしれないな。
そしてプレゼントを与えてくれたのかもしれない。いや、季節的にお年玉か。
「ありがとう……ございます」
次(つ)いで差し出される、少女のほっそりとした白い手。
そうして俺は少女の白く清らかな手を絶対に掴まないよう横に避け、カレー入りの鍋を取ってから冷蔵庫を閉めた。
パターーン。
さてと。
「よーし。すぐに温めてやるからな」
「あ、ちょっとちょっとー。お飲み物取り忘れてますよー?」
「あっ、本当だ。悪いな。わざわざ教えてもらって」
「いえいえ。お構いなくです」
「おう。それじゃあ、またなー」
「はいはーいっ」
再度パタン。
「――いやいやいやいやっ! ちょっ、待ってくださいよ! パタンじゃないですよ! さりげなく閉めないで下さいっ‼」
冷蔵庫の扉が勢いよく開く。扉が全開になった原因を作った少女は目尻(めじり)を上げると、冷蔵庫から抜け出そうと必死にもがいていた。
めんどくさいなぁ。
「何だよ、もう。俺お腹減ってんだけど」
「いや、それは申しわけないですけど! さっきの流れであなたよく私をスルー出来ますね⁉」
「だって俺、鍋取るだけって言ったし」
「ぐぬぬ……。け、けどこんな健気(けなげ)な女の子が冷蔵庫に詰まっていたら普通『いっちょ、助けてやるか』って思うのが、健全な男の子ってものじゃないですかね?」
健気な女の子はまず冷蔵庫に詰まらねえよ。と怒鳴ってやりたかったが、俺は空腹ということもあり無視をしてカレーを温めることにした。換気扇を回し、コンロのスイッチを押す。
コンロの上では小さな火種(ひだね)が踊るように灯り――ビチャグチャビチ――だした。
俺は持っていた鍋を火の元へ設置。鍋をかき混ぜると、チキンカレー特有の食欲をそそる香りが台所中に広がっていくのが分かった。
そんな美味しそうなカレーを白米にかけ、俺はリビン――ビチュビチョグチビチョ――
「出したげるからやめて。お願いだから。マヨとかソースを床に溢すのはもうやめて」
というわけで俺は仕方がなく。そりゃもう不本意にだが。少女を冷蔵庫から引っ張り出してやった。マヨとソースで彩(いろど)られた床はもちろん本人に拭かした。
拝啓神様。俺の家の冷蔵庫から、居乳で可愛い女の子が現れました。
確かに願いは叶ったけど来年賽銭箱(さいせんばこ)に噛みかけのガム入れてやるから覚悟しとけよ。コラ。

「……で、結局お前は何者なわけ? 名前は? マジで冷蔵庫の精霊とか言わないよな」
時間は過ぎ去り、青い空にオレンジ色の絵の具が塗り始められる十六時頃。
問いかけられた少女は勝手にみかんを食べ始めているご様子。まるで自宅に居るかのような開放的(かいほうてき)な態度である。ここまで遠慮がない奴は、初めて見るかもしれない。
俺からの問いかけに少女は「違います」と首を振ると、指を子供のように咥(くわ)える。
「えっと、名前はルシファです。それより自己紹介の前に……あの、それ」
ルシファねえ……。最近流行りのDQNネームってやつか?
けど、最近は変な名前を付ける親も多いし普通なんだろうな。と納得した俺は次に、少女の視線の行き先を探(さぐ)る。
辿り着いた場所にあったのは、俺の食べかけのカレーだ。
ああ、なるほど。
「もしかしてお前、カレー食いたいの?」
「はい! 食べてみたいですっ!」
俺が口にした台詞に少女は文字通り、食いかかってきた。
俺自身こんな奴にカレーを食わせる気など微塵(みじん)も無かったが、手を勢いよく横に振り「流石に温泉卵は申し訳ないので! 生卵で我慢するんで! いや、本当気を遣わなくていいんで!」などと言われれば、カレーを嫌でも注がないわけにはいくまい。
多分、あの子の頭に遠慮って文字は無いんだと思う。
「ほら、カレー」
「生卵っ……」
俺はしぶしぶ盛り付けたカレーを机に置く。少女は生卵が乗っていないのがよほど辛かったのか、俺を涙目で見つめてくる。
俺は潤んだ瞳を見つめたまま生理的にムカついたので、傍にあった七味を目に振掛(ふりか)けてみた。
すごく痛そう。「目がぁぁですぅぅぅっ! 目がぁぁぁですぅぅぅっ!」って叫んでる。
それからよろよろと起き上がると少女はスプーンを握り、おもむろにカレーを食べ始めましたとさ。
うわぁ。お目目(めめ)真っ赤っか。
「んっ、もぐっ……はうっ……!」
……旨そうに食うなぁ。俺は食べ終えたカレー皿を机の端に寄せる。
そして立て肘をつき、食べ進める少女をジイッと観察していた。
見られていることに気付いていないのか、少女の食べ進める手は休むことを知らない。
ルシファ……だっけ。確か。こいつは一体何者なんだろう。もしかしたら物(もの)の怪(け)の類(たぐい)か?
正直な話。今更こいつに自分の正体が妖怪や幽霊だと言われても、俺は驚きはしないと思う。
そりゃ目玉が百個あって恐ろしい化物の姿をしているというのなら、俺も驚きはするさ。
でも、よく見てみろ。この少女の風貌(ふうぼう)を。どこからどう見ても化け物とは程遠い姿をしているじゃないか。服装は痛いけど顔も可愛いし、怖さなど微塵(みじん)も感じない。
なので、俺はどんな返答でも受け入れる自信があるわけだ。
「なぁっ」
机を叩き、俺はルシファの意識をこちらに向けさせる。
「飯食ってるとこ悪いんだけど、先に自己紹介してもらっていい?」
「あ、はふい。ろっとまっへくらはい」
ルシファが咀嚼しながら答える。「あ、ちょっと待ってください」かな。
「んっ、んっ……ぷはっ。いやぁ、そんなたいした者じゃないんですけどね? 実は私――」
ルシファはコップの水を飲み干すと、後頭部を撫でながら二へラと頬を緩ませる。
――さあ、来い。妖怪か? はたまたUMA(ユーマ)か? おっ? 実は天使だったりしちゃう?
どんな答えでもプロボクサーのようなテクニックで受け切ってや――
「――半魔族(ディア―)なんです。改めて名前から言いますね。私は魔界(グリモア)からやって来たルシファと申します。趣味は食べることとお昼寝。好きな食べ物はアイスクリームで嫌いなものは人参です。年齢は魔界だと百七八歳なんですけど……多分人間でいうと十五歳くらい。今欲しいものは人間界のお菓子で地上に来た目的はあなたを殺すために来ました。あっ! あと、好きなものにカレーが入りましたよ。すごく美味しかったです!」
――カウンタァァァアアッ! これは赤コーナーあずき選手! 躱しきれないぃぃぃいっ‼
ひょぇえぇぇぇぇぇぇぇえええええっっ!
いや、シャラップレフェリー。待て待て待て。ウエイト。
「――ちょ、ちょっと待ってね。今、言われたこと整理してるから」
「はいっ!」
「…………つ」
「つまり君はグリモアっていう魔界から来てアイスが好きで……人参が嫌いってこと?」
「まあ、大まかに言えばそうですね」
「な、なるほど」
「……え、えっと。ルシファちゃん。ちょっと質問いい? 学校はどこ通ってるの?」
「魔界には学校ってないんですよねぇ。悪魔の養成所みたいなのならあるんですけど」
「そ、そっか。そっか。じゃあ、年齢は?」
「百七十八歳です! あれ? さっきも言いませんでしたっけ?」
「うん、一応確認のためにな。で、地上に来た目的ってのは?」
「観光と食べ歩きとー……――あっ、でも一番の目的はあなたを殺すために来ました!」
「フフ、そっか。じゃあ、最後に一つだけいいか?」
「はい、どうぞ!」
「死ねよ、お前」
異様な物体から遠ざかるように、俺はゴキブリの如く後方に後ずさる。
ふざけんな。何を言ってんだこいつは。俺を殺しに来ただって?
だめだ、この娘。多分あれだ。いわゆる中二病ってやつ。絶対そう。だってさっきから背中から、カマみたいなのチラチラ見えてるもん。
思わず引き気味になる俺に、ルシファは猫みたいな歩き方でにじり寄ってくる。
「そ、そんなに逃げなくてもいいじゃないですか。今は何もしませんから。ね?」
「う、うるせえ! 近寄んな! 変質者っ! 警察呼ぶぞっ! いや、ほんとマジで来ないで⁉」
そんな俺の発言にムカついたのかルシファは顔を顰(しか)めると、鼻頭(びとう)寸前まで顔を近づけてきた。
拍子にたゆんと揺れる柔らかなおっぱい(物体)が服越しに押し付けられる。
お……おぉふ 。
そのおっぱい(物体)は俺の愚息(ぐそく)を奮い立たせようとするには、十分すぎる感触(かんしょく)を秘めていた。
あ、やばい。これマジでやばいやつだ。多分もう二秒も持たない。
「そんな言い方しなくてもいいじゃないですか。それに変質者って私あずきさんの身体に興味なんか……勘違いしないでくださいね?」
続いてルシファは俺の首元に指先をいやらしく滑らせると、舐(ねぶ)るかの如く唇に当てる。
STAND・UP! 愚息、ついに立ち上がる。それはもう一輪の花が如く。
下半身に手を当て、俺は接触を避ける。まるで腫物(はれもの)を扱うかのように優しくだ。
「わ、分かった! 変質者じゃないのは分かったから! 一回どいてください! 頼むからっ!」
「むっ、ほんとですか? まあ、分かってくれたのならいいんですよ」
そう言うと満足したのか、ルシファはコタツに戻ってくれた。
俺はというとパンツを履き替えるためにシファに断りを入れ、洗面所で下着を替えていた。
早打ちガンマンの異名を持つ俺は情けなくなり、ちょっとだけ泣いてしまった。
「悪い。遅くなった。……ってずいぶん馴染んでるね。お前」
「あ、おかえりなさい。この漫画って本面白いですねぇ。すっかりハマっちゃいましたよ」
リビングに戻るとルシファは漫画を片手に持ち、コタツに寝転んでミカンを食べつつ、開封していないはずのカルピスをゴクゴクしていた。蹴っていい?
「はあ……。なあ、漫画は後で読んでいいから、一旦こっち向け」
俺は読んでいた漫画を無理やり取り上げる。ルシファはブツブツと文句を言いつつ正座の体制(たいせい)になったが、文句を言いたいのは俺の方だっつの。
さて、とりあえず何から聞けばいいものかね。
「まず……お前は何で俺の家の冷蔵庫に詰まってたんだ? お前が化け物だっていうのなら普通、空とかブラックホールみたいな場所から登場するもんじゃないの?」
「そういう方法もあったんですけど。私が買った転送器具(てんそうきぐ)は一番の安物でしたから、どこに到着するか予想がつかないんです。だから、あずきさんの家の冷蔵庫に詰まってたんですよ。……あと、私化け物じゃないんですけど」
 転送器具にもツッコみたかったけど、説明聞くのが面倒くさそうだったのでやめた。
「――化け物じゃない? だってお前さっき自分で言ってたじゃん。『ディアーです』って。それって化け物みたいなもんなんだろ?」
「違います。違います。化け物じゃなくて半魔族(ディア―)です。“半・魔・族(ディアー)”」
 ――半魔族(ディア―)。何というか、ものすごく中二病臭がする名前だな。
「……死神の親戚か何かか? お前の言うその半魔族(ディア―)って」
だるそうに俺が尋ねると、ルシファはマドラーを使いカルピスを荒く混ぜ始めた。
唇を突き出しているのを見る限り、どうやら怒らせてしまったらしい。
「し、親戚なわけないじゃないですかっ! 私を死神なんかと、一緒にしないでくださいっ‼」
バンッ! ルシファが机を猛打(もうだ)してキレる。反動で残りのカルピスに波紋が広がる。
「お、おう。そんなに嫌なのか。一緒にされるの」
「それはもう、とても嫌です」と言うと、ルシファの怒りはなおも強くなっていく。
「だって死神はカマで人間の魂どころか肉体まで切っちゃうんですよ? 最低じゃないですか。暴力は駄目ですよ。そんな卑劣(ひれつ)な行為を行うなんて、魔族の風上にもおけません」
「……それに」
噛むこと無く淡々と喋り続けていたルシファが突如口ごもる。最初の猛攻(もうこう)に比べルシファの表情が沈鬱になっているように感じるのは、俺の気のせいなんだろうか。
それから寸刻が立ち。「まあ、これはいいです」とルシファが目を細めると。
「というわけで私は死神が嫌いなんです。だから、一緒にされたくはないんですよ」
と言う。確かにこれだけ嫌々説明されれば、一緒にされるのは嫌って気にもなるけど……。
「でも、お前だってカマ持ってるじゃん。後ろの白いやつ、それカマだろ?」
俺はルシファの背中から顔を覗かせる白いカマを指差す。ルシファはカマを取り出すと「これ。全然危なくないんですよ」と言い、刃先を俺に近づけてくる。
危ねえ。
「これは〈白銀のカマ(ヴェル・サイス)〉と言いまして、刃が羽毛並の強度しか無いんです。もちろん固くもなりますけどね。それに人間に見えないよう透明化することも可能なんですよ。ですから危険もないし痛みもなく、簡単に生き物の魂だけを刈りとれるっていうわけなんです。ね、すごいでしょ」
「いや、お前のカマも十分たち悪いわ……」
的確にツッコみを入れた俺は呆れたように項垂(うなだ)れる。
それから時計に目をやると、短針はいつの間にか5時の方向を指していた。
そろそろ買い物に行かなくちゃヤバいな。鳥肉のタイムセールが終わっちまう。
こいつの話については……スーパーに行く途中にでも聞けばいいか。
「おい。ディアー。――お前には他にも色々聞きたいことはあるけど、そろそろ買い物に行く時間だから、とりあえずお前も買い物に着いてこい」
「え、お買い物ですか? 何買うんです? アイスクリームですか? チョコですか?」
「晩飯の食材だよ。服着替えてくるから、ちょっと外で待ってろ」
ちなみにルシファに留守番をさせておくという案は俺の頭の中には無い。理由? じゃあ、君は半魔族(ディア―)とかいう刃物を持った女を家に放っておける? そういうことだよ。
自室に向かいスウェットから私服に着替え、俺は一階へ続く階段を降りていく。
でも……ほんとのほんとに何者なんだろう。あいつは。
『半魔族(ディア―)です』とは言ってたけど。まずディアーって何だよ。死神とは一緒にしてほしくないって言ってたけど、死神だってお前と一緒にしてほしくはないだろ。
それによく考えたらあいつの自己紹介で分かったことだってグリモアっていう魔界から来たこと。年齢と好物。趣味。最後にカマの刃先が柔らかいってことくらいだし。
心中で文句を愚痴りつつ、俺は玄関のドアノブを捻ろうとした。
――その時。ピタリと俺の手腕が止まる。
……でも、ちょっと待てよ。
何だかんだ言ってもあいつは一応ディアーとかいう悪魔? なんだよな。
それに出かけてから聞こうと思っていた『あなたを殺しに来ました』なんて台詞も、ルシファが人間じゃないのなら本当に殺しに来たっていう可能性も考えられる。
最初は冗談かと思いスルーしていたが、よくよく考えればそれが本気なら……。
え、アイツ実は結構ヤバい奴なんじゃないの?
手が徐々に汗ばんでいき、ドアノブがぬるぬる滑りだす。ローションでも分泌されてんのか。
どうしよう。開けたくない。お腹痛い。手汗やばい。お外出たくない。
「でも、放っていたらあいつ何するか分かんないし……」
 とても嫌な予感が俺の脳裏を過りだす。銃刀法違反で逮捕? それとも万引き? もしかしたら暴行か殺人罪かな? フフフ。どうしよう。笑い事じゃない。
「頼むから公然(こうぜん)猥褻(わいせつ)罪(ざい)くらいで留まっておいてくれよ……」
俺は覚悟を決めた。別に放っておけばいい話なのだが仮にルシファがもし誰かを傷つけたりして半魔族(ディア―)の責任=俺という理由で裁判を起こされてみたとする。
さあ、問題だ! 俺はどうなる?
A捕まる  Bとりあえず留置場(りゅうちじょう) C何だかんだ死刑。
「――そんなの嫌っ! キスもしないまま捕まるのは嫌ぁっ‼」
焦った俺はドアノブを掴み、勢いよく扉をこじ開けた。それはもうドアノブが取れそうなくらい勢いよく。
そして、そんな俺の目前に映ったものは――
「――ワンワンッ! ウーッ……! バウッ!」
「ひっく……ひぐっ……ほんとも……勘弁してくださ……ほんと……ここから降ろしてください……――あっ。あずきさん助けてっ! 犬を! 犬をあちらに逃がしてくださいっ‼」
「一生そこから降りてくんな」
犬に囲まれ塀(へい)から降りられなくなっているルシファを無視し、俺は颯爽(さっそう)とスーパーへ続く街路(がいろ)を進んでいく。心配をして損をしたとは、正にこの事である。
俺の純情を返せ。

☸☸☸

「ううっ……あの犬達酷いです……寄ってたかってこんな美少女を弄(もてあそ)んだりして……」
「自分で美少女って言うなよ……」
スーパーの袋を片手に持つ俺と、棒付きキャンディを握ったルシファ。
淡い青とオレンジの重なる冬空を背に手を繋ぎ(ルシファに無理やり繋がれた)、俺達は我が家へと続く帰路を急いでいた。一月ともなればやはり寒いな。と少し肩を震わせる。
「でも、美味しいですね。地上のお菓子って。グリモア(魔界)のお菓子って変な味のするお菓子が多いですから嫌いなんですよ。私の舌にグリモア(魔界)の食べ物は合わないんですかねぇ」
「そりゃ、ようござんした」
ルシファは微笑むと、ご満悦(まんえつ)という表情でイチゴ味のキャンディを舐め続けていた。
言うまでもないと思うが、この菓子は奢らされた物である。
ちなみに今食べているのは七本目だ。糖尿病になって死ねばいいのに。
「あー、なんで手を放すんですか。もう、照れちゃって」
「やかましい。……ていうかお前、どうやって犬から逃げ出してきたんだ?」
突拍子もなく尋ねると、ルシファは肩に掛けていたポーチをポンポンと叩く。
「ポーチに入れてあったお菓子を遠くに投げて、その隙に逃げましたよ」
「ポーチ?」
疑問気に頬を掻く。すると、ルシファは持っていたポーチを見せつけてきた。
ポーチには取り外し可能な肩紐が取り付けられており、如何(いか)にも安物っぽい出来だ。
「はい! これは〈異次元のポーチ(デイ・ポーチ)〉と言いまして、このポーチの中には私の持ってきた家具やお菓子が入っているんです。中は広いので大きい物から小さい物まで、何でも入りますよ」
「へえ。そんなのが魔界ではあるんだな。便利なこった」
俺はどうでもよさそうに相槌をうつ。ルシファは頬を緩ませると、スキップをしながら白い歯を控えめに見せつけてきていた。
こうして見れば、ただの可愛い女の子なんだけどなぁ。
だが、次の瞬間。そんな俺の考えは、一瞬にして消え失せることになる。
「――なので。あずきさんに家具を貸してもらわなくても大丈夫なので、安心してくださいね」
「あー、そう。それは安し――……ん?」
俺は眉間に皺をめちゃくちゃ寄せた。多分、今俺すっごい顔になってる気がする。
――今こいつは何と言った? 俺に『家具を貸してもらわなくても大丈夫』と言ったのか? 
もちろん俺は元から貸すつもりは無い。というより、こいつはそもそもどこに住む気なんだろう。
 ……まさか俺の家に住む気じゃないよな? いや、ない。流石にそれはないな。うん。
「ちょ、ちょっと聞きたいんだけどさ。ルシファ。お前って今日どこに泊まる気なの?」
「はい?」
はい? じゃねえ。耳たぶ掻(か)き毟(むし)るぞ。
「も、もう単刀直入に聞くけどさ。まさかお前、今日俺の家に泊まる気じゃないよな?」
如何にも嫌そうな俺の声色に対し、ルシファは両手を左右に振り続ける。
ホッ。そうだよな。ビビらせんなよ。
でも、安心したのも束(つか)の間だった。
「――そんなわけないじゃないですか! 明日も明後日もあずきさんを殺すまでの間、ずっとですよ! あ、もしかして家具は共有で使いたいとかですか?」
「ソウイウモンダイジャネエヨッ!」
思わずカタコトになる俺。
「じ、じゃあ。お風呂は一緒に入らなきゃ嫌とかですか? それは恥ずかしいですよっ……」
「ソウイウモンダイデモナイヨッ⁉」
でも、ちょっとだけ「残念だなぁ」と思う俺。
「――いや、おかしいだろ! 何で俺がお前みたいな変な女を家に住ませなくちゃいけないんだよ! しかも人間ならまだしも、お前一応悪魔みたいなもんなんだろっ⁉」
年甲斐(としがい)もなく荒々しい口調でルシファに文句を言い募(つの)る。困った表情を浮かべたルシファは続けさまに、邪論を如何にも正論のように押しつけてくる。
「わ、私はあずきさんを殺さなくちゃいけない立場ですから、もし知らぬ間に事故にでも遭われたら困るんです! だから、一緒に住むのが効率がいいんですよっ‼」
「――そんなもん知るか! それに普通は家に住ましてくれた相手を殺そうとしないからね、普通の女の子は! あとアメ食い過ぎなんだよ、少しは遠慮しろや! それと……その……あれだっ! そう! 今日一番の疑問‼」
「何で俺、殺されなくちゃいけないの⁉」
怒涛(どとう)の如く。とは正に今の俺のことだろう。
突っ込みのマシンガンを乱射し終えた俺は大きく息をつく。久しぶりにこんなに叫んだ気がする。そんな俺を気遣ってくれたのかルシファは人差し指を立てながら「休憩のために公園のベンチに座りましょう」と俺の腕を引っ張り始――答えろや。無視すんな。
それから何だかんだ言いくるめられた俺は、近くにある《日の出公園》のベンチに腰を下ろすことにした。
ルシファはというと自販機で飲み物を買っているようで、歩きながらペットボトルと見覚えのある財布を俺に投げ渡してくる。
いや、何で俺の財布持ってんの?
「……ふう。それで、だ。ルシファ。何で俺がお前に殺されなくちゃけないんだよ」
お茶を飲み落ち着きを取り戻した俺は、ルシファに俺を殺そうとする理由を問いただす。
ルシファは「まあ、慌てんねいです」と江戸っ子風に言うと、ポーチを探っていた。
また、ポーチの中はとてつもなく広いのだろうか。何かを探すのに、えらく手間取っている様子だ。だってかれこれ十五分くらい経ってるもん。どんだけ広いんだよ。
俺は堪えていた我慢の紐(ひも)を断ち切り、思い切ってポーチの中身を尋ねることにした。
「……そのポーチの中ってさ。具体的に何が入ってんの? むしろ中身ブラックホールなの?」
聞くと、ルシファは顎に指を当て、目線を斜めに寄せる。それから指を折り始め。
「えっと。ヴェル・サイスとまくらと布団とアメとリボンとおにぎりとそれと――」
「ごめん。もういい」
それから二十分が経過した頃。ルシファは米塗れの巻物をポーチから取り出し「いやぁ、たまにはポーチの中身も整理した方がいいですねぇ」などと余裕(よゆう)気(げ)にほざいていた。
正直お前の頭の中を整理した方がいいんじゃないか? と俺は思う。
「そんな古い巻物がどうしたんだよ。それより、早く俺を殺そうとする理由を説明しろ」
「まあ、待ってください。これはですね。私の家の蔵から出て来た由緒(ゆいしょ)しき巻物なんですよ」
米塗れのな。しかも、聞くところによると、この巻物はルシファの住んでいる家の倉庫深くに偶然埋もれていたらしいのだ。全然由緒正しくない。
「だから、そんな巻物がどうし――」  
と、更に突っ込みを入れようとした俺の手が、ピタリと止められる。
だが、それはルシファに掴まれたからでも、また自分の意志で止めたわけでもない。
ただ、あえて言葉にするとしたらそれは――『恐怖への直観』とでも言うのだろうか。
「そして、この巻物には……あずきさんが知りたがっている、“理由”が書かれています」
ルシファがそう言葉を発した刹那――俺達の周囲を不穏(ふおん)な空気が包み込む。
ルシファの表情は先程とは打って変わって、真剣な形相(ぎょうそう)になっていた。
逸らさぬよう。見逃さないよう。ルシファは俺の眼(め)を真っ直ぐに凝視し続ける。
気を抜けば吸い込まれそうなほどの蒼く、冷めた瞳で。
俺はルシファの眼光に蹴落(けお)とされ視線を逸らし、乾きをおびた喉に唾(つば)を通す。
俺は不安を。いや、怯えを隠せずにいた。
しかし、このまま何も聞かずに黙っているわけにもいかない。
俺は怯えを振り払い、再度逸らしていた視線をルシファに戻す。
「……その巻物には、何て書いてあるんだよ」
「……それはですね」
続けて沈黙の霧が俺達を包み込む。そして十秒。いや二十秒は立った頃だろうか。
ルシファからの返答は途絶えたままだ。そして、ただ時間だけがいたずらに過ぎていく。
何だよ。そんなヤバい理由なのか……? 俺がパンデミックウイルスの根源とか……。
そうして公園に設置してある時計の針が五時を指すと同時に、ルシファの赤い唇が呼応するかのよう動いた。聞き逃さないよう。俺は必死にルシファの言葉に耳を傾ける。
そんな俺の耳に届いた言葉。それは、あまりにも理不尽かつ衝撃的なものであった。

「『2017年1月31日までに桜葉あずきが命を絶たねば、人類は全員滅ぶ事になる』です」

「――ごめん。もう一回言って」
「今年の1月31日までにあずきさんが死ななくちゃ、人類は滅亡しちゃうんですよ」
「ワンモア」
「だから、あずきさんが死ななくちゃ人間は全員死ぬって書いてあるんです! 何回も何回も言わせて、ふざけないでください‼」
「いや、お前がふざけんなよっ⁉」
けたたましい怒鳴り声にビビったのか、傍にいたハトが飛んだ。
 俺はあまりに理不尽な衝撃的事実に混乱し、よく公園で見かける馬の形をしたブンブンするやつに勢いよく飛び乗る。頭中ではカニ味噌とツナが戦争を始めるという暴動(ぼうどう)までもが勃発(ぼっぱつ)し初めていた。わけがわからん。ブンブンブンブンブンッ!
「あずきさん、ダメですよー。その遊具、子供しか乗っちゃダメって書いてありますよ」
「うるせえ! 俺は絶対にここから動かない! テコでも核ミサイルでも動かないのっ‼」
けど、後ろに並んでいた子供に「変わって」と言われたので、退いてあげた。
「――いや、意味分かんねえ! なんで俺が死ななきゃ人類が滅びるんだよ、理不尽すぎるわ‼」
自分で言うのもなんだけど、至極ごもっともな台詞だと思うの。
「そんなこと私に言われても……これは私の祖父が決めたことですからねぇ」
ルシファは足を組みキャンディの棒を咥え、煙草を吸う真似をしていた。
俺はルシファの人中(鼻の下の窪み)にデコピンを食らわしてから、巻物を奪い取る。
「ほ、他には何か書いてないのかよっ……!」
【其方(そなた)が命の消失を選んだ場合はいつか生まれてくるだろう私の孫に死の契約をするように向かわせる。その際には茶菓子くらいは持たせようと思う。遠慮せずに受け取ってほしい】
――喧嘩売ってんのか。
「ごめんなさい。お茶菓子にロールケーキ買ってたんですけど、来る途中お腹すいちゃって全部食べちゃいました……」
――お前はさっさと魔界に帰れ。
「あー……なんだっつうんだよ。ちくしょう」
グッタリとベンチに座り込んだ俺は膝を抱えこむ。この事実がインコや猿。また人間に言われたのならドッキリか嘘だろうな。と疑うし。俺も信じない。
だが、こいつはこう見えて、一応悪魔みたいなものなんだ。
俺が死ななければ人類が滅亡するという話も、あながち嘘ではないんだろう。
膝の合間に首がどんどん沈んでいく。だって俺まだ彼女も出来たことないし。キスだってしたことないのに……。あれ、どうしたのかな。目頭(めがしら)が熱いぞ?
すりすりすり。ルシファはそんな俺の背中を、優しくさすってくれた。
「元気出してください。あずきさん。泣かないで」
「ひっく……えぐ……ありがど……。でも、おばえのぜいだけどな……?」
「――そ、それよりこんなことも書いてありますよ? 『その代わり其方が命の消失を選び契約をした場合には願いを一つ叶える事が可能。しかも今なら契約を結ばずとも、一つだけ願いを叶えるサービスもつけよう』って」
「じゃあ、ぞのザービスで俺が死ななぐでも人類が滅びないようにじてくれよ……」
「【※ただし人類滅亡の回避。また命の消失の取り消しは不可能】ですって」
「ひぎいぃぃぃぃぃいっ‼」
俺は泣いた。巻物を読みながら、ルシファはひらひらと袖を揺らしていた。
それからルシファは眉をつり上げると、自信満々に豊満(ほうまん)な胸に手を当てる。
「でも、安心してください。私が絶対に痛みを感じないよう、あずきさんを殺してみせますから……まっ、痛みがあったとしてもちょっとチクッとするくらいですよ」
そんな注射みたいな。
ルシファは着物の袖で俺の涙を拭い、首を傾げると。
「それにあずきさんがそんなに死にたくないのでしたら、契約を結ばなければいいじゃないですか。そうすればあずきさんは私に殺されなくて済みますよ?」
「……え? そういうのありなの?」
「だって、ほら、巻物にも書いてありますし」
先に言えよ。舌打ちをしながら、俺はルシファの手元にある巻物を覗き込む。
巻物には【死の契約を結ぶか結ばないかは本人の自由】と綴(つづ)られていた。
俺は嬉しさのあまり「パオチー! パオチー!」と狂ったようにコサックを踊り始める。けど、案外疲れるので途中で止めた。満面の笑みで、俺はルシファに語りかける。
「よっし‼ それじゃあ契約さえしなければ、俺の命は助かるんだな?」
「はい。もう余裕で今は生きられますよ。ということは、契約は破棄でいいですか?」
あったり前よ! 俺がガッツポーズをすると、ルシファは残念そうに下駄をフラフラと揺らしていた。
ハッハッハ、ドンマイドンマイ。
「おう。いいぞいいぞ。いやー、ほんと助かった」
俺は胸をホッと撫で下ろす。まるでそよ風にたゆたう花達が笑顔で語りかけてくるかのような軽やかな高揚感(こうようかん)だ。こんなに嬉しいのは、階段でパンツ(紫)が見えた時以来だな。
じゃあ、さっそく。こいつを警察にでも連れて行って、家で読書の続きでもしま――
「ただしあずきさんが死ななかった場合は一か月後には人類は全員滅びますので結局あずきさんも死んじゃいますけど、それでも構いませんか?」
――酢飯(すめし)。
そうだ、忘れてた。結局は俺が死ななければ、人類は滅びてしまうんじゃん。
俺はもう叫ぶのにも泣くことにも疲れ、何も言わずベンチから立ち上がる。
杭(くい)に掛けてある袋を荒々しく握ると、ルシファを放ってトボトボと歩きだした。
ルシファはと言うとそんな俺の気持ちなど知ったこっちゃない。と言わんばかりのテンションで後方から追いかけてきた後(のち)に、俺に契約の催促(さいそく)をせがんできやがった。
「あずきさん。契約しましょうよー。契約したら大半の願いは叶えられるんですよー? あ、ほら『アイスクリームを二百個食べたい!』とかいいんじゃないですかね」
そんな願いを喜ぶのはお前くらいだ。手の平で顔を覆い、俺は大きく溜息を吐く。
『無い……無いからお願いだから。ちょっと黙ってろ……』
「はーい」
「……」 
「……ああ、マジでどうしよう」
「……」
「学校にも説明した方がいいのか……?」
「……あの、あずきさん。そろそろいいですか?」
「何がだよっ……」
「いや『喋るな』って願われましたから」 
「ああ。もういいよ。別に喋っても」
「分かりました。――これでサービスは終了です。残りの願いは契約を結べば叶えられますね」
「……ルシファってよく見たら可愛いよな」
「そ、そうですか? いやぁ、自信はあったんですけど、やっぱりあずきさんもそう思います? ――これでサービスは終了です。残りの願いは契約を結べば叶えられますね」
「思う思う。よく見たらモデルにも居そうだし。よっ、百花(ひゃっか)繚乱(りょうらん)。八方(はっぽう)美人(びじん)。美人(びじん)薄命(はくめい)」
「もう、照れるからやめてくださいよ。――これでサービスは終了です。残りの願いは――」
「――しっつけえんだよぉおっ! てめぇの口は壊れたラジオかっ⁉ じゃんがばたああぁぁぁぁぁぁぁぁああっっ…………!」
「………あ?」
頭皮を掻き毟りながら買い物袋を振り回し、狂ったように俺は駆け出す。
気合いと勢いだけなら特急列車並だろう。
そして曲がり角を地が爆(は)ぜるような勢いで踏み曲がろうとしたその時――俺は動かしていた足先を、不意に踏み止める。
「……何だ。あの煙」
それは――ある異変に気付いたからだ。
いつもと何ら変わらない永桜町の上空に漂う、薄黒い色をした煙。
燻(くん)煙(えん)は空を飛翔(ひしょう)するように蠢(うごめ)くと、煙本来の姿を刻一刻(こくいっこく)と変えていく。
遅れて悪臭が鼻の奥にささり、俺の頬を一滴の滴が伝っていった。
数回咳き込んでから俺はルシファの立つ場所に首を少しだけ捻る。ルシファが自身の赤くなった目を擦り遠くを眺めているのを見る限り、どうやらあの燻は俺だけの見間違いというわけでもなさそうだ。出来ることなら、見間違いであってほしかったが。
――誰かが外で何かを焼いているのか? いや、そうだとしても、煙の量が大きすぎる。
――なら、ゴミや落ち葉の焼却(しょうきゃく)? まさか。この近辺(きんぺん)ではゴミの焼却を自宅や畑でするのは禁止されているはず。
じゃあ、何だ。――違う。答えは分かっている。けど、でも――
「……? あずきさん、どこ行くんですか。待ってください。私も行きますよ」
「……うっせえ。着いてくんな」
気がつくと俺は燻煙が立ちこもる場所を目指し、歩き出していた。
ルシファはそれ以上何も言わず黙り込むと、後ろから着いてくる。
俺が今あの場所に向かったとして何も出来ないし、誰かの役に立てるというわけでもないんだろう。けれど、このまま見て見ぬフリをして放っておいた方が余程後味が悪い。
ただ、そう思っただけだ。

☸☸☸

「冗談……だろ」
業火(ごうか)という言葉がある。煙立つ炎場(えんじょう)でいの一番に写ったものは、正にそれだった。
燃え盛る炎(ほのお)が崩れた煤(すす)木(き)に絡みつき、踊るようにうねりを上げる。
パチパチと跳ねる火の粉はとうに暮れてしまった夜空と、染まるように混ざりあう。
目前に群がるヤジウマの中には携帯で写真を撮る者や興奮をしてはしゃぐ者など様々な人物がおり、彼らは何をするわけでもなくただ傍観者(ぼうかんしゃ)としてあり続けるだけであった。
その様は正に暗闇の街灯(がいとう)に群がる無数の害虫――とでも言い表せばいいのだろうか。
ヤジウマの最後(さいこう)尾(び)から背伸びをし、俺は炎に覆われた家屋(かおく)を見受ける。
入り口周辺では母親らしき人物が地を這いずり、しゃがれた声で叫声(きょうせい)を上げていた。
二人の男性は彼女の進行を食い止めるため、必死に女性を抑えつけている。
また、ここから確認することは不可能だが声の出所(でどころ)を察するに子供が一人。二階のどこかに閉じ込められているんだろう。
「ママ……ママァッ……!」
叫び声にも似た、希望を求める尊(とうと)い発声(はっせい)。
家屋(かおく)を包み込んでいた炎は先程より進行を早めていた。このまま放っておけばこの家は燃え盛る業火(ごうか)に耐え切れず、二十分と持たず崩れ落ちるだろう。
だが俺は周りの傍観者に紛れ、同じく傍観者になりすまし、ただ悲惨な惨劇(さんげき)を眺めることしか出来ずにいた。
最低なのは分かってる。けど、こんな取り得もない俺に、一体何が出来るというんだろう。
「あずきさん。これって俗(ぞく)にいう、火事ってやつですよね」
先程と何ら変わらない態度をしたルシファが炎場(えんじょう)を見上げながら、突如呟く。
ちょっとは驚けよ。魔界では火事なんて、当たり前に起きてんのか?
「……そうだよ」
俺は燃え盛る家屋を見上げたまま、誰となく返答する。
それを聞いたルシファ。目前に立ち中腰になり、上目づかいで俺を見上げると。
「助けには行かないんですか?」
と、言いきる。
……よくもまあ、そう簡単に言ってくれる。
俺はルシファに向けられた視線を逸らし、グッと強く拳を握る。
続いて口から出た台詞は自分でも呆れるくらいの、最低で情けない発言だ。
「行くわけねーだろっ」
「どうしてですか? あの子もあなたと同じ人間なんでしょう。だったら助けてあげたいと思うのが、普通なんじゃないですかね」
先程とは別人のように冷めた声で言葉を紡(つむ)ぐと、ルシファは睨むように俺を見つめる。
――だから助けに行くったって。俺に何が出来るっつうんだよ。
それに他の奴らを見ろ。皆俺と同じなんだ。
他人のことなんかどうだっていい。結局は自分が一番可愛いんだよ。
だって、そうだろ? 仮に俺があの場所に行ったとして、一体何が出来る?
ヒーローでも何でもない俺が、一体誰を救えるんだよ。
それに俺がお前と契約を結ばなければ、一ヶ月後には皆死ぬんだろ?
あの子も――人間も全員滅びるんだろ?
だったら今ここで誰が死のうが、俺には関係ない。
俺は最低野郎だよ。でも、それがこの世界じゃ当たり前なんだ。普通なんだよ。
ルシファからの冷めた問いかけに対し、俺は深く俯く。
「……だから知ったこっちゃねえんだよ。何で俺が見ず知らずの子供を、助けなきゃいけ
ないんだ」
「確かにそうですね。見ず知らずの人ですもん。助けに行く義理はないでしょうよ」
そうだ。だから俺は悪くない。
「――でも、あの子。このままだと確実に死にますよ?」
またも沈黙。
頭の中で言い訳を繰り返す。邪論を正当化し、罪から逃れるように否定を続ける。
「苦しんで死んでいくんですよ? あの年頃だと、夢だってたくさんあるんでしょうね」
うるさい。それが何だ。俺には関係ない。
「……あずきさんはそれで良いんですか? 本当にそれで、満足なんですか?」
ああ、構わないね。俺以外の誰かが。他人がどうなろうが。知ったこっちゃない。
「黙ってないで答えてくださいよ。……じゃあ、何でここに来たんですか?」
……それは。
「助けたかったからでしょう? 心配だったからでしょう? でなければ、元々この場所に来なければいい話ですからね」
…………。
「でも、私は無理に助けろとは言いません。私自身あなたの命を奪いに来たんですから、人にどうこう言える資格はありませんし。……それに結局はあずきさんが私と契約を結ばなければ人間は全員滅びるんですもん。だから誰がいつ死のうが、あなたには関係ないんでしょうしね」
それから「まあ」とだけ言い残すと、ルシファは着物の袖をたくし上げ俺の前に出る
続けて発せられた一言は俺に向けて呟いたのか。それとも単なる独り言だったのか。
どちらかは分からない。
ただその一言は俺の身勝手な考えをぶち壊すには、十分すぎるほどの重みを秘めていたんだ。
静かな空間で、ルシファは背を向けたまま小さな声を紡ぐ。

「私はあの子を見殺しにしてまで、生き長らえようとも思いませんけどね」

そう言いルシファは人混みの中を毅然(きぜん)と歩いて行く。ルシファが前に進むたび人が――ヤジウマ達が道を開け、ザワザワと騒めきを露わにし始める。
残された俺はその光景を後ろから眺め続けていた。
眺め続けて。眺め続けて。ただ、ずっと眺め続けて。
……本当にこれでいいのか? 本当に俺は。これで満足なのか?
心の声が俺に囁く。どうやら参ったことに、幻聴までも聞こえてきやがった。
『――どうせ君が契約を結ばなければあの少女も世界中の人間も必ず死ぬ。なら、放っておいてもいいじゃないか』
そうだ。どうせ一ヶ月後に俺が死ななければ、人類は滅びるんだ。
なら、あの少女が今ここで死のうが後で死のうが、どっちだって変わりはない。
あの子も俺も、一ヶ月後には死んでしまうんだから。
『――それに君に何が出来る? 何の長所も取り得もない君に』
ああ、その通りだ。俺は何も出来ない最低野郎だ。
友達だってロクにつくれないし、彼女だって今まで出来たためしもない。
オマケに俺が死ななくちゃ人類が滅びるなんていう、呪いみたいなもんまで付いてきやがる。
だからこんな俺に生きている価値も。出来ることも何一つない。
『――それにあの少女を助けたとして君に何の得もないだろう。君が行くだけ無駄ってものさ』
分かってる。俺には何のメリットもないし。必ず助けられる保証だってないさ。
あんな子供を助けるために、命を張ろうとも思わない。
……けど。
けど、ちょっとだけ、思ったことがあるんだ。
『――……? なんだい』
あの子がもし生きていたとしたら。あの子はこれから一体、どんな人生を送っていくんだろうな。
『――……さあね』
誕生日には家族で祝ったりするのかな。休日には友達と遊んだり、父親に絵本を読んでもらったり、母親とご飯を一緒に作ったりして、毎日を楽しく過ごしていくんだろうな。
大きくなれば結婚をして家庭を持ち、幸せに暮らしていくのかもしれない。
『…………』
……ハッ、何だ。最高の人生じゃねえか。
俺のクソみたいな人生とは比べ物にならないくらい明るくて、幸せな人生だ。
けど、今あの子が死んでしまったら、そんな幸せな毎日も送れなくなるんだよ。
あの子の明るい未来が、全部無くなっちまうんだよ。
それにあの子が助かったとしても一か月後に俺が生きていれば、あの子は死んじまう。
――そうだ。その通りだ。どうせ一か月後に俺が死ななければ、人間は全員死んじまうんだ。
なら、これから先もあの子が生き続けようが。俺が死んであの子を――人類を救おうが。どっちだって変わりはない。
『――まさか……君はっ』
……ああ。だから。だから俺は、こんな生きる価値も無い命を懸けて――
「――っ……あずき……さん?」
「お前はここに居ろ。あと、これやるからとっとと魔界に帰れよな……半魔族(ディア―)」

あの子を――救ってやる。

去っていくルシファの肩を掴んだ俺は袋を投げ渡し、燃え盛る家屋の入口へ踵(きびす)を切り出した。ルシファ同様。俺の歩みを止めようとする人間はだれ一人としていない。
いや……ただ一人を除いては、か。
「ま、待ってくださいあずきさんっ……! ……って……まっ……!」
遠ざかる声。見えなくなっていくルシファの姿。そして沸き起こる悲鳴。
ルシファは大声で何かを叫んでいるようだが、正直ヤジウマの喧騒(けんそう)で全然聞こえやしない。
まあ、仮に聞こえていたとしても、止まることも無いだろうけど。
……それにしてもあいつは変な奴だったな。
勝手に人の家の冷蔵庫に詰まってるわ。菓子は奢らされるわ。俺と一緒に暮らしたいとか言い出すわ。最終的には俺を殺しに来ただって?
ふざけんなっつの。
俺はお前のせいで、こんな危ない事件に巻き込まれるハメになっちまった。
今までの退屈な毎日とは比べ物にならないくらいおかしくて。騒がしい一日としてな。
だから。だから俺に一つだけ、文句を言わせろ。
「……お前と一緒にいればもしかしたら、仲良くなれたのかもしれないなぁ」
俺は白馬(はくば)の如く駆け出した。少女を助けるために。自らの命を終わらせるために。
群がる群衆(ぐんしゅう)をかき分け。死の恐怖を無理やり飲み込みながら。
燃え盛る獄炎の巣窟(そうくつ)へ――一歩ずつ。そして確実に。

「ゴホッ……! 何つう、煙だよ……!」
手で口元を押さえ、俺は燻で溢れかえる階段を上がっていた。壁伝いに歩こうとも熱の熱さで触ることすらままならない。けど、このまま泣き言を言っている暇も。時間も。俺には無い。
「あの子の声がしたのは……確かこの部屋からだったよな」
何とか二階に辿り着いた俺は、少女の声が聞こえていた部屋のドアを開ける。
室内には崩れ落ちた家具やガラスの破片(はへん)が散乱しており、見るに痛々しい惨劇を物語っていた。また部屋の中央では少女が震えながら、すすり声を上げている。
俺は胸をホッと撫でおろし、安堵(あんど)の息を吐く。
続けて少女へ優しく語りかけ。
「ほら……大丈夫か? 助けに来たから、もう泣くな」
「……⁉ うっ……ひぐっ……! こわ……怖かったよぉっ……」
余程怖かったんだろう。少女は俺を見るなり、すぐに抱きついてきた。
俺は少女の頭を我が子を撫でるように数回撫でて落ち着かせる。それから落ち着いた頃を見計らい、少女を背に抱え、さっき通ってきた道のりを戻っていく。
玄関に辿り着いた俺は少女の肩を掴むと、扉を指差し。
「すぐにここから逃げろ。そうすれば君のお母さんに会えるから」と伝える。
だが、少女は頑(かたく)なに外には逃げ出そうとしない。
「……お兄ちゃんは?」
 少女はいじらしく俺の手を握り離さない。炎に負けないような。小さく、暖かな手の平で。
……この子は心配してくれているんだろうな。
俺は涙をグッと堪え、少女を心配させないように作り笑いを浮かべる。
「俺は今からやらなきゃいけないことがあるから、今は逃げられない。……けど、後で絶対にここから逃げだすから安心しろ」
「……ほんと?」
「ああ、本当だ。約束する」
握っていた手を解き、俺は少女に小指を差し出す。
少女は俺の小指に自分の小指を絡ませると、二人で指きりをした。
少女の「約束だよ?」という問いかけに対し、俺は小さく頷く。
でも、ごめんな。
俺はこの約束、守れそうにないみたいだ。
そうして少女は名残惜しそうに俺の元から離れると、外へと逃げ出した。
俺は去っていく少女の背を見つめ、自分に言い聞かせるように頷く。
これでいい。これでいいんだ。
あとは俺が命を絶てば、あの子はこれからもこの世界を生きていくことが出来る。
「……それにしてもあっついな」
まあ、周りは炎で覆われているのだ。暑くない方がおかしい話ではあるか。
このまま階段で枯渇(こかつ)するのも味気がないと考えた俺は、少女が居た部屋へ戻ることにした。部屋に戻ると炎壊(えんかい)の進行は進んでおり、先程より幾分気温が高くなっているように感じた。俺はまだ炎が通っていない中央で仰向けになり、薄い藍色で彩(いろど)られた天井を見上げる。
頭上にはSという文字が刻まれた一枚のシールが貼られてあり、そんな如何にも子供らしい悪戯(いたずら)に俺は苦笑してしまう。
そして不思議と、俺の瞳(ひとみ)から涙は少しも出てこなかった。
また皮肉にも、そんな俺の脳裏に浮かんでいたのは、ルシファの屈託(くったく)のない笑顔だった。
あいつとは今日初めて出会ったはずなのに、何でこんなに別れが辛く感じられるんだろう。
「ルシファ……俺はお前との出会いを一生忘れない。……ありがとな」
天井の蛍灯(がいとう)がおぼろげな明かりを瞬かせ、炎光(えんこう)と共に世界を照らしだす。
乾きのせいもあるんだろうけど、やはり俺の瞳から涙が零れることはない。
周囲を覆う茜(あかね)色(いろ)の明かりを眺めつつ、俺は乾いた瞳をゆっくりと閉じていく。
世界と別れを告げるように――ゆっくりと。
……………。
「……――ん」
………………あれ? 何だろう……聞き覚えのある声が聞こえる。
「……――あ……さん」
どこかで聞いた声だ。
確か最近。というより、ついさっき聞いたばかりの聞き覚えのある声。
「――あの……ずきさん」
……え。ちょっと待ってイヤ。マジか。え。ちょっと。
嘘ん。
「……あの、あずきさん。こんなとこで寝そべって、何してるんですか?」
「…………」
「………いや、ルシファさんこそ、何してんすか」
人間驚きのキャパが大きすぎると驚かなくなる。目頭に指を当て、俺はあぐらをかく。
「お前いつから居た?」
「『ルシファ……俺はお前との出会いを一生忘れない。……あり』」
「やめて」
「『がとな。親愛なるルシファへ。マイラブスィート』ってところから」
「うるせえ! 続けんな! あと捏造してんじゃねえよっ‼」
ルシファの口から溢れる痛い発言を、俺は必死に食い止める。
いや、それよりさ。何でお前ここに居んだよ。さっき帰れっつったじゃん。俺がお前を庇った意味ねえじゃん。つか、俺今すげー痛い奴じゃん。
呆れを通り越し、俺は最早怒る気にもなれずにいた。
続けて手を横に振り、ルシファにこの場から逃げ出すように促(うな)がす。
「それより早く出てけよ。このままだとお前まで、焼け死ぬ羽目になっちまうぞ」
「? あずきさんは逃げないんですか?」
そう言うとルシファは俺の手を握る。続けて向けられた子供のような無垢な視線に耐え切れず、俺は不意に目を逸らす。
悪いな。お前は俺を助けに来てくれたんだろうけど、俺に生きるつもりはないんだよ。
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