第10話 セイント・フェアリー、開戦

文字数 2,733文字

 アンチ探知弾の炸裂で、日本上空の電子網は消滅した。探知は、もはや不可能になった。が、その効果を無効化する三式弾の弾幕が、日本を覆った。しかし、それは完璧ではなかったから、探照灯のような探知機器が、その隙間を照らした。これとて完璧ではない。それがいたちごっこのように、お互いが仕掛けるのだ。もう少しだけ新しい技術て、それだって旧式を通り越した歴史の遺物なのだが、セイント・フェアリーを完全に探知、しかも彼らの非探知化など通用しないのであるが、それでも供与が却下された。今の技術すら、日本側がこちらが考えていないくらいに改良して、精度などを向上したものなのだ。銀河連盟は、日本への謝罪要件をさらに増やし続けているのだ、絶対に認めないし、謝罪などしないだろうが。
 日本側の対空ミサイル網、迎撃戦闘機の攻撃をかいくぐって、モビルスーツの何割かが、その攻撃射程距離内まで侵入することに成功した。
 陸上自衛隊の機甲師団、航空自衛隊の地上攻撃機、少数だが、日本製モビルスーツ、多数の無人モビルスーツ等がそれを迎え撃つ。さらに…は三日月珊瑚礁基地攻撃に投入していてない、のである。
 地上に降り立った機甲師団の集中砲火などは全く効果がないし、止まっているような車両は狙い撃ちで、一方的なモビルスーツによる虐殺?が展開…は存在しない。戦車隊は、隊形を組んだり、分散したり、移動を繰り返しながら砲撃し、建物の影に隠れ、あるいは半地下陣地や地中に潜み、砲弾を放つ。その一発一発に、モビルスーツは確実にダメージを受ける。次々に戦車が大破、炎上、全壊しようがだ。モビルスーツに向かう攻撃は戦車だけに限らない。そして、一歩、日本側の技術が、セイント・フェアリーを上回っているから、なおさらである。その一歩は、銀河連盟が与えたのではなく、日本自らが作り上げたのだ。当初は、彼らの試行錯誤を笑い、失望した銀河連盟本部は、というより知識人達というかが、その成果をみて危険視するものが一部現れ、あわやかつての誤りの再開しかねない言動すら現れた。流石に、それは途中で消えたが、日本側への技術供与をさらに減らす、遅らせることとなり、悪循環を繰り返すことになった。それを何とか凌いだのは、日本人の賜物だった。それは、日本というか地球以外でも同様だったが。少数ながら、最悪の事態になったところすらあった。
 一方では、マイティフィッシュ型万能戦闘艦やアルファ号型宇宙戦闘艦が後方の支援艦、母艦群と交戦を開始した。海上、海中でのラ号型潜水艦等も、セイント・フェアリーに遭遇していた。
 あらゆる場所で日本とセイント・フェアリーとの戦闘が行われている中で、悠々と海上を行く艦隊、海中を進む原子力潜水艦、空には編隊が時折横切って、日本側を威嚇、妨害していた。後日になったら、絶対認めないが、今の時点では、セイント・フェアリーとの連帯を誇示しているのだ。日本の都市の幾つかでは、セイント・フェアリーの攻撃で、ビルが崩れ、火災が発生していた。死傷者も、かなりでていた。
「ジョン…ごめんね。もう会えない…。」
 炎上するセイント・フェアリーのモビルスーツの中からの声。
「キノウテイカ、シュツリョク70%。テイカツヅク。ワタシトモドモ、コウゲキヲ。」
 損壊箇所多数ながら、相手に組み付いて動きを止めている自衛隊無人モビルスーツかのの通信。
 質量で上回るセイント・フェアリーのモビルスーツに抗する日本側モビルスーツを、機甲師団、各種地上攻撃機、無人モビルスーツ等が加勢して闘う光景が至るところで見られた。
「うわー!ごめん!」
 セイント・フェアリーのモビルスーツとそれを押さえつけた、ボロボロになりかけの無人モビルスーツ、空陸からの集中攻撃、飽和攻撃がなされた。二体は、完全に原型をとどめないまでに破壊された。
「俺に構わず撃てー!」
「ごめんー!」
 セイント・フェアリーのモビルスーツが、陸上自衛隊のモビルスーツを押さえつけ、それに向かってセイント・フェアリーの別のモビルスーツが手にしたビッグ・キャノンの引き金を引いた。その時、
「サセルカー!」
「タイチョウハワタシガマモルー!」
 二台の無人モビルスーツが飛び出してきた。隊長機を解放し、突き飛ばし、逆にセイント・フェアリーのモビルスーツを押さえ込んだ。味方を破壊してしまったモビルスーツの乗員は呆然としている間に、ほとんど大破した二台は最後の力を振り絞って、全ミサイル、ビームを放った。相手を大破させたが、その2台は活動を提出した、完全に。ちなみに、
「馬鹿野郎!」
と機内から号泣が上がる隊長機が大破したセイント・フェアリーのモビルスーツにとどめを刺した。
「不思議だな、日本人は。無人モビルスーツの“死”に涙するんだから…。そもそも、何であんな会話機能を入れたんだろうな?」
 そう言いながら涙をうっすら浮かべているセワシを、ノッソリは黙って見ていた。
 三日月珊瑚礁基地には、特別攻撃隊が突入していた。
「変身ー!」
「力よー!」
 異形とも言える形に変身した佐藤二尉(男)は、基地内警備隊を蹴散らして、防御機構の攻撃を弾き返して進んでいた。その傍らには、同様に進む加藤二尉(女)が押し付けた針なし注射器を捨てて、全く変わらない姿にもかかわらず、同様に進んでいた。さらに、特殊服を着た6人の男女が、服のタイプは二つ、別方向から攻め上がっていた。鮫龍二艇の攻撃隊は、予定通り別の箇所に突入することに成功したのだ。橋頭堡を確保できた後から40式内火艇が突入、空挺部隊の精鋭が艇から飛び出し、彼らに続いていた。
「彼らに続け!我々には最終兵器、大和魂がある、信じろ!」
 黒人で、
「三代続いた江戸っ子だ。」
と自慢の、沈着冷静合理的思考の温和な指揮官の、ここ一番の口癖に、皆は苦笑しながらも、彼への信頼を揺るがすことなく進んだ。そして、佐藤と加藤が今まで、その力で奮戦してきたが、もはやボロボロ、この作戦で死を覚悟し、痛みを感じながら戦っていることを、今上天皇陛下と同様に彼らも知っていた。
「私の骨は誰か拾ってね!」
 金髪碧眼の一尉の言葉を皆が共有していた。
 空挺部隊の精鋭部隊の大部分は、もちろん、いわゆる日本人がほとんどだった。
「ナデシコ型支援戦艦及び護衛艦隊捕捉!」
 マイテイ・フィッシュ型3番艦オルカの艦橋で声が、上がった。
「重力振動弾、発射準備O.K.。加速粒子砲エネルギー80%!」
 AIの声が艦内にこだました。
 ナデシコ護衛のモビルスーツ、多数我が艦に向かって接近中、との報告が聞こえてきたが、同時に
「現在、護衛機が戦闘中」
との声が聞こえてきた。
「加速粒子砲エネルギー充填完了!」
「放てー!」
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