第4話

文字数 698文字

 ところがである。
 卒業祝いのデートとして高級イタリアンを予約し、気合を入れて臨んだ当日、突然花子の実家の父親が脳梗塞で倒れたと連絡が入った。命に別状はないとの事だったが、後遺症が予想されると涙ながらに語る花子。辛い気持ちが痛いほど伝わったが、太郎にはどうする事もできない。
 花子はデートをキャンセルして実家のある青森へと向かう予定だと話した。この日のデートは意気込みが激しかっただけに、太郎としては残念至極だったが、事情が事情だけに諦めざるをえない。

 一週間後。実家から帰って来た花子から、太郎は驚くべき言葉を聞くこととなった。いや、予想してはいたが、そんなことはないと思いたかったのかもしれない。
「……お父さん、もう駄目みたい。体もそうだけど、心の方もすっかりまいってしまったみたいで、……まるで抜け殻のような状態だった。だから私が実家に帰って父の面倒を見ないといけないの。母の話だと縁談も用意されているらしいし。……太郎さん、あなたとはお別れよ。今まで本当にありがとう。ごめんなさ……」最後は涙交じりの声となり、はっきりとは聞こえなかった。
 花子の実家はリンゴの有機栽培を行っていたが、父親が倒れたとあらば、農作業は当然母親の仕事になるだろう。ひとりっ子の花子は高齢の母親を手伝うしかない。リンゴの収穫時期は秋口だが、それでも農林の手入れを怠るわけにもいかず、きっと困惑しているに違いない。
 せっかく得た内定も、断るしかないだろう。
 覚悟していたとはいえ、あまりのショックで言葉が出なかった。僕の傍にいて欲しい。そう喉まで出かかったが、花子の心情をおもんばかると、それは出来ない相談だった。
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