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文字数 2,295文字

これが料理ぃ?

村役場の大広間。

ふんぞり返った少年の前に全村民が頭を垂れている。

その狭間にはご馳走が並んでいるものの、彼の舌には合わなかったようだ。



ぎゅるるるるるぅ

ひもじいよぉ……。


お昼食べたきりなのにぃ~。

簀巻きからはみ出た熊さんパンツがうなだれる。

ちなみに今は3時のおやつの時間である。

さっきから五月蠅いそこの犬にくれてやる。
暴れないよう手足は縛られたままだが、ご馳走の山の前に座らされる少女。

サプライズっ!?


今日あたしの誕生日だっけ?

こんなご馳走食べたことないよぉ!


わーいわーい!!

人間の尊厳を捨て、文字通り犬のように貪り始める。


空気読めないアホの子を餌で釣ってる間に、少年は本題である商談を始めた。

この村に立ち寄ったのはただの気まぐれ。


ぶっちゃけこの村の行く末なんてどうでもいいんだが、金は用意出来たんだろうな?

ホジホジと耳をかっぽじ、フッと一息。


彼は村民に泣きつかれ、お願いされている立場だった。

慈善家でないことは、その横柄な態度から一目瞭然である。

くっくっく、笑止!


この村を支配しただけで勝ったつもりか!

第二、第三のあたしが必ずおまえを……。

村長が少女の口に手羽先チキンを突っ込む。

ええい、黙って食ってられんのか!

この御方をどなたと心得る!


世界一のギルド社『ダンジョン屋』社長、ムッソ・ゴルドスキー様であらせられるぞ!


頭が高い、控えおろう!!

もちろんアホの子は控えることを知らない。
社長だか皇帝だか童貞だか知らないけど、まだお子様じゃないか!
どどど、童貞ちゃうわっ!!

社長は体内マナをコントロールし若さを保っているのである。


実際はかなり高齢ですぞ。たぶん……。

ふっ、羨ましかろう、パンピーの女には。

ちなみにこの世界にはエルフ、ドワーフなど様々な人種が存在する。

パンピーとは繁殖力だけが取り柄の、ごく普通の一般人種のことである。

そうか……。


若作りのために童貞を貫かなければならぬとは……魔王も大変だな。

ちょっと同情しちゃったぞ。

アホのくせに憐れむとは……いい度胸だな。

一国の王でさえ跪くこの俺様を。

そう、この男は冒険者ビジネスの火付け役であり世界一の有名人。

ダンジョン経営で瞬く間に巨万の富を築いた世界一の大富豪。

少女が知らないのはアホだからであり、田舎者でさえもその名と功績は知れ渡っている。


魔術革命によって近代化した現代社会においては金こそが正義。

武力に代わって金がすべてを支配するようになったこの社会的変化をマネッサンスと言う。


それすなわち、経済を制す者は世界を制すこと。

いわばこの世界を牛耳る支配者と言っても過言ではない。


貧乏人は金持ちの横暴にただ涙するしかなかった。

申し訳ございませんっ!

なにぶんアホの言うことですので!!


この村はもう貴方様の御力に頼るしかないのですっ!

確かにこの村の状態は酷いですなぁ。


風水は乱れ放題、悪性化した精霊のせいで災害続き。

作物は育たず、汚染されたマナによって魔物が生まれ続ける。

これといった特産品もなく、傭兵を雇い続ける余裕もない。

村の若者達は現実逃避し冒険者へ。


もう滅ぶのを待つだけですな。

眼帯髑髏のマスコットが渋い声で村の悲惨な現実を突きつけた。

専門家の評価によってさらに不安を煽られ、村人達の顔が青ざめていく。

これが村中から集めた前金です……。

もちろん足りなけば村の宝も全て差し出しましょう!


ですから村おこしコースでお願いします!


なにとぞ、この村にダンジョンの建設を!!

これが前金? チップの間違いなんじゃねぇの?


さっきも女神像を鑑定したんだが……俺様も安く見られたもんだ。

建設中は村の総力を挙げて接待させていただきます!


まともな若い衆はもう居ませんが……こんなので良ければご自由にお使いください!

見た目だけは一級品ですので!!

村長はハムスターのように頬いっぱいご馳走を詰め込んだルザリカを差し出した。

ちょっと嫌そうな顔をするムッソ。

人質にされている村人のために身体は屈してやるっ!


でも心までは屈してあげないんだからねっ!!

もはやアホの子の言葉は誰にも届いていない。
三日だ。
は?

三日でダンジョンを建設してやろう。


しかもこの俺様自らがエンジニアリングしてやる。

な、なんとっ!!

ただし通常の契約書ではなく、こっちのブラック契約書に従ってもらう。


村おこしを受けた貧乏な村がどうなって来たか、貴様らも知らぬわけではあるまい。

しゃ、奴隷(シャチク)契約……!!
一斉にどよめく村人達。

先ほどのように魔物が村までやって来るということは、龍脈が機能していないということですぞ。

しかしダンジョンが建設されれば風水が安定し、マナが正常に循環するようになる。

悪性精霊も生まれなくなり、豊作は約束され、魔物もダンジョンに封印される。

外から冒険者がやって来るようになり村の経済も潤う。


我が社の奴隷(シャチク)になる、この条件を呑むだけで村はかつてない繁栄を迎えるのである。

何をためらう必要がありますかな?

この村で暮らしていきたいのだろう?

何もしてくれない国のためにこの村を捨てるのか?


デッドオアアライブ。さぁ選べ。

村長、どうせ国はダンジョン屋に逆らえねぇ。

刃向かうもんなら滅亡あるのみ。

修羅の国、ジャポネなんて丸々ダンジョン屋の支配下だべ。


オラ、魂さ売って宿屋経営頑張るべよ。

きっと若ぇもんも戻って来る。

んだんだ。

年中お花畑のボンボン陛下よりムッソ様についてった方がええ。

わ、分かった……。

やってやる、やってやるぞぉぉぉぉ!!


過労死なんて怖くない!

怖いのは貧乏生活だけだぁぁぁぁ!!

ブラック契約書にサインがされ、施された陰陽術が発動する。
くっくっく、契約成立だ。
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登場人物紹介

ルザリカ・バッカミール


世間知らずな田舎出身の冒険者。

実力が伴わない自信家。要するにヘタレ。

気持ちが前過ぎて勘違いばかり。


ありとあらゆるトラップにかかる才能(バカ)があり、生成したダンジョンのベータテスター(奴隷)として雇われる。

ムッソ・ゴルドスキー


見た目は少年だが、世界一のギルド社『ダンジョン屋』の社長。

金こそが全てというマネッサンス社会に君臨する絶対的な支配者。


ダンジョンを中心とした冒険者ビジネスの火付け役であり、その影響力は国も動かすほど。

頭の悪い人間をすぐに小馬鹿にし利用する。性格が悪い。

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