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文字数 1,981文字

どんより曇った昼下がり。

山奥の寂れた村に一人の少女が訪れた。

村娘のようにも見えるが、不釣り合いな機械仕掛けの剣を肩掛けベルトでぶら下げている。

頭上のリボンをぴょこぴょこ揺らしながら、少女は変わり果てた村の様子に戦慄を覚えた。

天には得体の知れない空飛ぶ船、村にはモヒカンのならず者達……。


あたしが居ない間にこんなことになってたなんて、世も末だわ!

おい見ろよ、こんな何もない村にまだ美少女が残ってるぜぇ。

遠巻きからゲッヘッヘと下卑た笑いを漏らすモヒカン達。

すぐに抜刀出来るよう、少女は剣の柄に手を添えた。


看板だったのか案山子(かかし)だったのか、ズタボロになって原型をとどめていないモニュメントの横を通り、警戒しながら中央広場に面した村長の家を目指す。


しかしトラブルに遭う様子もなく、少女はあっさり目的地に辿り着いた。

冒険でレベルアップしたあたしのオーラに恐れをなしたのね。

他愛もない。

村長から事情を聞き出すべく、少女は玄関へ歩みを進めた。

そこで庭の女神像を物色する怪しい人影に気付く。

泥棒っ!?

思い込んだら我が道をゆく、それが少女のモットーだった。

走りながらカッコ良く抜刀しようとしたがうまく抜けず、少女はそのまま怪しい人影にドロップキックをお見舞いした。

な、なんだキサマはっ!?


この俺様をどなたと心得るっ!!

吹っ飛んだ魔術師風の男が、杖を拾いながら少女に怒鳴る。

世にも邪悪な魔術師め!

悪党に名乗る名などないっ!


とうっ!!

少女はミニスカートを翻しながら、男の顔面にヒップドロップを喰らわせ転倒させた。

早速最初の町で授かった奥義が役立った。

ありがとう、名も知らない通りすがりのボディコン師匠!


ふっふっふ。魔術師殺しの必殺技の味はどうだ?

男の口をパンツで塞ぐように、顔面に馬乗りになって勝ち誇る少女。

男は真っ赤になりながら何かを訴えようとしているが聞く耳持たず。

師匠から授かったSM用のロープを取り出し、不審者を縛る準備を始める。

やばい。あたし今、超輝いてる!

冒険者の中の冒険者、勇者としての輝かしい伝説が始まったわ!


冒険日記につけとこう。

ポシェットから絵日記を取り出した少女の後ろから、二つの悲鳴が同時にこだました。
のぉぉぉぉぉぉん!?


なんてことをぉぉぉぉ!!

シャチョォォォォォ!?

あ、村長。


ルザリカ・バッカミール、ただいま故郷を救うため華々しく勇者デビューしました!


(てへぺろっ♪)

ばっかもぉぉぉぉん!!!

村長の殺意がこもったガニ股旋風脚が少女――ルザリカに炸裂する。


すぐさま魔術師風の男の前で土下座し、村長は泣きながら必死の言い訳を並べ立てた。

冒険に出ても方向音痴ですぐ戻って来るようなアホの子なんです! 

世間知らずでイカれた冒険脳の親に捨てられたことも気付かず、むしろ憧れるようなおめでたい子なんですっ!!


なにとぞっ! なにとぞご勘弁をぉぉぉぉ!!

…………。

立ち上がった男の村長を見下ろす視線は低い。

なぜなら彼はまだ子供だったのだ。


あの口やかましかった雷おやじが自分より小さい子供相手に醜態を晒している――

その光景にショックを隠し切れず、ただでさえ詰まっていない脳ミソがからっぽになるルザリカ。

深い深い村長の土下座はその禿頭が地面にこすれて、今にも取り残された一本毛が抜け落ちそうなほどだった。


少女がその最期の瞬間を固唾を飲んで見守っていると、傍に佇むもう一人の……いや、もう一匹の小さな悲鳴の主が目に入った。

頭蓋骨に手足が生えた、みょうちくりんな魔物が鼻血を出している魔術師を介抱している……。

まさか社長にダメージを与える輩がこの世に存在するとは……。

魔物っ!?


なるほど、そういうことか……。

すでに支配されていたのね!


村長、下がってて!


この勇者ルザリカが魔王を成敗し、村を救ってみせるっ!!

鞘にかかっていたセーフティーロックを無理矢理ぶち壊し、機械仕掛けの剣を抜刀するルザリカ。

しかし勢いあまってスパっとスカートを斬り落とし、パンツ丸出しになってしまう。

……ちょっとタイム!

アホの子にもかろうじて恥じらいがあったようだ。

真っ赤になりながら斬り落としたスカートを巻き、パンツを隠そうとする。


そんな彼女の背後に忍び寄る影――。

え? 隣のおばちゃん? 3丁目のコイケさんまで?


うわぁぁぁなにをするぅぅぅ!?

騒ぎを聞きつけた村人達に縛り上げられ、アホの子は御用となった。

村人達は魔術師風の少年の前に揃って土下座し、パンツ丸出しの少女を差し出した。

このアホのことは煮るなり焼くなり慰みものにするなり、好きにしてください!


どうか村だけは……っ!

みんな、目を覚ますんだっ!
熊さんパンツが吠える。

おまえはもう寝とれっ!!


この御方をどなたと……

そこに空気を読まない風雲急を告げる一大事が、村の入り口の挨拶おじさんによってもたらされた。

村長、大変だぁ!


村はずれに魔物が出ただぁ!

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登場人物紹介

ルザリカ・バッカミール


世間知らずな田舎出身の冒険者。

実力が伴わない自信家。要するにヘタレ。

気持ちが前過ぎて勘違いばかり。


ありとあらゆるトラップにかかる才能(バカ)があり、生成したダンジョンのベータテスター(奴隷)として雇われる。

ムッソ・ゴルドスキー


見た目は少年だが、世界一のギルド社『ダンジョン屋』の社長。

金こそが全てというマネッサンス社会に君臨する絶対的な支配者。


ダンジョンを中心とした冒険者ビジネスの火付け役であり、その影響力は国も動かすほど。

頭の悪い人間をすぐに小馬鹿にし利用する。性格が悪い。

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