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文字数 2,649文字

ヒャッハー! ダンジョンだぁ!

寂れていた村は一転、ダンジョンオープン初日から大盛況で村は冒険者で溢れかえっていた。


あらかじめ広報担当の吟遊詩人(アイドル)グループに根回ししていたこともあるが、スタートダッシュに命をかけるダンジョンマニアの存在も大きい。

より早く攻略マップを作成し情報を売る者、どんな装備対策が売れるか検証し商売の手配を始める者、蘇生代行で儲ける者など、ダンジョンビジネスに乗っかる商人があちこちで見られる。


早速ダンジョンで手に入れたお宝を鑑定屋に持ち込む冒険者カップルも居た。

これは風属性のエレメントを多く含んでるメイジロッドにゃん。

武器としてだけでなく、風水管理機構に組み込んでも面白いことが出来そうにゃー。


腕のいいブラックスミスを紹介してあげようかにゃ?

どうする、タッくん?


いい武器があれば龍穴温泉まで辿り着けるんじゃない?

早く背中流しっこしたいなぁ♪

よぉし、奮発してルカりんの武器新調しちゃうぞぉ!
大好きっ、タッくん♪
毎度ありにゃん♪

尻尾をフリフリ、営業スマイルで手続き契約を取り付ける可愛らしい猫耳店主。

カップルが帰った後、キュピーンと目を光らせほくそ笑む。

まさか元がトイレのスッポンとは夢にも思わないにゃん。


冒険者チョロ過ぎぃ~♪

相変わらず出店が早いな。

あ、シャチョー!


おかげさまでボロ儲けにゃん!


開運クロネコ鑑定団はスピード出店、スピード審査、スピード宅配!

今後とも御贔屓にぃ~♪


ところで今回のダンジョンはどれくらいの難易度にゃん?

23バッカミールだな。
バッカミ……何の数字にゃん??
アホの子の残機数だ。

よ、よく分かんにゃいけど、今回は龍穴温泉という目玉があるから長持ちしそうにゃん。

ダンジョンリゾート計画、ウチのギルド社も噛ませて欲しいにゃあ。


ところで例のワームの使い心地はどうだったにゃん?

成熟までに時間がかかるのが難点だな。

ダンジョンの構造も単純化されるし、今回のような使い方だと俺様直々でないと使いこなせそうにない。

汎用性を持たせるなら小型のワームを複数併用させた方がいいかもしれん。

開発部門に伝えとくにゃん!
それにしても、キサマも悪よのぉ。

いえいえ、シャチョーほどでは。


でもそろそろウチとにゃんにゃんして欲しいにゃん♪

胸を押し付けながらムッソに抱き着く猫娘。
キサマは魂胆がバレバレなんだよ。
にゃふん☆





お祭りのような村の変わりように、ウキウキしながら村を見て回るルザリカ。

村を出て行ったみんなも戻って来るかなぁ?



あっ、タッくんだ!


立派に冒険者デビューしてるぅ!

誰? あの子。
え?


あ、村長が預かってた鼻垂れ女……。

ねーねー、あたしも冒険者になったんだよ!


そろそろあたし達、結婚してもいいんじゃないかなぁ?

ちょっと、どういうことなの!?
いや、誤解だ!


こいつとは何も……。

もぉ~、タッくんたら。


子供の頃一緒に作ったトーテムポールに誓ったじゃない♪

いつの話だっ!?


トーテムポールもなくなったんだし無効だ!

お前のお守りをしてたら命がいくつあっても足りねぇ!


勘弁してくれぇぇぇぇぇぇ!!!

彼女を強引に引っ張りながらタッくんは逃げ出した。

あれ? もしかしてフラれた??


うぇぇぇぇん、どぉしてぇぇぇぇぇ??

…………。







『トイレで触られる……おっぱいを吸われる……おまたが痛い……後ろから掘られた気がする……』


裸同然に剥かれて帰って来るし、何があったのかと思ったら……。

部屋に置いてあったルザリカの絵日記をそっ閉じする村長。


そこに泣きつかれたのか、ションボリしたルザリカが帰って来た。

ルザリカ、話がある。


おまえが幸せになるには、もはや責任を取ってもらう方法しかないのだ!

……ふぇ?





翌日、村を立つダンジョン屋の見送りに、村人達が停泊した飛行船の前に集まっていた。


その中にひと際狂った格好の人物が一人。

……何だこれは。
ウェディングドレス姿のルザリカである。

良かったのぉ、ルザリカ。気に入られて。

おまえは世界一の幸せ者じゃ。


お嫁に行ってもこの村とワシのこと、忘れるんじゃないぞ?

いいか、絶対忘れるなよ?

どうしてこうなったのか、吾輩にも理解不能である……。

契約通り、この村はダンジョン屋の支配下に置かれ、上納金も毎年払ってもらう。

キサマらは借金が返済されるまで全員、我が社の奴隷(シャチク)だ。


そしてそこのアホは治療費の支払いもあることを忘れるな。

まぁお前の能力では一生奴隷(シャチク)のままだろうがな。

そう言い残し、ルザリカを置いて飛行船に向かうムッソ。

ダンジョン屋の幹部達が頭を下げ主を迎える。


「話が違うべ、村長?」


予定と違う展開に戸惑う村人達。

ぐすっ。


あたしだって冒険したかったんだもん。

パパやママみたいに、誰かと一緒に世界を見たかったんだもん。


婚約解消の責任取ってよ……。

涙ぐみながら、静かに呟くルザリカ。

いつもと違うヒロイン臭に面食らう村人達。

しかし最後のセリフは意味不明だった。


ムッソの後ろ姿が立ち止まる。

だが恐れ多くも偉大な俺様が、おまえにピッタリな仕事を斡旋してやろう。

そうでもしない限り、一生かけても借金払い切れないだろうからな。

有難く思え。


今日からおまえはダンジョン屋の専属ベータテスターだ。

こき使ってやるから覚悟しろ。


言っとくがおまえはすでに俺の所有物だからな、契約が完了するまで拒否権はない。

社長のこの言葉に、今度はギルド社員達が度肝を抜かれる。

どういう風の吹き回しやら。


おい、そこの小娘。

社長の風が変わらないうちにさっさと乗りな。


新しい風を見せてやるぜ!

なかなかロックじゃないの。


そこの変態エルフ、鼻血出てるわよ。

うふふふ。

アホの子の表情がパっとお花畑のように明るくなる。

切り替えが早いのがルザリカ・バッカミールの取り柄なのだ。

村長、勝手にふんどし交換してごめんなさい!


働いたお金で買い戻して、いつか必ず返すからね!

いや、心底どうでもいいわい。

むしろ返してもらいたくないわい。

村のみんな!


あたしが帰って来るまで女神像のお供え物はいらないからね!

やっぱりお前が食ってたんかい……。
あ、それから温泉まんじゅうを村の名物に……
はよ行かんかいっ!!!

離陸し始めた飛行船にジャイアントスイングでルザリカを投げ入れる村長。



――かくして、アホの子は世界に羽ばたいたのだった。

これでもう一安心だべ、村長。

ああ、今までの苦労も報われるわい。


村も安泰じゃな。

「玉の輿……っ!!」


村人達は心の底から笑顔で見送った。






             第一話『ダンジョンエンジニアのおしごと』 完

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登場人物紹介

ルザリカ・バッカミール


世間知らずな田舎出身の冒険者。

実力が伴わない自信家。要するにヘタレ。

気持ちが前過ぎて勘違いばかり。


ありとあらゆるトラップにかかる才能(バカ)があり、生成したダンジョンのベータテスター(奴隷)として雇われる。

ムッソ・ゴルドスキー


見た目は少年だが、世界一のギルド社『ダンジョン屋』の社長。

金こそが全てというマネッサンス社会に君臨する絶対的な支配者。


ダンジョンを中心とした冒険者ビジネスの火付け役であり、その影響力は国も動かすほど。

頭の悪い人間をすぐに小馬鹿にし利用する。性格が悪い。

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