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文字数 1,990文字

あれ? この道通ったような通ってないような……。

もう何度目かも分からない、枝分かれした分岐点に到達する。


ダンジョンは巨大ワームが掘った坑道と、後で棲みついた魔物が作った小さな抜け道があちこちで交錯していた。

魔物の行動ルートはマナの流れである風水でコントロール可能。

つまり意図して魔物にダンジョン掘りを手伝わせていたのだ。


もちろんそんな説明を理解できるわけでもなく、ルザリカは小さな道を選択した。

知っているぞ、隠し通路にはお宝が眠っているって!

正解はこっちだ!

…………。

ちょっと待て。


お望み通り隠し部屋を作ってやろう。

うんざりした表情を浮かべながら魔術で小部屋を作るムッソ。


精霊(エレメント)で風水を調節し、さらに魔法陣を描いてガラクタを召喚。

村で集めた廃品の一つ、鍋の蓋だ。

それを一緒に呼び出した宝箱の中に入れる。

そんな宝箱、誰が喜ぶのよ……。

龍脈に流れるマナを使って、アイテムが強化されていく陰陽術を仕込んでいるのである。

宝石と同じように熟成されれば、強力な魔法アイテムに変わるのである。

そして手前に落とし穴を作っておく。

宝に目がくらんだアホは下の階層に落ちるというわけだ。


これで方向音痴でもグルグル同じところを回らず先へ進めるだろう。

そんな初歩的なトラップにかかる冒険者なんて居るわけないだろう!


おまえは冒険者を舐めすぎだ。

フラグが立ったのである……。

一行は迂回し、さらに探索を続ける。

途中で頭の悪い冒険者のために、目印になりそうなトイレポイントも増設していく。


そして再びどこかで見た分岐点。

ルザリカはお約束通り、細い方の通路へ歩みを進めた。

ふっ、あたしは知っているぞ。

隠し通路の先にはお宝が眠っているということを!



ほら見ろっ! 宝箱だぁぁぁ♪

アホの子は嬉し過ぎてぴょんぴょん跳ねながら一直線にお宝を目指し……消えて行った。
期待を裏切らないのである……。







はっ!? あたしは何を……?



うわぁぁぁん!

おまたが裂けそうなほど痛いよぉぉぉ!!


……もしかして生まれるっ!?

黙ってハーブをルザリカの口にぶち込むムッソ。
脳ミソが軽くなってきたぁ♪
おい、あんまり騒ぐから魔物が寄って来たぞ。
人より一回り大きいモグラのような魔物達が姿を現す。

ちなみに龍穴(りゅうけつ)に近付くほど居心地が良くなるため、縄張り争いに勝った強力な魔物が出現するようになりますぞ。


気を引き締めて……。

必殺技を覚えたあたしに隙はないもんね!


勇者ルザリカ、いっきまぁす!!

呪文を唱えるルザリカだが剣はうんともすんとも言わなかった。


瞬殺されるアホの子。

はっ!? あたしは一体何を……?



うわぁぁぁん!

後ろから掘られた気分だよぉ!!


……もしかして男と間違えられた!?

騒ぎを聞きつけ、再びぞろぞろと現れる魔物達。

くっ、昨日までのあたしと同じだと思わないことね!


必殺! でっどとらいあんぐるっ!

やっぱり魔術が使えずボコられるルザリカ。




こいつやばい、まるで成長(レベルアップ)しない……。




想像以上のアホさにムッソとじーさんは同時に驚愕した。

ある意味才能である。

ねぇ、ムッソ。


これ壊れてる気がする。

通算22回目の蘇生でようやく気付き始めたアホの子。

オーバーロードでマナの供給が追い付いてない。


龍脈利用せずに無限に魔術が使えると思うな、アホ。

ムッソは使いまくってるじゃない!


えこひいきだ! ぶーぶー!

何の考えもなしにプリセット魔術に頼ってるおまえと一緒にするな!
社長、そろそろ目的地が近いかと。
そういえばなんだか暑くなってきたんだけど……。
龍穴に近いからな。
りゅうけつって何?


村長が好きな場外乱闘かな?

龍脈の交差点、マナが流れ込んでくる風水の中枢ポイントで、魔物にとっても一番居心地のいい場所である。


つまりこのダンジョンの主の……。

やっぱレッドドラゴンか。

ムッソとじーさんが背を向け走り始めた。


首をかしげながらルザリカが振り向くと、火炎放射が通路一杯に迫って来た。

ひぃぃぃぃ!?
かろうじて直撃をかわすも、服に引火し脱ぎ捨てながら二人の後を追うルザリカ。
逃げないでやっつけてよぉ!
ベータテストでボスを退治するアホがどこに居る。

姿は見えないが、巨大な足音と共に背後から火炎放射が続けて襲ってくる。


ほぼ下着同然の姿になりながらも必死で走るルザリカ。

えっ? ちょっと、そっちは……


崖ぇ!?

先行く二人はお構いなくピョーンと飛び降りて行った。

二人を信じてルザリカも飛び降りる。

高っ!?

その先は地底湖を擁する巨大な空洞になっていた。

いくつもの地下水が滝のように降り注ぐ幻想的な空間。


ただしその落差は200メートル以上あった。

わぁぁぁぁぁん!!


ざぶーん。


さすが社長!


狙い通りの龍穴温泉完成ですな!

くっくっく。


すべて計画通り!!

ゆっくり魔術で下降しながらほくそ笑むムッソ。


その下では湯けむり殺人事件よろしく、水底に激突したルザリカがプカプカと浮いていた。

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登場人物紹介

ルザリカ・バッカミール


世間知らずな田舎出身の冒険者。

実力が伴わない自信家。要するにヘタレ。

気持ちが前過ぎて勘違いばかり。


ありとあらゆるトラップにかかる才能(バカ)があり、生成したダンジョンのベータテスター(奴隷)として雇われる。

ムッソ・ゴルドスキー


見た目は少年だが、世界一のギルド社『ダンジョン屋』の社長。

金こそが全てというマネッサンス社会に君臨する絶対的な支配者。


ダンジョンを中心とした冒険者ビジネスの火付け役であり、その影響力は国も動かすほど。

頭の悪い人間をすぐに小馬鹿にし利用する。性格が悪い。

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