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文字数 3,056文字

ヒャッハー! 魔物だぁぁぁ!!

村にたむろしていたモヒカン男達が各々の武器を振り回し、魔物に突撃していく。

彼らは魔物から村を守る傭兵だったのだ。

やはり魔王、おまえの仕業かっ!

住人の裏切り(?)によって縛り上げられた少女が噛みつくように少年に言い放つ。

村長は無言で彼女の上半身を脇に抱え込んだ。

あぁん、やめてぇ!


みんなの前でお尻ぺんぺんキャンセル贅肉バスターの刑だけはぁ!!


もうお年頃の17歳なのにぃぃぃ!

合成魔獣(キメラ)タイプと土魔人(ゴーレム)タイプですな。

風水が乱れ、野生生物やマナ溜まりが汚染されることで生まれる魔物である。

眼帯を付けた頭蓋骨に手足がくっついただけの間抜けな姿の従者が、その見た目とは裏腹に渋い声で状況を説明する。


モヒカン達が戦ってる相手は成人サイズの鶏に蛇の尾が付いた魔物が数匹、そして3メートルは超そうかという土くれで出来た巨人。

いずれも魔物側が優勢だ。

もぶらっ!?

突撃したと思ったら、出血大サービスで舞い戻って来るモヒカン達。

眼帯髑髏のマスコットがモヒカン男の容態を確認した。

死んでますな。

ちーん。


アホの子は赤から青に顔色が急変した。

ちょっとちびったかもしれない。思わず内股になる。

使えんモヒカン共だ。

も、もうこの村はおしまいだぁ!


……って、何をされておられるのです!?

陰陽術も知らんのか、田舎者め。
少年が死体となったモヒカンのおでこに霊符を貼る。
村長!


あたしにいい考えがあるっ!!

いや、おまえにだけは頼りたくない……。

今回の冒険は手ぶらじゃなかったでしょー!


聖剣あるもんっ!

必殺技覚えたもんっ!

半泣きになりながら主張する少女。

そういえばこの剣どうしたんじゃ?

まさか盗んだんじゃないだろうな?

通りすがりの仮面紳士がハァハァしながら下着欲しいって言うから、村長のふんどし渡したら感動して授けてくれたんだよぉ。
…………。

アホの子の拘束を解き、機械仕掛けの剣を渡す村長。

セーフティーロックが壊れているので、難なく抜刀し鞘を投げ捨てるルザリカ。

よぉし、これで……


魔王っ! 人質になってもらうわよ!!

まだ空気読めとらんかったのかっ!?
少年は向かって来たヘナチョコの突撃をあっさりかわし、すれ違いざまに足を引っかけた。
ぶにゃああああああ!?
アホの子はパンツ丸出しのまま顔面からヘッドダイビングした。

うえぇぇん、ひどいよぉ~、ママぁ~!


女の子にこんな仕打ちするなんて、パパに言いつけてやるぅぅぅ!!

ボロ泣きするアホの子に共鳴するかのように、魔物が雄たけびをあげた。
クェェェェェ!!(怒)
アホの子が手放した剣が鶏と蛇の混ざりもの、コカトリスの背中に偶然刺さったのだ。
ふっ、計算通りっ!!

コカトリスが振り向きもせず、尻尾を伸ばして少女に攻撃する。

尻尾が蛇になっているコカトリスは後ろにも目があるのだ。


少女は咄嗟に転がって避けたつもりだったが、お尻に噛みつかれてしまった。

あぁ~ん!

おいしいかもしれないけど食べないでぇ!

刹那、蛇の首が飛んだ。


わんわん泣き叫ぶ少女の前に一人の男が現れる。

ヒーローの登場に思わずときめきの予感を感じる少女。

その男の頭にはコカトリスにも負けない、深紅の立派なトサカがそそり立っていた。


機敏で優雅な足運びは嘴による猛攻をかすりもせず、瞬時に懐に飛び込んでコカトリスの首を鎖鎌で斬り裂く。

その鮮やかな業前の持ち主は――

ハッ!?


俺はいったい何を……。

さっきまで死んでいたモヒカン男だった。

彼の額に貼られていた霊符が自然発火し燃え尽きる。


同じように次々に額に霊符を貼られたモヒカン男達が、機敏なゾンビとなって次々に魔物を仕留めていく。

後ろで少年が両手で印を結び、何らかの術式を発動させていた。

三途の川が見えたような……。


うぎゃああああ!

なんじゃこりゃあああああ!?

意識を取り戻したモヒカン男達が一斉に苦しみ始める。

蘇生と操身を同時に行う上位陰陽術。

引き換えに致死量の痛みが長時間に希釈され、しばらく動けないのである。

解説する骸骨。だが誰も聞いていない。

生き返れたものの、地獄の苦しみに痙攣を起こしながら地に伏していくモヒカン達。


殆どの魔物は倒され、残るはデカブツのゴーレムだけとなった。

俺様の仕事は魔物退治ではない。


だが、俺様がどうにかしてくれると考えていたのだろう?

そ、それは……。

図星だ。

村人達は事の成り行きを彼の後ろで、まるで見世物のように観客席を作って見学していた。

分かっているだろうな。

こいつは別料金だ。

愛用の杖をくるくると念力で空中回転させ、ゆっくりゴーレムへ向かっていく少年。
え、お一人で?

社長は魔術、風水術、陰陽術、錬金術、精霊術の五大法術を極めたお方。

帝国騎士団が束になっても敵わないのである。

たとえ吾輩でも、手も足も出ないほど底知れぬ力を持っておられる。

あんたは手足の前に胴体だろ、と突っ込みたかったが懸命に堪える村長。


彼が言いたかったのは彼の配下の屈強なSP達の存在である。

どこにも見当たらないが、きっと近くに居るはずなのだ。

秒殺クッキングの始まりだ。


ズィスイズアペェン……

呪文詠唱と共に杖から発せられた光の軌跡で魔法陣を描いていく少年。

プリセット魔術ではなくイングラン式呪文詠唱からの複合法術……。


風水調整のための仮施工も同時に済ませてしまうおつもりですな。

つまりどういうことですか?
ついでに基礎工事も済ませてしまうのである。
超電磁回転槍(コンバトラースピン)!!

術式を呼び出す呪文(ラストオーダー)と共に、電磁加速されたゴーレムが磁気嵐と共にぶっ飛んで行った。


あまりに一瞬の出来事で理解出来た者は少年とその従者のみ。

魔物や林を消し飛ばした大地を穿つ一撃は、隣の山の麓まで貫通する巨大な一本道を形成した。

遅れて磁気嵐に弾かれたモヒカン達が降って来る。

本性を現したわねっ!


よくもっ、あたしとタッくんが建てた守り神のトーテムポールをっ!!

「ああ、あの入り口にあった出来損ないの案山子っぽい何か……」


多少は不憫に思ったが、ぶっちゃけ邪魔だったので清々した村民達。

村長はボケっとお尻を突き出したまま固まってるアホの子の子供パンツに、破れたスカートを覆ってやった。

お見苦しいものをお見せして申し訳ございません。


ほれ、いつまで腰を抜かしとるんじゃ。

お礼くらい言わんか、アホ娘。

なんか急にお尻が重くなってきて……。


そうか、戦闘を経験して大人の女にクラスチェンジしたか……。

ふむ、体内マナが汚染されてるのである。


早い話が呪いであるな。

えっ? 何の呪い?

石化である。

もうお尻が石になりかけているのである。

えええええええ!?
クソガキ、助けてやってもいいぞ。

うぅ、魔王に助けられるなんて……悔しいっ!


でも可憐な女神像として村に祀られるのはまだ早過ぎるぅ!!

この契約書にサインしろ。

よく分からないが、アホの子は言われた通り紙切れに自分の名前を署名した。

文字に淡い魔法光が灯る。

くっくっく、毎度あり。
少年はうつ伏せになっているルザリカの後方に回ると、丸出しの熊さんパンツをずり下ろした。

いやぁぁぁぁぁん!?


子供だからって、お姉さんにいやらしいことしちゃいけないんだぞっ!

患部に呪文が刻まれた絆創膏を貼る少年。

さらに術式促進のための印を結ぶ。

だんだんお尻が軽くなってきた……。

もう元に戻ってるぞ。

ただし、暫く猿のように赤く腫れあがる。

乙女の柔尻をプニプニと突かれ、悲鳴をあげながら慌ててパンツをはくルザリカ。

もぅお嫁にいけないよぉぉぉぉ!


絶対に許さんぞ、魔王!

冒険日記につけてやるぅ!!

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登場人物紹介

ルザリカ・バッカミール


世間知らずな田舎出身の冒険者。

実力が伴わない自信家。要するにヘタレ。

気持ちが前過ぎて勘違いばかり。


ありとあらゆるトラップにかかる才能(バカ)があり、生成したダンジョンのベータテスター(奴隷)として雇われる。

ムッソ・ゴルドスキー


見た目は少年だが、世界一のギルド社『ダンジョン屋』の社長。

金こそが全てというマネッサンス社会に君臨する絶対的な支配者。


ダンジョンを中心とした冒険者ビジネスの火付け役であり、その影響力は国も動かすほど。

頭の悪い人間をすぐに小馬鹿にし利用する。性格が悪い。

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