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文字数 2,024文字

三日目の朝、ルザリカはムッソに村中のガラクタ回収をさせられていた。
キリキリ働けよ、ポンコツ。
なんであたしがこんなことを……。

村長が自由に使っていいと言っていただろう。

そんなことも忘れたのか、バカめ。


俺様は寛大だからな、村の経済状況を察してサービスしてやってるんだぞ?

むしろ喜んで働くがいい。

よく分からないが、村民のためになることなのだろう。


ガラクタは村長の庭の女神像の前に集められた。

刃こぼれした年季の入った包丁、使わなくなった古い鍋の蓋、頭がもげてボロボロになった案山子、あちこちで使いまわされていたトイレ掃除用のスッポンなどなど。

本当に何もない村だな。まぁいい。
こんなの一体どうするの?
リサイクルである。
りさいくる??

じーさんの答えの意味が分かるはずもなく、ルザリカはムッソの行動をボケーっと見物した。

廃品ひとつひとつに札を貼り、それらを取り囲むように地面に魔法陣を描いていく。

最後に呪文を唱えるとガラクタの山が魔法陣に沈んでいった。


その一部始終をぽかーんと口を開けたまま、アホ丸出しの顔でルザリカは見送った。

魔術式収納術である。
説明しても分からないだろうが、気配りの出来るじーさんは補足した。

ちょっと! 女神像までっ!?

村の守り神にイタズラするなんて罰当たりなっ!


今日の晩御飯は抜きなんだからねっ!!

そう教えられ、そうされてきたのだろう。

アホにも分かるように教えてやろう。


この村のものは俺のもの。

おまえのものも俺のもの。


ドゥ~ユ~アンダ~スタン?

イングラン式魔術言語でバカにするムッソ。

ア、アホの子だと思ってバカにしてっ!

あたしのあられもない死体を見たからって結婚してあげないんだからっ!


そ~ゆ~あんたは好かんのかって?


……そんなロマンスのない告白なんて、あんまりよぉぉぉ!!

泣きべそかきながら抗議するルザリカ。
不憫な子である……。

涙を流せるのなら流してあげたいじーさんであった。

もちろん色んな意味で。


ムッソは回収した機械仕掛けの剣の柄で、持ち主の口に蓋をした。








今度は何をしでかす気!?

催事に使われる広場に移動し、再び魔法陣を描き始めたムッソに質問するルザリカ。

転送用のセーブポイントである。

アホに口で説明しても無駄だ。

さっさと乗れ。

促されるまま一同は魔法陣に乗った。

ムッソが魔術を発動し、視界が光に包まれる。

目がぁぁぁぁぁ!!

目が慣れるのに数分かかったが、どうやら別の場所へ転送されたようだ。


キョドっているルザリカの視界の片隅では、すでにムッソとGさんは次の作業に移っている。

二人がちゃっかり対ショック閃光防御用のサングラスを着用していたことに少女は気付くはずもなかった。


そこは巨大ワームと遭遇した森の広場。

爆発現場は巨大なクレーターになっていた。

ムッソは片手を地面につき、何やらブツブツ唱えながら穴の様子を見ている。

ま、またあの超でかい魔物退治するの?


どうしよう、おしっこ行きたくなってきた……。

離れた木の影から足を震わせながら尋ねる。

よほど怖かったらしい。

もう周辺に魔物は居ないのである。

全部この穴の中に入っておりますぞ。


後は蓋をして封印するだけである。

それを早く言ってよ!


チョロかったわね!

おまえがナンバーワンだ。

冷めた目で言い放ちながら、ムッソは魔法陣を起動させた。

続けて呪文詠唱が始まり、周囲が暗くなっていく。

あれ? もう夜?


……って、ぴぎゃああああああああ!!?

空に巨大な穴が開いていた。


大気を吸い込み、草花を吸い込み、光さえ吸い込む漆黒の渦。

ルザリカの髪が逆上がり、熊さんパンツもコンニチワ。


その渦の中心から何かが這い出ようとしている。

地球滅亡速報(メテオドライブインパクト)!!

超巨大な岩石が大地に静かに降臨する。

しかしこの巨大質量である。

風圧でルザリカは軽く吹っ飛んで行った。

山が降って来た??

木の枝にひっかかり、逆さまになった熊さんパンツが呟く。


ムッソが空中にバラまいた陰陽式の札が、意思を持っているかのように飛び回って巨大岩石の周囲に結界を構築していく。

田舎者の上にバカなルザリカには理解できないが、これも高度な術式を幾重も重ねた凄い職人芸なのである。

さすが社長!!


魔術、錬金術、風水術、陰陽術、精霊術を組み合わせた見事な業前!

たった三日の工期で一人でやってのけるのは世界中で社長だけですな!


これにてダンジョン仮設、完了であ~る!!

だ、ダンジョン??


もしかしてあんた達、ダンジョン作ってたの??

…………。
ルザリカのスライム脳に小慣れてきたムッソは当然のようにスルーし仕上げに入った。
大掘削螺旋刃(メガドリルスマッシャー)

ムッソの杖に仕込まれたインスタント魔術が巨大岩石を掘削する。

クレーター内部へと続くトンネルが生まれ、その内壁が仄かに光を帯び始めた。

精霊が明かり代わりになっているのである。


これで軽装備の初心者でも気軽にチャレンジ出来ますぞ。

おい、そこのアホ。

このダンジョンを攻略して来い。


ベータテストを始めるぞ。

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登場人物紹介

ルザリカ・バッカミール


世間知らずな田舎出身の冒険者。

実力が伴わない自信家。要するにヘタレ。

気持ちが前過ぎて勘違いばかり。


ありとあらゆるトラップにかかる才能(バカ)があり、生成したダンジョンのベータテスター(奴隷)として雇われる。

ムッソ・ゴルドスキー


見た目は少年だが、世界一のギルド社『ダンジョン屋』の社長。

金こそが全てというマネッサンス社会に君臨する絶対的な支配者。


ダンジョンを中心とした冒険者ビジネスの火付け役であり、その影響力は国も動かすほど。

頭の悪い人間をすぐに小馬鹿にし利用する。性格が悪い。

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