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文字数 3,125文字

こ、これがダンジョン……っ!!

クレーターの蓋になった巨大岩石、その隙間にぽっかり出来た入り口は坂道になっており、クレーター中心部に向かっているようだ。


初めてのダンジョンチャレンジの前に、ルザリカは冒険日記(絵日記)を付けようとポシェットをまさぐった。

はよ行けや。
ムッソに尻を蹴飛ばされ、急斜面をダンゴ虫のように転がっていくルザリカ。
ふむ。

浮かれた初心者用トラップとして、ここはこのまま残しておくか。

掘削して出来た坂道の終着点はクレーターの中心部――地下へ続く巨大な縦穴に繋がっており、ルザリカはそのまま落ちて行ったようだ。


ムッソは縦穴の周囲に魔術と錬金術を組み合わせた術式で螺旋階段を作りながら、じーさんと共にゆっくり底へと降りてゆく。


縦穴の底ではパンツ丸出しで頭から地面に突き刺さったルザリカが死んでいた。

はっ!?

あたしはいったい……!



うわぁぁぁぁん!


なぜか首と顔面が死にそうなくらい痛くなってきたぁぁぁぁ!!

ええい、寄るな。ばっちぃ!


これでも食っとけ!

涙と鼻水とよだれを垂らしながら迫ってくるルザリカの口に、ムッソは薬草を突っ込んだ。
あれ、痛みが……


うへへぇ、気持ち良くなってきたぁ♪

麻酔の調合にも使われているハーブである。


ただし副作用で気分がハイになり、ドMになるのである。

気持ち良くなったら、おしっこ行きたくなっちゃった♪

嬉ションかよ。


まぁ地下通路型ダンジョンだからな。

一定間隔で設置してやる。

最近は女性の冒険者も多いのである。


ニーズに答えるため我が社ではトイレ事情もちゃんと考慮しているのである。

安心するといいですぞ。

ムッソが壁をまさぐりながら周囲を一周する。
この辺だな。

風水を読むと壁に魔術で空洞を生成し、同時に収納魔術陣からトイレセットを召喚する。

じーさん曰く錬金術で元素変換しながら魔術で施工し、精霊術で全自動の風水式便器を設置したとか。


だが漏れそうになってたルザリカは聞く耳持たずトイレに駆け込んだ。

あはぁぁぁん♥
しばらくして、頬を赤く染めたルザリカがトイレから飛び出て来た。

ななな、何なの、このトイレはっ!?

おしっこした後、何かに舐められたんだけど!


思わず気持ち良くなっちゃったじゃないっ!

スライム式風水洗トイレも知らんのか、田舎者め。

スライムだとぉ!?


魔物じゃないかっ!

魔物であるが社長が精霊術と魔術で作った魔法生物である。

機械人形と同じように人工精霊に従って動くだけで、害はないですぞ。


むしろ紙要らずで清潔に、便秘に悩む女性にも人気なのである。

毒素も分解、体内マナも整ってスッキリしたはず。

トイレは冒険者を助ける貴重な回復ポイントである。


他にも落とし物を回収して宝箱に入れてくれたりと、スライムはダンジョン機能を支える労働力と言えますな。

そういえば顔ももう何ともない。

でも……初めてだったのに魔物に犯されるなんてっ!


冒険日記につけてやるぅぅぅ!!




一行はトイレポイントを後にし、曲がりくねった洞窟の奥へと歩みを進めた。
村の近くにこんなダンジョンがあったのね……。

おまえの脳ミソはスライム以下か?


ここは巨大ワームの棲み処だったところだぞ。

ひぃぃぃぃ!?

やだぁ! 死にたくないぃぃぃぃ!!

ルザリカは震え上がってムッソに抱き着いた。

もう2回死んでますぞ……。


大丈夫、巨大ワームはもう居ないのである。

それを早く言ってよ、じーさん!


今のはムッソを庇ってあげるためだったんだから、勘違いしないでよねっ!

魔物なんて怖くないんだからっ!

真っ赤になって慌てて離れるルザリカ。

白けた目で凝視するムッソ。

ほぉ?

では早速お手並み拝見といこうか。

大きな羽音と共に、頭上から何者かに襲われる。
きゃああああ!?

しかも1匹ではない。

先頭に続いて十数匹の群れが襲いかかってきた。

魔物化したコウモリですな。

群れで襲ってくるから気を付けた方がいいですぞ。

このこのこのっ!
剣を振り回して応戦するルザリカだが、ヘナチョコな太刀筋に当たるほど敵もヘッポコではなかった。

ちょっと、手伝いなさいよぉ!


ってゆーか、なんであんた達は襲われないの!?

助けたらテストにならんだろうが。
風水を読めば安地(安全地帯)も分かるのである。

つまり同族だからでしょ!


これだから魔王は……。

あのアホ、どれくらい死んだら治るか試してみるか。

しかし社長。

初心者用の雑魚で手こずり過ぎるとスケジュールが……。

それも一理あるな。

まさかここまでヘッポコとは俺様もビックリだ。


おい、アホ女。


その魔術機関は飾りか?

さっさと発動させて片付けろや。

魔術機関とはルザリカが振り回している剣にくっついた機械部品を指す。


それは冒険者の間で流行中のインスタント魔術が組み込まれた武器である。

勘違いした冒険者も強くなった気になれる優れ物なのだ。

使い方分かってたらとっくに使ってるわよ!


人のことアホアホ言っておきながら、そんなことも分からないの?

バーカバーカ!

今すぐまとめてリセットして、次のテストに連れて行ってやろうか……。

社長、それはまだ早いのである!

ルザリカ殿、その剣の魔術フォーマットはイングラン式である。

小学生でも分かる呪文を教えるので、吾輩の言う通りに操作するのである。


まず剣の鍔にあるレバーを引く!

言われた通りに操作するルザリカ。

剣から突き出たパイプ(?)から蒸気のようなものが吹き出す。


しかし同時にふたつの事が出来ない子なので、その間にコウモリにたかられ噛みつかれる。

うわぁぁん、痛い痛い!


おっぱい吸うなぁ!

まだ出ないんだからぁ!!

次にイングラン式呪文の詠唱。

吾輩に続くである。


ズィスイズアペェン!

じすいずあぺん!

刀身に魔法の光が灯る。

ムッソが杖で魔法陣を描く時と同じものだ。

その光で魔物を囲むように三角形を描くである。
うわぁん、邪魔しないでよ!
でたらめに振り回したせいで、空中に歪な魔法陣がいくつも描かれる。

ま、まぁいいである。

ある程度は認識してくれるはずである。


最後にプリセットされた術式を呼び出す呪文(ラストオーダー)三角修羅場(デッドトライアングル)を唱えるである!

でっどとらいあんぐるっ!!

ギリギリ三角形と判定された魔法陣が光り、それぞれから真空刃が発生する。

かまいたちに切り刻まれたコウモリが次々に落下していく。


無駄撃ちしたせいでオーバーヒートし、剣から大量の蒸気が吹き出される。

ふふふ、大したことなかったわねっ!
おまえがな。
蒸気の中から現れたルザリカは盛大に自爆しており、おっぱい丸出しでふんぞり返っていた。





ひっく……ひっく……。


これが目的だったのね!

冒険日記につけてやるぅ!!

ポロポロと泣きながら下手糞な絵日記をつけ始めるルザリカ。

おっぱいには霊符が貼られている。


しかしアホの子は魔物を倒して手に入れた宝石類を見てすぐに立ち直った。

これだけあればマイホームも建てられるわね。

都会に一軒家、それともボロい村長の家を建て替えてあげようかしら?


きっと村長、泣いて喜ぶぞぉ♪

小粒過ぎて宿屋に一泊すら出来ませんぞ……。
ほんと、おめでたいやつだな……。
魔物ってみんな宝石に変わるの?

ダンジョンの中だけである。


精霊術で風水をコントロール、陰陽術と錬金術を利用し、体内に蓄積したマナで宝石を生成する呪いを掛けているのである。


時間が経つほど熟成されて報酬も大きくなる半面、魔物も強力になっていく仕組みである。

真珠の養殖に近いですな。

ふぅん……。
理解したのか勘違いしているのか、とりあえず何かを察したルザリカがじーさんを見つめる。

わ、吾輩は魔物ではないですぞ?


こんな姿ではあるが人間である。

こいつはこのままの方が価値が高いんだ。


素人には分からんだろうが。

社長……?!
意味深な社長の発言に不安を覚える秘書であった。
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登場人物紹介

ルザリカ・バッカミール


世間知らずな田舎出身の冒険者。

実力が伴わない自信家。要するにヘタレ。

気持ちが前過ぎて勘違いばかり。


ありとあらゆるトラップにかかる才能(バカ)があり、生成したダンジョンのベータテスター(奴隷)として雇われる。

ムッソ・ゴルドスキー


見た目は少年だが、世界一のギルド社『ダンジョン屋』の社長。

金こそが全てというマネッサンス社会に君臨する絶対的な支配者。


ダンジョンを中心とした冒険者ビジネスの火付け役であり、その影響力は国も動かすほど。

頭の悪い人間をすぐに小馬鹿にし利用する。性格が悪い。

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