2:41 反撃開始

文字数 1,566文字

20階の執行役員室前、グレン・リヴァルの部下であり、民族解放戦線グングニルのメンバーの1人でもある、ガルティア共和国出身の青年チャンクは、役員室扉の前でアサルトライフルを構えてキョロキョロと周りを見ながら頼りなく立っていた。

(まだ、15、6歳くらいよね?どこの国の男かしら?)

(さぁ、ちょっと分からないな。アフリカ系だとは思うけど)

(しかし、テロリストにしては、なんか、随分ひ弱そうね)

(そうだね。ただのアーミーコスプレ好きの外国人だったら良いのだけど・・・)

柱の影から山極陽平と神坂結衣は、チャンクの様子をじっと伺った。

チャンクがアサルトライフルを持っているのを確認すると、山極陽平は柱を離れてそそくさと別の会議室に向かおうとした。

その山極陽平のシャツを、背中から結衣が掴んだ。

(どこ行くんですか!
まさか、ここまで来て怖気付いたの!?)

(違うって!
20階に来たのは、もう一つ理由があるんだよ!)

(理由って何よ!)

(後で言うよ!
神坂さんは奴を見ていて!
僕が戻ってくるまで、絶対飛び出さないでね!)

そう言って山極陽平は、自身のシャツを掴む神坂結衣の手を振り払って20階の暗闇の中に消えた。

(マジか・・・いきなり逃げ出すなんて、
やっぱり山極さんは、所詮、窓際君だったか・・・あの腰抜け野郎!)

神坂結衣は心の中で毒づくと、再びチャンクの様子を確認した。

恐らく、あの執行役員室の中に、谷本美里専務と風間人事部長が捕らえられている。

何とかしてあのテロリストを追い払って、2人を救わなければ!

すると、不思議にもチャンクはその場を離れて、ウロウロし始めた。

(・・・どうしたのかしら?)

そうすると、何かを見つけて執行役員室の入口扉から離れた。

(・・・トイレ?)

チャンクの姿が神坂結衣の視界から消えた。

(チャンス!!)

その間に、そろそろと神坂結衣は執行役員室入口扉に近づいた。

そして、ドアノブに手を掛けた。

そして、開けようとしたとき、

ガガガガガと、激しい音がして、神坂結衣の壁の上に穴が空いた。

「ダ・・・誰ダ!!」

さっきの男がいきなり戻ってきた。

(マジか!トイレ早すぎる!!)

「オ・・・オ前、サッキノ本番環境ルームノ集団ノ中ニ、居ナカッタゾ!一体、誰ダ!!」

(わ・・・私は・・・)

喋ろうとして、声が出ない、いつの間にか尻を床に付けて座っている。

立てない。

どうやら突然の銃撃と、死の恐怖の前に、腰が抜けてしまったらしい。

チャンクが辿々しく銃口を神坂結衣の顔面に向ける。

「あ・・・あわわ・・・」

神坂結衣が無意識に怯えの悲鳴を上げた。

チャンクが引き金に指をかける。

その時、

ガンッ!

神坂結衣が思わず目を瞑った。

・・・撃たれた!

そう思って神坂結衣は恐る恐る目を開けた。

目の前に白目を剥いたアフリカ人が、自分に向かってゆっくり倒れてくるのが見えた。

ドサッ・・・

チャンクはそのまま、神坂結衣に抱きつくように倒れ込んできた。

「ひ・・・ひいぃ!」

思わず神坂結衣は気絶したチャンクを蹴飛ばした。

「・・・ダメじゃないか、僕が戻ってくるまで飛び出すなって言ったのに」

その後ろで、ハンマーをチャンクの後頭部に振り下ろした姿勢の山極陽平が神坂結衣に言った。

「ま、テロリスト1人倒せたから、結果オーライかな。
注意の引き付け役、ご苦労さま」

そう言って山極陽平はハンマーを肩に担ぎ、神坂結衣の右手を取ると、手を引いて立ち上がらせた。

神坂結衣の足はガクガク震えている。

「そ・・・それは・・・?」

「防災備蓄品のハンマー。
20階の別会議室に保管している、これを取りに行ってたんだ。
本来は地震で建物が倒壊して、外に出られなくなった時とかのために、壁をぶち破るための道具なんだけど、まさかテロリストの後頭部を殴ることに使う事になるなんて、思っても見なかった」

しれっとした表情で山極陽平が言った。
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