無意味でくだらない仕事
文字数 1,485文字
神坂結衣は、山極陽平の後に着いて東帝品川スクエアビルを巡回した。巡回とは、オフィス中を点検しながら見回ることだと山極に教わった。
巡回場所は東帝データの11Fから20Fまで全部であった。
神坂結衣は、今の自分の状況から、何となく周りの同僚と顔を合わせるのが心苦しかった。
周りの人間は、大空を舞う大鷲のごとく優雅に情熱をもって仕事をしているのに、
今の自分は、よく分からない部署によく分からない理由で左遷され、会社から見放された社員として、よく分からない窓際族のビル管理課現場主任の後に着いてビルの中を引きずり回されている。
さながら市中引き回しの刑を受けた極悪人にされた気分だ。
※
「あの、これ、このオフィスの見回り、一体、何の意味があるんですか?」
ひたすらオフィスの中を散歩させられ続ける神坂結衣が山極陽平に尋ねた。
「巡回だよ。みんなが通る通路に障害物とかがあったら地震災害で外に避難する時に困るだろ?それに、防火シャッターが閉まる位置に物が置いてあったら、火事が起きたときにシャッターが閉まらなくなるし、そういうのを点検してるんだよ」
山極陽平はそう言ってひたすらビルの中を確認して回った。
いつ起こるか、本当に起こるかどうかも分からない地震災害や火災のために、機器の異常点検を繰り返す意味が分からなかった。
神坂結衣の仕事に対するモチベーションも、会社に対する愛着心も、急激に落下していく一方であった。
神坂結衣は、元自身の所属部署である国際決済部を通りかかった。
かつて自身が座っていた席には、知らない男が座っていた。
(あそこは、本当は私の席だったのに・・・)
悔しさのあまり神坂結衣は発狂しそうだった。
同じグループだった同僚達は、声もかけてこないし、目も合わせようとしない。
絶望的な焦燥感が神坂結衣を襲った。
一通りオフィスの中を全部巡回した後、山極陽平と神坂結衣は総務部ビル管理課の小部屋に戻った。
※
小部屋に戻り、一息つく。
巡回が終わり、他に特にやる事がない。
神坂結衣は、会社の定時が終わるまでひたすら椅子に座って時間が過ぎるのを待ち続けた。
(私は一体一日中何やってるんだろう?)
すると、山極陽平はおもむろに口を開いた。
「あと、12月31日日曜日の大晦日、夜間休日出勤してもらうから、よろしく」
「夜間休日出勤?」
大晦日の夜間に会社に出勤して、年末年始、会社に泊まって過ごせということだろうか。
「うん、屋上のエコボイドのガラス床がこないだの地震で崩れかけててね、割れると危ないから大晦日に修理してもらうんだ」
「エコボイドって何ですか?」
神坂結衣が初めて聞く単語だった。
「ビルの中央に吹き抜けがあるだろ?その吹き抜けのこと。
エコボイドは自然光を取り入れるためにあるんだけど、自然光を取り入れる屋上のガラス床にひびが入ってて危険なんだ。
だから、ビル設備業者に修理してもらう。
僕らはその立ち会いをしてビル設備業者が作業を完遂するまで点検する」
神坂結衣は、東帝品川スクエアビルの真ん中の天井が見える吹き抜けについて思い返していた。あれはエコボイドというのか・・・。
「作業は全部ビル設備業者にやってもらうから、僕らは何かあったときのために居ればいいだけ。ま、本来1人出勤すれば済む話なんだけど、神坂さんはビル管理課に来たばかりだからね、僕と一緒に大晦日出勤して経験を積んでもらう。じゃあ、頼んだよ」
そう言うと山極陽平は総務部ビル管理課の部屋を出た。
とある事情により、年末年始はプライベートの予定が全くない神坂結衣であったが、年末年始まで出勤させられることに、神坂結衣は心穏やかではなかった。
巡回場所は東帝データの11Fから20Fまで全部であった。
神坂結衣は、今の自分の状況から、何となく周りの同僚と顔を合わせるのが心苦しかった。
周りの人間は、大空を舞う大鷲のごとく優雅に情熱をもって仕事をしているのに、
今の自分は、よく分からない部署によく分からない理由で左遷され、会社から見放された社員として、よく分からない窓際族のビル管理課現場主任の後に着いてビルの中を引きずり回されている。
さながら市中引き回しの刑を受けた極悪人にされた気分だ。
※
「あの、これ、このオフィスの見回り、一体、何の意味があるんですか?」
ひたすらオフィスの中を散歩させられ続ける神坂結衣が山極陽平に尋ねた。
「巡回だよ。みんなが通る通路に障害物とかがあったら地震災害で外に避難する時に困るだろ?それに、防火シャッターが閉まる位置に物が置いてあったら、火事が起きたときにシャッターが閉まらなくなるし、そういうのを点検してるんだよ」
山極陽平はそう言ってひたすらビルの中を確認して回った。
いつ起こるか、本当に起こるかどうかも分からない地震災害や火災のために、機器の異常点検を繰り返す意味が分からなかった。
神坂結衣の仕事に対するモチベーションも、会社に対する愛着心も、急激に落下していく一方であった。
神坂結衣は、元自身の所属部署である国際決済部を通りかかった。
かつて自身が座っていた席には、知らない男が座っていた。
(あそこは、本当は私の席だったのに・・・)
悔しさのあまり神坂結衣は発狂しそうだった。
同じグループだった同僚達は、声もかけてこないし、目も合わせようとしない。
絶望的な焦燥感が神坂結衣を襲った。
一通りオフィスの中を全部巡回した後、山極陽平と神坂結衣は総務部ビル管理課の小部屋に戻った。
※
小部屋に戻り、一息つく。
巡回が終わり、他に特にやる事がない。
神坂結衣は、会社の定時が終わるまでひたすら椅子に座って時間が過ぎるのを待ち続けた。
(私は一体一日中何やってるんだろう?)
すると、山極陽平はおもむろに口を開いた。
「あと、12月31日日曜日の大晦日、夜間休日出勤してもらうから、よろしく」
「夜間休日出勤?」
大晦日の夜間に会社に出勤して、年末年始、会社に泊まって過ごせということだろうか。
「うん、屋上のエコボイドのガラス床がこないだの地震で崩れかけててね、割れると危ないから大晦日に修理してもらうんだ」
「エコボイドって何ですか?」
神坂結衣が初めて聞く単語だった。
「ビルの中央に吹き抜けがあるだろ?その吹き抜けのこと。
エコボイドは自然光を取り入れるためにあるんだけど、自然光を取り入れる屋上のガラス床にひびが入ってて危険なんだ。
だから、ビル設備業者に修理してもらう。
僕らはその立ち会いをしてビル設備業者が作業を完遂するまで点検する」
神坂結衣は、東帝品川スクエアビルの真ん中の天井が見える吹き抜けについて思い返していた。あれはエコボイドというのか・・・。
「作業は全部ビル設備業者にやってもらうから、僕らは何かあったときのために居ればいいだけ。ま、本来1人出勤すれば済む話なんだけど、神坂さんはビル管理課に来たばかりだからね、僕と一緒に大晦日出勤して経験を積んでもらう。じゃあ、頼んだよ」
そう言うと山極陽平は総務部ビル管理課の部屋を出た。
とある事情により、年末年始はプライベートの予定が全くない神坂結衣であったが、年末年始まで出勤させられることに、神坂結衣は心穏やかではなかった。