この世界における高校野球

文字数 584文字

 西暦二〇××年。高校野球連盟(高野連)は一つの決断を下した。
 高校野球公式戦への女子部員の出場を認めることにしたのだ。
 少子化と野球人気の凋落による、慢性的な部員減。女子部員を参加可能とするこの決定はそれを解消するだけでなく、男女の機会均等を求める社会全体の風潮にも合致し、新規の野球ファンを獲得する一助にもなる。発案者である高野連のお偉いさんは、そう言って胸を張ったものである。
 それから十年。彼の予想は半ば当たり、半ば外れた。
 女子を補うことで廃部寸前だったチームなどは息を吹き返し、参加高の減少には歯止めがかかった。しかし、野球人気の長期低落傾向にはさしたる影響を及ぼさなかった。
 もちろんそこには、金満球団の一人勝ちがすっかり定着した日本プロ野球の退廃や、他のスポーツの興隆、娯楽の多様化細分化など様々な要因が絡むわけで、高校野球だけが少し努力したからと言って即座に流れが変わるわけもない。
 ただ、女子部員の公式戦参加がファンの増加をもたらさなかった理由として、スターやアイドルと呼ぶべき女子選手が現れなかったことは――それはまったくもって誰の責任でもないのだが――指摘できるだろう。
 高校生ともなると男女の肉体差はやはり大きく、現在に至っても、春夏の甲子園出場を果たすチームにはいまだに女子のレギュラー一人さえ存在したことはなかったのである。
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登場人物紹介

宇野梓

高校一年生。ピッチャー。各種変化球を使いこなし、オーバースローでもサイドスローでもアンダースローでも投げられ、コントロールは抜群。

実は、病気で急逝したプロ野球の名投手が生まれ変わった子。

小笠原優

高校一年生。キャッチャー。キャッチングの技術と配球の組み立ては極めてハイレベル。

実は、昨年夏甲子園で準優勝したチームのキャプテンが年下の幼なじみと入れ替わった状態。

青田啓子

高校三年生。ファースト。身体は弱いが、チームの指揮に関してはプロ級。

実は、プロ野球二軍監督が事故死して少女の身体に脳移植された状態。

森弥生

高校一年生。セカンド。お嬢様ながらガッツはチームナンバーワン。シュアなバッティングも持ち味。

実は、小学生時代に野球少年と入れ替わった少女が数年ぶりに元に戻った状態。

鮎川一美

高校三年生。サード。バッティングの天才。

実は、昨年夏の甲子園で優勝したチームの四番打者が、家系に代々伝わる呪いで性転換した状態。

田口雪絵

高校一年生。ショート。野球センスに秀でたオールラウンドプレーヤー。

実は、関西の名門校へ野球留学するはずだった少年がリトルリーグ時代にライバルだった少女と身体を交換された状態。

村上美紀

高校二年生。レフト。梓の幼なじみ。試合になると人が変わったように巧くなる。

実は、試合の際にはプロ野球選手だった祖父(存命中)を憑依させている。梓およびその他数人の事情も知っている。

シャーロット・L・ミラー

高校二年生。センター。アメリカからの留学生で、恵まれた身体能力を有し、肩の強さは男子に引けを取らない。

実は、滞在先の小学六年生男子と一日のうち十二時間を入れ替わっている。本人はスポーツに苦手意識を持っているが、諸事情あって少年が彼女の身体で野球をすることになった。

藤田真理乃

高校一年生。ライト。初心者で性格はおとなしいが、走攻守いずれも高水準。

実は、学園経営者一族の少年。一族と契約している魔神に採用され、いざという時に魔法少女になるだけでなく、常日頃から少女として暮らすことになってしまっている。

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