1. メール

文字数 2,732文字

「お前、今地元に帰ってきてるか? 今日の夜に久々にショウタと会う予定をしているんだが、お前も来てくれないか?」

一月一日の昼前。僕の携帯に、友人のキョウからのメールが入ってきた。
一月一日。元旦。
年末年始の休暇中だった僕は、仕事場がある地方から地元に帰省していた。そして姉夫婦の実家、というよりは義兄の実家の一室でゴロゴロしていた。
帰ってくるならうちで寝泊まりすればいいと、休暇前に姉夫婦から言われた。その言葉に甘える形で、今は姉夫婦の実家に寝泊まりしている。
そんな時に届いた友人からのメールだが、正直このメールを見た時は誘いを断ろうと思った。
キョウは小学三年生の時から仲が良く、大人になった今でも交流がある。友人の少ない僕にとって、一番の親友と言える存在だ。
そんなキョウからの誘いとはいえど、今日は元旦である。流石に家から出る気にはならなかった。
それに今日中には終わらせる予定の、執筆途中の小説にも手をつけないといけない。
そう考えると、最初は断ろうと考えた。でもメールの内容に気になる点があり、すぐには断ることができなかった。
まず一つに、キョウが会うと言っている相手の名前だ。
ショウタか。
懐かしい。
ショウタも、キョウと同様に小学校の時から付き合いのある、僕の数少ない友人だった一人だ。
ショウタと出会ったのは、小学一年生の時だった。
キョウと出会ったのが小学三年生の時だから、僕の交流関係の中では一番古い友人だ。
僕が通っていた小学校には、出席番号を苗字の五十音順で決める取り決めがある。そして教室での席の位置は、出席番号の順番だった。
それで僕とショウタの苗字の頭文字が、五十音順では近かった為に、必然的に教室での席が近かった。
学校での生活は、クラスメイト同士でペアやグループを作らされることがよくある。
クラス内での活動の係、体育の授業で二人作業、給食を一緒に食べる相手、掃除当番。
僕らはその時から、生粋のコミュニケーション不全で人見知りだった。僕は今でもそれは変わらないし、それはショウタも恐らく変わらないだろう。
クラスの中で親しい存在を作ることができなかった奴は、教室の角に吹き溜まる埃みたいに搔き寄せられる。だから出席番号と席が近く、人付き合いが苦手で孤立した僕達が絡むのも必然だった。
それから小学一年生の時は、二人で行動することが多くなった。そうしていると必然的に、仲が良くなっていった。小学二年生以降から別々のクラスになったが、その仲は続いていった。
以降僕はキョウと出会ったり、ショウタ自身は幼馴染のリンやヒロミなどと遊び出した。それで自身の友人をお互いに紹介しあっては、輪が広がっていった。結局は確か八人ほどのグループになっていたと思う。
でも小学四年生ぐらいの頃には、僕とショウタは学校でイジメられるようになっていた。
僕の場合、生まれながらのしがれた声とその発音の悪さ、また実家が変な宗教に入っていることが原因だった。僕の過去について、ここでは深掘りしないでおくよ。話の内容が逸れるし、今更悲劇の主人公ぶるつもりもないしね。
ショウタについては、昔から過眠症だったことから寝坊して学校を遅刻してくることが多かった。それでいて基本的に温厚な人柄だったから、調子に乗った奴らが嫌がらせをしてくるようになったんだ。
僕がカッターナイフで首元を切り付けられて、ショウタが心配してきてくれた。するとショウタが挑発されて上靴が無くなる。僕も一緒に探してやっていると、今度は僕の上靴に画鋲が入っていて、更に翌日には階段から突き落とされる。
中学校は小学校のメンツがそのまま上がる為に、そんなイジメは中学校を卒業するまで続いた。
僕は精神的に限界が近づいていた。でもショウタは僕と会う度に、冗談を言っては笑わせようとしてくれた。イジメられているのは、ショウタも同じなのに。
中学校の授業後には、肩書きの為に入った美術部に少しだけ顔を出す。同様に入部していたキョウやリンやヒロミのグループの話に、片隅で適当にあいづちを打つ。
三十分もしないうちに二人とも学校を出る。ショウタとは家も近かったから、途中まで二人で帰った。道中ではショウタが明るく冗談を言って、僕が面倒くさくなりながら突っ込むというのを繰り返した。
僕は家の宗教活動の為に早く帰らないといけなかった。でもショウタは僕が帰るギリギリの時間まで付き合ってくれた。道端でたむろっては、ショウタ自身が読んでいるライトノベルや、プレイしている戦争ゲームの話を聞かせてくれた。
当時の僕はショウタの話を鬱陶しく感じていたけど、精神的に限界が近づいていた僕にとってはほんの少しの救いになっていたと思う。
お互い傷だらけになりながら道端でたむろったのは、戦場で兵士が一休みするような感覚に似ている気がした。だから僕は、なんだかんだでショウタのことを戦友のように思っていた。
でも中学校の卒業間際に僕が精神崩壊して、その後はお互い別の高校に通うようになってからは会っていなかった。
話が長くなったが、ショウタとはそういう経緯がある。だから久々に、ショウタに会うのも悪くない。
そう思ったのが一つ。
そしてもう一つの理由は、キョウが送ってきたメールの文章だった。
キョウは気遣いができる奴だから、遊びや飲み食いの誘いの時はこっちの都合を優先してくれる。
でも今回のメールでは、キョウが珍しく誘いに来るように懇願している内容だった。
キョウとは長い付き合いだからわかるが、こういう口調の時は何かしら緊急性のある事態であることが多い。
何か急を要する内容ならば、行った方がいいよな。

そんなことを考えていると、僕の携帯がけたたましく鳴り出して振動し始めた。
見ると電話の着信で、相手の名前はキョウだった。
「あれ? この声はどなた様でいらっしゃいますでしょうか~?」
電話に出ると、キョウがいつものようにボケをかましてくる。もう声変わりは終わっているとツッコミを入れると、ゲラゲラと向こうで笑っている。
でもしばらくすると、真面目な口調で話だした。
「メール、見てくれたか? 今日ショウタと会うんだが、お前にも来てほしいんだ」
失礼かもしれないが、普段のキョウを知っていると違和感を感じるほどに、キョウは真面目な口調で誘いに乗ってくれるように頼んでくる。
キョウが真面目な口調になることも、誘いに乗るように言ってくることも大変珍しいことだ。
これはもしや、ただごとではない内容なのかもしれない。
僕は誘いに乗ることにし、それをキョウに伝える。
すると、キョウは話を続けてきた。
「そうか、ありがとな。それでなんだが、昼間は空いてるか?
ショウタに会う前に、ある程度お前に話しておきたいことがあるんだ」

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