手紙

文字数 1,453文字

ショウタへ

お疲れ様。そっちはどうだ? 元気にしてるか?
自分はまぁ、相変わらずといったところだよ。
この間の夜飯は付き合ってくれてありがとう。久々にショウタに会って話せて、すごく懐かしかった。
夜の居酒屋でのバイトは続けているのか? イラストや動画の作成は進んでるか?
お前はきっと否定するだろうけど、自分から見たらお前はよく頑張っていると思うよ。
「このメンツの中では宮城が一番安定した生活してるよな」
この間キョウと三人で夜飯を食った時に、ショウタは自分にそう言ってたっけな。
その時も言ったけど、自分だってあんまり褒められるようなことはしてないさ。
昼間は作業着を油まみれにしながら重い鋼材を持ち上げているし、夜はよく同僚と飲みに行っているんだ。
同僚と飲む時はお互いの部署の愚痴を言ったり聞いたりして、ひどい時は日付が変わってからも飲み続けて日々の鬱憤を晴らしているんだ。タバコも吸っているし、決して褒められるような生活はしてないよ。
生活環境だけじゃなくて、自分の人間性に関しても同じさ。
あまり口にはしないけど、ほんとのとこはああしておけばって、昔も今も後悔ばっかりしてるよ。
それに今でも人混みが苦手なんだ。通勤時に満員電車なんかに乗ると無数の目線を向けられているように思えて、冷や汗や吐き気が止まらなくなる。
この間なんて、就活の見学で来た高校生達の目線に吐いてしまいそうになったぐらいなんだ。
会社では気に入らない人間に少しずつ心身を汚染されていく。それでも社員の連携を崩さない為にその場で多くは声で言わず、一日一時間半の残業を必ずこなす。
そんな感じで昼間は鬱憤をため込みながら隠れて努力して、夜は同僚と食べたり飲んだりしながら毒吐く。それでも成仏できない想いがあれば、家でパソコンやルーズリーフに小説を書き殴る。
そんなことを繰り返していると、たまに自己嫌悪に陥って涙がこぼれそうになる有様さ。
でも自分自身のことは自分が一番わかっているし、小説を書くことが自分にとっての武器だって思っている。
それに周りの同僚とか、キョウや皆みたいな地元の奴らとか、他にも色んな人達のおかげで比較的この世界で息をし続けることができているんだ。
それらのおかげで、自分は生きていけているだけなんだよ。
結局何が言いたいんだよって感じだよな。自分語りなんかしてごめんな。
頑張っているお前に気の利いた励ましの一つや二つ言ってやりたいけど、自分はそれを上手く言えるような人間じゃないからさ。結局自分が言えることは、お前の好きなようにしたらいい、ということだけなんだ。
ショウタは、やりたいことがないって言っていたっけな。なら焦らずに、これから見つけていけばいいさ。どうにかなるさって言い聞かせて、休めるうちに休んで、それから動けばいいさ。
世界が無慈悲に思えたり、他人が薄情に感じたりするかもな。でもそれは世界や他人に望みを託すからこそ思えるものなんだ。それだけお前が優しい奴だということだよ。自分はお前のそういうところは嫌いじゃないよ。
もう無理だって思う時があるかもな。お前が言ってたように、自分もそれ以外の人間も大概辛いさ。でもほんとにキツイ時はメールや電話くれ。また食べたり飲んだりしに行こう。
長くなりすぎたな。これぐらいで筆を下ろさせてもらうよ。

ショウタが、生きていく言い訳や死ねない理由、ショウタにとっての武器とか、逃げ込める居場所とか、もう死んだっていいと思える夜とか、報われた朝の日の光とか、希望と呼べるような物を見つけられますように。







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