4.夜はもう終わり

文字数 1,200文字

そのまま僕達三人は、時間も忘れて居酒屋で飲み交わした。
昔話に花が咲いて、傍らに置いてある酒の中身を何度も変えながら駄弁り続ける。
流石に飲み過ぎたのか、僕は腕が赤くなり始めたから酒を水に変えたけど。
駄弁っている最中も、ショウタは自虐の言葉を挟み続けた。その言葉に僕は相変わらず何も言えず、俯いて水を飲むだけだった。
キョウがなんとか場の雰囲気を和ませようとしてくれていたのか、キョウ自身からボケや下ネタ、馬鹿話を繰り出す。それにショウタが乗って大笑いする。
僕はそんなキョウとショウタに申し訳なく感じながら、その二人の話に笑う。
話の間で、今の各々がプライベートでやりたいこと、また励んでいることについての話題になった。
キョウは相変わらずに、ミュージシャンになるための活動に励んでいて、僕も小説執筆の話をする。
するとショウタは、やりたいことは特にないが、休みの日などの時間にしていることを教えてくれた。
話を聞くに、ネットで話題の綺麗なイラストや、知人からの依頼で簡単な動画の編集をしているらしい。
キョウはさほど反応が薄かった。でも僕はイラストを見たり描いたりするのは嫌いじゃないし、動画編集なども興味がない訳ではなかった。
だからその話題は僕が率先してショウタに深く聞いて会話を続けた。
イラストは何で描いているんだ? タブレットか。
動画編集はどんなアプリを使っているんだ? そんなアプリがあるんだな。
今度、それを見させてくれるか? いいのか、よっしゃ。
そんなことをしていると、いつの間にか外が明るくなり始めていた。
昼夜逆転しているショウタが大きくあくびをして、そろそろお開きにするかとなる。
ある程度身支度をして、滅茶苦茶になっていたテーブルを大まかに片付ける。グラスに入った最後の水一杯を飲み干すと、一気に現実へと引き戻されたように感じる。
外套を纏ってから会計を済まし、店を出た。冬の早朝は、手先が凍るほどに冷え込んでいた。
ショウタは始発の電車で帰るからと、駅前の広場まで三人で歩く。
ショウタは歩いている間に、何度も今日は誘ってくれてありがとうと言ってくる。
それに対して、僕とキョウがその都度、こちらこそ付き合ってくれてありがとうと返した。
駅前の広場に着くと、そこで解散となった。
ショウタが僕とキョウに手を振って駅の改札に向かって歩いていく。
これが最後の別れ、そんな風にはなりたくないな。僕はアルコールが回っている頭の中で、ふとそんなことを考えた。
「いずれまた自分も帰ってくるから、その時まで体には気をつけろよ」
僕は立ち去っていくショウタの背中に向かって、声を掛けた。
思い返すと、今までの僕からしたらあまり言わないことを口走ったな。
でもそれが、その時の僕の本心だった。
ショウタは僕の方を少し向いて、軽く手を振るとまた歩き出した。
その時のショウタの背中は、どこか悲しさと疲労を孕んでいて、透けているように見えた。
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