5. 大人の時間

文字数 1,216文字

ショウタと会ってから二ヶ月が経った、二月中旬。赤い外の空が徐々に暗くなり始めた平日の夕方。
僕は地方の工場の事務所で、パソコンのキーボードを打ち続けている。
今年の二月に入ってから、僕もまた仕事内容が変わった。
まず僕は最初、この地方の工場に入った時は事務処理関係の仕事をしていた。だけど去年の一月から、肉体労働の内容に変わっていた。
それなりに仕事環境に慣れようとして、運動はさほど得意ではない僕でも努力して、肉体労働についていった。おかげで肉体労働の現場でも役割を果たせるようになり、現場の先輩達には可愛がってもらえている。
でも今年の二月から元の事務処理関係の仕事に戻ることになったんだ。
肉体労働の現場は人手不足だから、現場の先輩達は僕の異動に反対してさ。勤め先の工場長より更に上の、重役の立場の社員に頭を下げに行くほどね。
でも人手不足は事務処理関係の仕事も同じだから、結果的に僕がその二つの仕事を兼務することになったんだ。
昼間は肉体労働で汗を流して、以前よりも格段に増えた事務処理の仕事は残業して終わらせる。
また今年は新卒採用で後輩が入社してくるらしく、その新入社員への仕事の研修も僕がやることになっている。
だからその研修の資料作りにも勤しまなくてはいけないんだ。
だから周りの事務処理の仕事をする人達が定時の時間で帰ることができても、僕にはそれができない状態になった。
でも僕は車を持っていないから、あまりに遅い時間まで工場に残っているとバスや電車が無くなり、帰れなくなってしまう。
だから一定の時間になったら、パソコンを鞄に入れて退勤する。夕飯を済ませて家に帰ってから、更に事務処理をするしかなかった。
同じく残業していて仲良くしてもらっている同僚の先輩がいるから、一緒に帰っては飲食店に入り、お互いに仕事の話や愚痴をこぼしながら夕飯を済ませる。
たまに金曜日にはその先輩と一緒に飲みに行っては、日付が変わる時間帯まで飲み明かしている時もあるけど。
それで一緒に酒を飲んだりタバコを吸ったりしてから帰宅して、残った仕事を済ませる。
そんな日々がここ数週間は続いている。
家に帰ってからも仕事をしているから、ここ最近はしっかりと休みがとれていない。疲れも当然取れてないんだよね。
だから徐々に、頭の回転速度が遅くなっているのを感じる。

そんなことを考えていると、頭の中がボォーッとしてきた。一旦キーボードを叩く手を止めてから、気晴らしにペットボトルのお茶を飲む。
ペットボトルをディスクに置くと、ディスクの椅子の背もたれに体重を預けてみた。
薄暗くて誰もいない、事務所の蛍光灯の灯りを目的もなく眺める。
思春期を生き抜いて、大人になってたどり着いた先がこの状態だとはな。そう考えると笑いと悲しみが混同して、ぐちゃぐちゃになった気持ちに襲われる。
この頃の僕は、地元で頑張っているショウタのことを完璧に忘れてしまうほど、仕事の忙しさで日々が埋没していたのだった。
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