第6話

文字数 891文字

 最後の家族は、アパートに住んでいて、当日留守にしていた林という家族だった。林克行(当時四十歳)林喜美子(当時三十六歳)行斗(当時八歳)の三人家族。十年前は、翌日になってから警察が訪問した。喜美子が対応し、「留守にしていた時間は家族ででかけていた」と話し、帰宅してからも不審者などは見ておらず、「事件があったことも知らなかった」と話した。
 そのすぐあとにアパートは取り壊され、今は八王子に住んでいるようだ。鈴木の運転で向かう。
「このあたりだな」
 地図を見ながら岩山田が言う。近くのコインパーキングに車を停めて、住宅街を歩いて林の家を探す。アパートの老朽化に伴う取り壊しと同時に、空き家になっていた喜美子の実家に引っ越してきたらしい。
「ここですね」
 築年数は古そうだが、きれいな外観の家だった。庭もよく手入れがされており、花々が色とりどりに咲いている。花壇というより、庭全体に足の踏み場がないほど花が咲いていた。庭いじりが趣味なのかもしれない。
 チャイムを鳴らすが反応がない。
「留守ですかね?」
「少し待ってみるか? 八王子まで来たし」
 玄関の前で二人して腕組みをし、少し傾き始めたじりじりとした西日に耐えていると、中年の女性と若い男性が歩いて来た。
 女性は怪訝な表情で近寄ってくる。
「あの、うちに何か御用ですか?」
 林喜美子か。少しよれた灰色のTシャツ。脇に汗染みが浮いている。髪を後ろで一つに結っており、くたびれた印象だ。スーツの男二人が腕組みして家の前にいたら恐怖だろうな、と鈴木は少し笑いそうになった。しかし、そんな思いはあっという間に消え去ることになる。
「こういうものです」
 岩山田が手帳を見せるやいなや、喜美子は大きな声を出した。
「見つかったんですか! 主人は、どこにいるんですか!」
 明らかに興奮している。
「どこにいる、とはどういう意味ですか?」
 岩山田が静かに聞いた。
「あ、違うんですか? はあ、すいません。そうですよね、こんな早いわけがない」
「何のことでしょう?」
「実は今、主人の捜索願を警察に出してきたところなんです」
「ええ!」
 岩山田と鈴木は顔を見合わせた。


つづく
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